研究対象その2

 温暖化予測における不確定要素の解明と、気候モデルの改良に向けて

2001年に発表されたIPCC第3次報告書では、地球の温暖化による2100年の地表面気温の上昇予測値が各国の研究機関ごとに違い、1.4℃から5.8℃までのばらつきがあります。その大きな要因のひとつは、「雲のフィードバック効果」がまだはっきりと解明されていないからだと言われています。對馬研究員は、1年間の全球地表面温度の変化と、人工衛星による雲の観測データを解析することで、雲のフィードバック効果を解明する糸口をつかみ、気候モデルが有する問題と、改善の必要性を提示しました。


地球温暖化予測研究領域 研究員
對馬 洋子(つしま・ようこ)

 「雲のフィードバック効果」とは

地球というものを宇宙空間から眺めたとき、雲は地球の温度のバランスを保つ上で、いくつかの重要な役割を果たしています。まず、雲は日射を反射し、地球を冷やしています。一方、地球は吸収した日射の熱エネルギーを射出しようとします。雲がそれをいったん吸収し、自身の温度に応じた熱を外部に放射します。宇宙空間には、最初にもらったエネルギーよりも少ない熱エネルギーが出されるわけで、結果として地球を暖めています。地球の温暖化が進むと、雲のこのような光学特性が変化して、地表面温度の変化にさらなる影響を及ぼす可能*¹があります。これが「雲のフィードバック効果」です。
 1年間の地球の平均気温の変化を、一種の「温暖化」に見立てた研究

地球の温暖化に伴って、雲がどのようなフィードバックをしているのかということは、まだほとんど解明されておらず、気候モデルにも十分に再現されていません。このことが、各国の研究機関が発表している昇温の予測値に4℃程度のばらつきがみられる大きな要因となっています。
この不確定性を減らすために、現在の地球における1年間の温度変化に着目しました。1月から7月で、全球平均の地表面温度は3.3℃も上昇しています。この上昇を、一種の「温暖化」と仮定して、実際の観測数値から、雲がどのようなフィードバックをしているのかを探り、気候モデルと比較すれば、モデルとの相違点を検証することができると考えたのです。人工衛星から得られた単位時間当たりの雲の放射量データを全球分まるごと平均し、その解析を行なって、年変動における雲の放射フィードバックを見積もりました。これを気候モデルと比較すると、観測値とは異なる傾向が得られました。
 雲のフィードバックを領域解析し、気候モデルの改良の糸口が見つかる

観測データと気候モデルで、日射の反射に対する雲のフィードバックはなぜ強まる方向に働いているのでしょうか。このことを調べるために、全球の雲水量*2の分布を解析しました。雲水量に着目したのは、雲の日射の反射はこの量に大きく影響されるからです。気候モデルにおける1月と7月の雲水量の分布を解析したところ気温が0℃〜−15℃の範囲において、雲水量の溜まりが見られ、この高度での雲水量の変化が雲のフィードバックに対する影響が大きいことが分かりました。この「雲水の溜まり」の理由として、現在の気候モデルではマイナス0℃以上はすべて「水」、マイナス15℃以下はすべて氷というように、気温に応じて配分されています。さらに雲のその層から除かれる効率は通常は水雲よりも氷雲の方が大きいと言われており、モデルではそう設定されています。その場合、上層から落下してきた氷雲が下層で溶け、溜まるのです。しかし実際は、同じ気温の高度にある水雲でも、もともと水であるものに比べて上層から落下してきた氷雲が下層で水雲になったものは粒が大きく、より速く落下するはずです。この点について雲の相の取り扱いをより「物理的」にすればモデルのバイアスを解消できる可能性が出てきました。モデルの放射フィードバックを評価する方法を提示したことと、その方法で発見されたモデルのバイアス解消についての示唆を示したことが、この研究の意義であると考えています。今後も、IPCC第4次評価報告書のスケジュールを意識しながら研究を進め、温暖化問題解決の一翼を担っていきたいと考えています。

■年変動における雲の放射フィードバック
 

ERBE・・・観測値
CCSR/NIES、MPI、UKMO・・・気候モデルを用い温暖化予測をしている世界の代表的な3つの研究機関
fc (緑色)・・・「日射の反射」と「熱放射の吸収」の両方の効果に対する雲のフィードバックを合わせたもの / fcs (水色)・・・「日射の反射」/ fcl (赤)・・・「熱放射」
タテ軸は、地球を暖める方向(+)、および冷やす方向(−)を表している。
  • 雲が持つ役割の一つである「日射の反射」については・・・
    観測値では、気温の上昇に伴うその効果の変化は非常に小さいですが、その効果が小さくなる(地球を暖める)方向に働いています。
    3種類のモデルでは、いずれも、その逆(より地球を冷やす方向)の値が出ています。
  • もう一つの役割である「熱放射の吸収」については・・・
    観測値では、地球を暖める効果の変化は非常に小さいですが、その効果が弱まる(地球を冷やす)方向に働いていることを示しています。
    3種類のモデルでは、いずれも、その逆(より地球を暖める方向)の値が出ています。

※1 近い将来、地球の基本的な気候条件に変化がなく、CO2だけが現在の2倍になると仮定すると、地球表面の平均気温は約2℃上昇すると言われています。しかし、この気温上昇によって雲の分布や光学特性が変わり、水蒸気量は増加して、地表面の平均気温はさらに大きく上昇すると考えられています。
※2 近い将来、地球の基本的な気候条件に変化がなく、CO2だけが現在の2倍になると仮定すると、地球表面の平均気温は約2℃上昇すると言われています。しかし、この気温上昇によって雲の分布や光学特性が変わり、水蒸気量は増加して、地表面の平均気温はさらに大きく上昇すると考えられています。


5 Frontier Newsletter/No.23
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