特集 地球環境と大気汚染
アジアの大気汚染とバイオマスバーニングの影響
大気は、私たちの地球をとりまく気体の層です。大気の成分やその変動は、私たちにさまざまな形で影響を及ぼします。大気汚染の深刻化が叫ばれる中、このような大気汚染物質の放出の実態を把握し、その影響を調べることは、温暖化などの気候変動や大気組成変動といった地球環境問題に取り組むためには重要なことです。今号では、この大気汚染と気候の関係について、最新の研究成果をご紹介致します。
大気組成変動予測研究領域は、NASAによるアジア・太平洋地域の大気化学観測に参加し、オゾン分布の変動をモデル解析しました。日本にも大きな影響を与え、今後ますます地球環境への影響も強くなると予測されるアジア地域の大気汚染の様子を、モデル解析図をもとに解説致します。
地球フロンティア研究システム 大気組成変動予測研究領域長
秋元肇

大気汚染と地球環境問題―最近の傾向―

 地球環境問題として重要課題となっている気候変動や大気質変動は、人間活動に基づく広い意味での大気汚染物質の放出による大気組成の変化がその根本的原因となっています。従ってこれらの問題を解決するための対策を講じる上では、大気汚染物質の放出の実態とその影響を解明することが急務です。図1は最近30年間の北半球における大陸別の窒素酸化物(NOx)の放出トレンドを示したものです(Akimoto, 2003)。この図では北米には米国とカナダが、ヨーロッパにはロシアと中近東が含まれ、アジアには東アジア・東南アジア・南アジアが含まれています。図1に見られるように北米からの放出量とヨーロッパからの放出量は1970-1980年代にはほぼ拮抗しており、増加ないしは横ばいでしたが、1990年代に入ってヨーロッパからの放出量は、西欧における厳しいNOx規制が功を奏して明らかに減少しています。これに対してアジアからの放出量は、1970年代には世界に対する寄与はわずかなものでしたが、その後急速に増加し1990年代の中頃には北米やヨーロッパの放出量を上回るようになりました。この傾向は少なくとも今後20年程度は続くものと思われ、21世紀の前半はアジアの寄与がますます強くなることが予測されています。このことは決してNOxだけに限らず、二酸化炭素やエアロゾルについても同様で、アジアのインパクトを正しく評価し、その対策を講ずることが、地球温暖化をはじめとする地球環境問題の解決のキーとなります。



図1 北米、ヨーロッパ、アジアの各大陸からの人為起源NOx排出量の経年変化。

近年のアジア地域の大気汚染の影響


 アジアにおける大気汚染物質の放出量の増加は、地球規模で気候変動に大きな影響を及ぼすと同時に、アジア地域自身の大気質に大きな変化をもたらし、我が国の大気環境に深刻な影響を与えるおそれがあります。図2は2001年3月の我が国を含む東アジアにおける地表付近のオゾン分布の変動を領域モデルで再現したものです(Zhang et al., 2003)。この時期米国のNASA によるTRACE-Pと呼ばれるアジア・太平洋における航空機による大気化学観測が実施され、地球フロンティア研究システムの大気組成グループもこれに参加して、モデル解析を担当しました。図2に見られるように、この時期には東南アジア・大陸部のインドシナ半島に高濃度オゾンの中心があり、ここから中国・華南地方を経て、日本列島にまで高濃度オゾンの帯が延びているのが分かります。
  インドシナ半島の高濃度オゾンの原因は、バイオマスバーニング(主として農業廃棄物燃焼)による大気汚染がその原因です。中国・華南地方では化石燃料燃焼による大気汚染で更にオゾンが生成しています。特に最後の2日間にはこうした高濃度オゾンのプルームが本州の南半分に達し、我が国の環境基準である60ppbを越えているばかりでなく、75ppb以上のオゾンが長距離輸送により我が国にやってきています。こうした現象が、我が国の最近の光化学スモッグの再発をもたらしているのは明らかです。ちなみに図2では青の線でバイオマスバーニングに起因するオゾンの割合を示しており、我が国では10%程度がその影響を受けていることが分かります。このように中国ばかりでなく東南アジアを含むアジアの大気汚染物質の放出量の増加が、我が国にとっては脅威であることが見て取れます。


図2 モデル計算による2001年3月の地上付近オゾンの水平分布と
バイオマスバーニングの寄与のパーセント(青の等高線)。

参考文献
Akimoto, H., Global air quality and pollution, Science, 302,1716-1719, 2003.

Zhang, M.-G., I. Uno, G.R. Carmichael, H. Akimoto, et al.,Large-scale structure of trace gas and aerosoldistribution over the western Pacific Ocean duringthe transport and chemical evolution over the pacific(TRACE-P) experiment, J. Geophys. Res., 108, D21,8820, doi: 10.1029/ 2002JD002946, 2003.
Frontier Newsletter/No.25
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