これまでに知られている大気(海上風)と海洋(海面水温)の関係 気候の形成を担う海洋の重要性は海洋自身が持つ大きな熱慣性からもたらされる長い記憶媒体としての特性から認識されています。熱帯の海面水温分布が中緯度の気候に与える影響については多くの研究がこれまでに進んできました。新聞に掲載されるエルニーニョ/ラニーニャやインド洋ダイポールの日本の天候への影響といったものはその代表例と言えます。しかし、中緯度の海洋が中緯度の気候にどう関わるかはまだよくわかっていませんでした。 従来の大気と海洋の関係に対する概念では、中緯度の海洋は大気の強制力に対して受動的とされていました。海面から大気への潜熱放出が中緯度の海面水温を形成する主要因であり、いわば、「お茶を冷ます」のと同じ原理が海洋上で働いていると考えられて、「風が強いと水温が低い」という関係が知られています。一般にお茶の温度が口から吹く風の強さに影響を与えることはありませんが、現実の海洋では、水温分布が海上風に影響を与えることも考えられます。しかし、これまでに中緯度における海から空への影響は観測的に明らかにされていませんでした。 衛星観測データがもたらした大気(海上風)と海洋(海面水温)の関係の新発見 南北方向の水温差は、例えば黒潮と親潮の間で顕著に大きくなっています。このような海域は水温フロントと呼ばれ、西部北太平洋に限らず、熱帯域からの暖水を運ぶ流れと極域からの冷水を運ぶ流れが出会うところで生じ、大西洋のメキシコ湾流の北側やアルゼンチン沖のブラジル海流の南側などでも見られます。 我々は中緯度海洋の特徴であるこの水温フロントに着目し、人工衛星を使った観測結果の解析から、「相対的に温かい海の上では風が強く、冷たい海では風が弱い」という新たな大気と海洋の関係を見いだすことに成功しました。図1は1998年と2001年における熱帯降雨観測衛星(TRMM)による海面水温と海上風速の観測結果を示しています。日本周辺海域の海面水温は黒潮の影響を強く受けており、2001年には東海沖や日本東方海上で黒潮が蛇行することにより周辺に比べて3度ほど水温が低い海域が現れています(それぞれ黒と白の矢印で示されています)。そして、同じ海域の海上風速は周辺に比べて1m/sほど弱くなっています。1998年では北緯34東経146度付近で黒潮が蛇行し、相対的に低い水温が北緯35度から33度くらいまで南下しています。この冷たい海域でも風速は周辺に比べて1〜2m/s程度弱いことが示されています。 このような観測事実は大気(海上風速)と海洋(海面水温)の新たな関係の発見です。大気から海洋への影響である「お茶を冷ます」原理による「冷たい海の上で風は強い」と逆の関係の存在は、海洋から大気への影響があることを強く示唆します。これは従来の概念を否定するものではなく、中緯度の大気と海洋の関係は一方通行ではなく、双方向であることを観測から指摘しています。人工衛星の観測は全球で行われているので、前述のいずれの水温フロントでも海洋から大気への影響の存在が示唆されています。