上流と下流で一致しない黒潮の流量 黒潮は世界で最も速い海流の一つで、東シナ海からトカラ海峡を通って本州南岸を流れています。低緯度の熱帯地方から暖かい海水を大量に運ぶので、日本を含む広い地域の気候に影響を及ぼしています。また、フェリーやタンカーの海運の効率や、水産資源の増減や漁場の移動など、海洋産業にも大きな影響を与えています。 黒潮の存在は非常に古くから認識されていましたが、本格的に定量的な計測が行われるようになったのは、ここ10〜20年ほどのことです。観測によると、本州南岸で黒潮が運ぶ海水の量(流量)は、上流の東シナ海での流量と一致せず、約2倍と多くなっているようです。このことは、河川に例えると、本州南岸の黒潮に合流する支流がどこかにあることを予想させます。つい最近の観測で、奄美大島南東で中層に北東向きの流れがあることが明らかになったことから、支流は南西諸島の東側を北上している可能性が高くなりました。また、高分解能の数値モデル計算などからも、同様な結果が得られています。 沖縄南東海域の北東向き流れの確認 しかし、奄美大島南東の上流域にあたる沖縄南東海域でも、同じく北東向きの平均流が存在するかどうかは不明でした。外洋にはゆっくりと西に進む「中規模渦」と呼ばれる海洋擾乱が無数に存在しているので、太平洋の西端にあたる南西諸島の東側海域の流速場は、その影響を受けて非常に激しく時間変動しています。このため、長期にわたる観測がなかった沖縄南東海域では、平均流の存在を確かめることができませんでした。 そこで、観測フロンティア気候変動研究領域の日本沿海予測実験(JCOPE)グループは、圧力計付き転倒音響測深器(PIES)*1および係留式音響ドップラー流向流速鉛直分布計(MADCP)*2を沖縄南東海域に多数設置し、長期間の連続係留観測を行いました(図1、2)。平成12年11月から平成13年8月までの約9ヵ月間の連続係留観測資料をもとに、過去の観測データを参照して解析して、沖縄南東の測定断面(図1の点線)を横切る流量の時系列を求めました(図3)。中規模渦の影響で時間変動は予想通り激しく、流量が南西向きになっている時期もあれば、そのわずか1〜2ヵ月後には毎秒2080万m3にも達する強い北東流になったりしていました。 こういった時間変動を長期平均で取り除くことで、この海域の平均的な流れが初めて捉えられ、流量が北東向きに毎秒610万m3であることが確かめられました。この流れは、1秒ごとに東京ドーム5杯分の海水を北東に運ぶのに相当しています。また、日本で最も流量が多い信濃川が、この海域に1万本も流れている換算になります。
南西諸島の東側の流れの全貌解明に向けて 今回の観測結果によって、莫大な量の海水が、奄美大島南東部と同じく、沖縄の南東海域でも北東に運ばれていることが確認されました。この観測断面を横切る流量は東シナ海の黒潮の約4分の1で、本州南岸の黒潮に合流する流れの一部を捉えたものだと考えられます。 JCOPEグループでは、この流れが台湾東方から続いてい る流れであるかどうかを確認するために、沖縄のさらに上流側の宮古島の南東海域においても平成14年12月から係留観測を開始しています(図4)。また、この流れの季節や年ごとの変動や、より沖側での流速場や詳細な鉛直構造の解明を目指して、長崎海洋気象台、長崎大学水産学部、鹿児島大学水産学部などと連携して観測を行っています。 南西諸島の東側を通って本州南岸の黒潮に合流する海流系の全貌が近い将来明らかになれば、黒潮によって運ばれる暖水や卵稚魚などの経路や起源がより正確に把握できるようになるでしょう。これによって、気候変動への詳細な影響評価や、海洋産業への応用が期待できます。