| 海洋生態系をより詳細に表現した新モデルによる予測研究 |
私たちの研究グループでは、地球の温暖化によってプランクトンなどの海の生態系とCO2の循環がどのように変化し、結果として海のCO2吸収のしかたがどう変わるのかを予測する研究を行っています。これまでは、プランクトンの活動過程を簡略化して組み込んだ海洋物質循環モデルを用いていました。しかし、現在開発を進めている新しい海洋物質循環モデルは、プランクトンの種を区別したことで、海洋生態系や沈降粒子をより詳細に表現したものになります。その理由の一つは、海の表層部が暖められることで、栄養塩が少なく暖かい海を好む「円石藻」というプランクトンが増殖することで海中のCO2濃度がさらに上昇し*4、その結果、海が大気中のCO2を吸収できる量が減少する可能性があるからです。
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| 海洋炭素循環モデルの、国際的な研究計画組織への参加 |
2001年のIPCC第3次報告書では、世界各国の10の研究グループの見積もり値を使って、「2ギガトン±0.6」という海の二酸化炭素吸収量が発表されました。この10の研究グループの一つが私たちのグループで、メンバーの一人は、大気・海洋分野では数少ない第3次報告書のContributing
Author(寄稿執筆者)です。
また、炭素循環を研究している各国のグループが連携し、「OCMIP*5」という国際的な研究計画組織を立ち上げています。この組織の中で使用するモデルと計算方法、解析結果の表現などを決定するタスクチームに、私たちが参加しています。
IPCC第4次報告書では、前述しました[海洋生態系や沈降粒子をより詳細に表現した、新しい海洋物質循環モデル]を使った人為起源CO2吸収量の予測値が発表されることになります。
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| モデルが明らかにする、プランクトンが駆動する炭素循環 |
私たちのグループが現在取り組んでいる新しい研究の一つに、400〜1500mの海洋深層部で誕生し、成長の段階で表層付近への移住を行う「カイアシ」という動物プランクトンに着目した実験があります。春から夏にかけて海の表層付近で、植物プランクトンを摂取しながら成虫になった彼らは、産卵期を迎える秋には再び海洋深層部に戻っていきます。マリンスノーの約10%が、カイアシの季節移住によって行われることが、生態系モデルを使った数値計算によって解明することができました。今後は、地球温暖化による魚介類の生態や個体数の変化についても、研究していきたいと考えています。
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海洋における、
炭素循環のイメージ図 |
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大気海洋間の
CO2分圧差
(単位はppm)
海洋のCO2濃度が高く、CO2が大気に放出されていて、高緯度のマイナスの値が海洋がCO2を吸っていることになります。 |
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| ※1 |
1ギガトン=10億トン |
| ※2 |
植物プランクトンにより生産された有機物の一部は生物体を構成し、一部は海中に溶存する有機物となり、一部は粒子態のまま海洋深層へと沈降していき、最終的には分解されて無機物となり、やがて再び植物プランクトンに利用される。こうしたいくつもの過程の集積を「物質循環」と呼ぶ。
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| ※3 |
解説
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海洋の生態系と炭素循環過程を解明することが、地球変動予測の研究においてなぜ重要なのか |
| 大気中に存在するCO2のおよそ50倍もの量を、海が内包していると考えられている。植物プランクトンをはじめとする海の生態系が、このことに深く寄与している。植物プランクトンは海中の栄養塩(植物プランクトンの栄養になる窒素やリン酸、シリカなどのこと)を取り込み、太陽光を使って光合成を行い、有機物を生産している。この光合成の過程において、海中のCO2がプランクトンに吸収される。そのため、海中のCO2濃度が低くなり、大気から海へとCO2が溶解しやすくなる。植物プランクトンはやがて死骸となって、あるいは動物プランクトンに捕食されたあとの糞として、海底に沈んでいく(マリンスノーと呼ばれる)。この過程でCO2も同時に海底へと運ばれていき、海の表層部と深層部にCO2濃度の差が生まれる。もし、このようなプランクトンの活動がなく、海中のCO2濃度が均質化している状態なら、大気中のCO2量は現在の2倍になっていると試算される。 |
| ※4 |
円石藻は、炭酸カルシウムから成る特徴的な円盤状のプレートによって、細胞が覆われている。円石藻が炭酸カルシウムを生成する段階で、一緒に二酸化炭素をつくり出し、海水の二酸化炭素分圧を高めてしまうのである。 |
| ※5 |
海洋炭素循環モデル相互比較プロジェクト |
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