本田研究員の出張報告
2004年9月1〜3日にノルウェーのベルゲンで開催されたビヤークネス100年記念大会「高緯度の気候変化」に参加しました。欧州を中心に約300名の参加があり、北大西洋を中心とした最新の高緯度気候研究に関する講演と活発な議論がなされました。本大会主催のビヤークネス気候研究センターが主に取り組んでいる北大西洋の鉛直循環及び炭素循環と気候変化、高解像度モデルによる古気候の再現等が話題の中心で、プロジェクト絡みの発表が多数を占めました。
参加者の多くはポスター発表で、想定を大幅に上回る応募があったらしくぎゅうぎゅう詰めの会場でしたが、開催期間を通じて熱心な議論が交されていました。当プログラムからは本田・高谷両研究員が参加し、地球環境フロンティア研究センターの他プログラムからも複数の参加がありました。ほとんどが北大西洋域に関する研究発表の中で、それぞれ北太平洋やユーラシアなどの中高緯度の気候変化に関する研究発表を行ないました。尚、本大会に合わせて実施された氷河観察の学術ツアーでは、氷河の消長のメカニズムや近年の温暖化との関わりなど詳しい解説を受け、実際氷河を目にしながら気候変動の一端を垣間見ることができました。

氷河に吸い込まれていく?
参加者たち
(写真提供:立花義裕氏)

久芳研究員の出張報告
7月11日から国際雲モデリングワークショップに参加するためドイツのハンブルグに1週間滞在しました。大規模な観測で得られたデータを使ってのモデルの検証が主目的です。一般講演だけでなく、グループに分かれての議論で必要なデータの取得に対しての協力の約束などが得られました。翌週は国際雲降水学会に参加するためにイタリアのボローニャに移動しました。雲物理関連の話だけで1週間という充実した会議でした。筆者はこれまでビン法の微物理モデルに与える初期雲粒粒径分布をパーセルモデルを使って雲凝結核(CCN)からLagrange流に計算してきましたが、それを3次元非静力学モデルに導入するのは困難であるため、初期雲粒粒径分布を求めるパラメタリゼーションを開発して紹介しました。参加者同士で話をしてみると共通の問題を抱えていることが多く、日本では得られない連帯感を感じました。


岩渕研究員の出張報告
8月23日から一週間、韓国釜山にて開催された国際放射学会2004に参加しました。この会議は大気放射学関連の最大規模の国際シンポジウムであり、この分野で現在抱える問題について徹底した議論が行なわれました。特に印象的だったのは全球大気大循環モデルにサブグリッドスケールの雲の放射効果を取り入れることで、放射収支の地域的分布が変わるという研究発表でした。降水分布などへの影響も考えられ、日本の気候モデルでもでもこの効果を取り入れる必要性を感じました。雲を含む大気中の三次元放射伝達に関する研究発表を行ないました。多くの研究者から有益なコメントを得ることができ、充実した会議でした。

今年から新たに着任した入江仁士博士およびドナルド・ルーカス博士を紹介します。
入江博士は3月まで国立環境研究所において、北極オゾン層を破壊するプロセスの中で中心的な役割を果たす雲(極成層圏雲)がどのように形成するのかという問題に取り組んでいました。
この研究の主な特色は環境省の人工衛星搭載大気センサ(ADEOS/ILAS)のデータと雲物理モデルを組み合わせてきたことです。このような経験を活かし、地球環境フロンティア研究センターでは、人工衛星データの解析を柱として大気組成の時間的・空間的変動を調べ、地球規模の環境問題の対策への貢献を目指したい、とのことです。ルーカス博士は5月の着任前まではマサチューセッツ工科大学において、重要な生物起源硫黄化合物であるDMS(硫化ジメチル)に関する研究を様々なコンピュータモデルを用いて行なっていました。地球環境フロンティア研究センターでは、エアロゾルの粒径分布を考慮した全球三次元化学気候モデルを用い、対流圏における二次エアロゾル量の推測を行なう計画です。
2004年4月より、生態系変動予測研究プログラムに加わった、小林秀樹研究員を紹介します。2004年3月に学位を取得し、4月から生態系変動予測研究プログラムで研究を始めています。大学学部では、物理学科で物性物理学を勉強し、大学院では、工学分野の研究室でリモートセンシングによる陸上植生のモニタリング方法について研究してきました。現在は、生態系分野のプログラムで研究する機会をいただき、自分自身の知見をさらに広げようと考えています。博士課程では、東南アジアで森林火災などによって発生する煙が、植物の光合成に必要な日射をどの程度減少させ、さらにその減少が植物の純一次生産量の増減にどのように寄与するかについて、衛星データを用いて広域に評価しました。東アジア・東南アジアの大気汚染はほかの地域と比べても特に深刻です。したがって、この影響による日射環境の変化は、長期的にみて植物の炭素吸収量にも影響を及ぼす可能性があります。生態系変動予測研究プログラムでは、グループリーダーのデニス・ダイ博士とともにアジア全域で日射量の変化と植物の炭素吸収量との関係を調べていく予定です。

對馬研究員の出張報告
8月23日から8月28日まで韓国、釜山で開かれた、International Radiation Symposiumに出席しました。放射に関する様々な分野の専門家が4年に一度一堂に会するこの会議に参加し、ポスター発表を行いました。米国航空宇宙局(NASA)のWielicki氏から「同様の年変動の解析をCERESデータでもやりたい」と言われ、「衛星データの違いの影響は興味があるので、何か結果がでたらぜひ知らせてほしい」と喜んで答えました。夜の懇親会では地球流体学研究所(GFDL)のRamaswamy氏からは、「K-1モデルの低感度版、高感度版解析にその後進展があったか?」と聞かれました。他の研究所のモデル研究では、CO2倍増による地球全体の地表気温の上昇はGFDLは2.9度、米国大気研究センター(NCAR)は2.7度と、非常に近い値になったということでした。しかし雲の振る舞いとしては、GFDLでは下層雲が増えるのに対し、NCARでは下層雲が減るそうで、気候感度が似ていても理由はモデルごとに違うことが大いに考えられます。気候感度に対する短波、長波の寄与の内訳を調べることから始まり、雲のフィードバックのメカニズムの比較解析は興味深いテーマです。更に、モデルの温暖化における雲の応答の違いと、モデルの現在気候での雲分布やフィードバックの違いを関連づけることができたら、温暖化感度の不確定をつきとめる手がかりになるでしょう。これからの研究がますます楽しみです。

次世代モデル開発グループの活動を紹介します。
大気モデルサブグループでは、非静力学・正二十面体格子モデルNICAMを開発しています。雲物理過程や放射過程が既に実装されており、今後水平格子約3.5kmの解像度で水惑星実験を行なう予定です。今年度内にはエアロゾルモデルを実装し、AMIP-like実験や気候感度実験等を行なうことが目標です。それと同時に、正二十面体格子における非負の移流スキームの検討や、物理過程(対流パラメタリゼーション、雲物理過程、混合層スキーム)の検討、改良も行なっています。海洋モデルサブグループでは、海に満ちている、数kmから数十kmスケールを持つ中規模渦の、気候システムにおける役割について研究しています。中規模渦をとらえるためには、地球全体を細かい格子で覆わなければなりません。そこで、数値的に効率の良い立方体格子を用いた新しい海洋モデルの開発に取り組んでいます。現在、比較的粗い解像度でのテストを行ないつつ、将来の高解像度気候計算への準備をしています。また、東大気候センターとの協力のもと、既存のモデルを用いて、中規模渦が大きな役割を果たしている、南大洋とラブラドル海の領域モデルを作り、これらの領域での中規模渦の役割を研究しています。

 
Frontier Newsletter/No.26
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