| はるか昔の気候が、なぜわかるのか・・・? |
はるか昔の気候変動を推察・検証するには、当時の地球の様子を知るための指標となるものが必要です。例えば、氷河や氷床*1に保存されている昔の泡状の空気や氷、花粉などは重要な指標となります。気泡の大気成分の分析の結果、大気中の二酸化炭素(CO2)量は、2万年前の氷河期には現在の半分ほどであったこと、産業革命以降急激に増加していることなどがわかったのです。ほかにも、掘削された海底の堆積物から、かつてその海域に棲んでいたプランクトンの種類や堆積物を化学分析することで、当時の気候や海流の状態をつかむことができます。2006年より慣熟航海を予定している海洋科学技術センターの地球深部探査船「ちきゅう」*2も、過去の気候環境変動データの充実に大きな役割を果たすことが期待されています。
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| 地球システムモデルで、過去、現在、未来をみる。 |
では、過去の気候変動の証拠は、どのように将来の地球温暖化予測に生かされるのでしょうか。一つは、地球の自然の(人の手が入らない)気候変動の性質をよく理解する助けになることです。例えば、過去50万年のデータをみると、気温、海水温、氷床体積(海水準)、大気中CO2量などが大きな幅で同調するように変動していて、今のような温暖期と氷河期が交互に訪れたのがわかります(図1)。この氷河期サイクルのメカニズムを探るため私たちのグループでは詳細にウェーブレット解析をして前後関係を発表しました。しかし、これだけでは、何が気候変動の直接的原因で、どのような増幅効果などのメカニズムが働いていたのか、はっきりしません。そこで、大気、海洋、氷床、炭素循環などを要素とする過去でも現在でも通用する地球システムモデルを構築して様々な想定で数値実験を行なうことを精力的にすすめています。地球システムモデル構築は、昨年度文部科学省が採択した「人、自然、地球共生プロジェクト」の地球フロンティア研究システムの課題の一貫でもあり、地球温暖化予測でもやはり必要となります。私たちのグループでは、氷河時代から今日に至る氷床の消滅と氷河期終嫣のプロセスを探る一方で、今後予想される地球温暖化による海面水準の上昇の予測も行なっていきます。
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| 第4次評価報告書では、古気候研究の重要性がいっそう鮮明に |
過去のデータは地球温暖化予測に用いるモデルを直接検証する材料にも用いられています。
私たちのグループは、今から9000年〜6000年前の気候を複数の気候モデルを使ってシミュレーションするという国際的共同研究に参加しました。当時のサハラ砂漠では降雨量が多くその大部分が植物に覆われていたことが、さまざまな証拠から明らかにされていますが、大気大循環モデルだけでは、どのモデルも砂漠に十分な雨を降らせることはできなかったのです。このことは'98年に論文として発表しIPCC第3次評価報告書にもとりあげられました。その後、海流の変化や大陸の植生分布の変化を考慮するとある程度砂漠を緑にする雨を降らせることができることがわかってきましたので、IPCC第4次評価報告書にむけて論文をまとめていく予定です。
近年、古気候研究の重要性が各国の政策決定者にも理解され、加えて、その研究手法も発達してきたことなどから、2007年の公表が予定されているIPCC第4次評価報告書においては、古気候が独立した「章」として初めて扱われることも検討されています。温暖化の問題が現実のこととして迫りつつある今、過去に実際に起こった気候変動メカニズムを検証することがますます重要になると考えています。
■[古気候研究グループ]が取り組んだ、
「氷期―間氷期サイクル」のデータ解析結果の一例
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| 深海水温、気温、CO2濃度、潮位など、過去四期の氷期終結時におけるウェーブレット変換の詳細です。紺色は、氷期終結時における各要素の最大変化のタイミングを示しています。この解析によると氷期終結時には、大気中のCO2濃度と潮位(氷床体積)の変化との間隔は7千年であることが確認できます。これに対し、10万年の信号全体に対する位相を推定するフーリエ解析による結果は1万5千年でした。また、潮位の変化は他の3要素(南極大陸の気温、南半球の海水温、CO2濃度)の変化の後に起こりますが、その速度は他の要素に比べて非常に速いことがわかります。 |
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| ※1 |
大陸規模の氷河。現代の地球においては、グリーンランドと南極のみに、氷床が存在する。 |
| ※2 |
水深2,500m(最終目標4,000m)の深海域で稼動し、海底下7,000mを掘り抜く能力を備え、地球環境変動、地殻変動過程と地球内の物質循環の解明、地下生物圏と地殻内流体の解明の研究などを目的とした科学探査船。 |
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