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平成16年8月1日付けで、和田英太郎博士が生態系変動予測研究プログラムの新プログラムディレクターに着任しました。このポストは、1999年10月の発足以来、東京大学生産技術研究所教授の安岡善文博士が、兼任で務めてきましたが、2004年3月に安岡博士が同ポストを退職してからは、松野太郎地球環境フロンティア研究センター長が兼任し、その研究活動を推進してきました。和田新プログラムディレクターのこれまでの活動と、今後の生態系変動予測研究プログラムの活動を紹介いたします。 |
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プログラムディレクター
和田英太郎
1939年生まれ。東京教育大学理学研究博士課程修了(理学博士)。1967年東京大学海洋研究所助手、1976年三菱化成生命科学研究所室長・部長、1991年京都大学生態学研究センター教授・センター長、2001年総合地球環境学研究所教授、主幹。一貫して同位体生物地球化学・同位体生態学の研究に従事、研究対象は広く海洋・陸域(水系・湖沼・森林・農耕地)をカバーしている。2004年8月1日より地球環境フロンティア研究センター、生態系変動予測研究プログラムディレクターに就任。海洋学会岡田賞、日本地球化学会賞、地球化学研究協会賞(三宅賞)を受賞、京都大学名誉教授、ロシア科学アカデミーシベリア地区第一回栄誉博士号。
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2004年8月1日から専任のプログラムディレクターになりました。よろしくお願い致します。このプログラムは、1999年10月1日に発足し、ほぼ5年の年月が経とうとしています。従いまして、私は、ちょうど第2期、5年間のはじめに着任したことになります。現在、生態系変動予測研究プログラムでは、以下のような研究プロジェクトが進行しています。
1)陸域生産系―大気の相互作用に注目した炭素循環モデル(Sim-CYCLE)を高度化するために、これに窒素循環
モデルを結合する。また温暖化に伴う植生分布の変化を予測するモデル、個体ベースの森林動態モデル、統合モデル等を開発する研究。
2)地球温暖化、気候変動への海洋生態系の寄与を評価する海洋生態系炭素循環モデルの開発や、逆に海洋生態系変動の検出とその予測モデルを構築する研究。
3)衛星画像のデータをモデル化し、植生と気候の相互作
用について高度化したデータセットを提示するリモートセンシングの研究。
などです。
陸域にしろ、海洋にしろ、生態系はとても複雑な系のため解析が難しく、その研究は、科学の歴史の中でも、また地球環境問題の研究の中でも遅れが目立ちますが、このプログラムでは、分野の草創期にもかかわらず、なかなかの成果を挙げていると評価しています。ここで、地球環境問題に関連して、生態学の分野、特に文科省関係ではどのようなプロジェクトが行われたのか、私自身の10年史を兼ねて、簡単に紹介し、現行のプロジェクトの私なりの位置づけをしてみたいと思います。
我国の生態学が文科省の下で生態系にまつわる地球環境問題の本格的なプロジェクトを実施したのは、1997年度に始まったIGBP-MEXT,
Second Term,「陸域生態系の地球環境変化に対する応答(Response of Terrestrial WatershedEcosystems
to Global Change)」です。私が京都大学生態学研究センターに移って7年目のことでした。センターの建物が滋賀県大津市の文化ゾーンに建てられた頃です。このプロジェクトは、IGBP-GCTE
Terrestrial Ecosystem in Monsoon Asia(TEMA)の一環として5年間に渡って行われました。プロジェクトリーダーは私で、実質的なサブリーダーは、現在我々のプログラムのサブリーダーでもある北海道大学の甲山隆司教授(現IGBPの日本Science
Comitteeメンバー)、事務局は、当時の名古屋大学大気水圏科学研究所にありました。水系を一枚の葉→枝→一本の樹木→森林→土壌→渓流→湖の軸に沿って空間的に拡大させ、大気CO2の上昇に対する水系生態系の応答を研究しました。この我々のプロジェクトの3年目の秋に、生態系変動予測研究領域が当時の地球フロンティア研究システムの中に発足したことになります。
IGBPは、International Geosphere-Biosphere Programmeの略で、地球圏−生物圏国際共同研究計画と呼ばれ、1991年に開始され、11の領域に渡って大気、陸域、海域など色々な場で炭素循環を中心とする調査研究とモデル化が試みられました。現在、生態系変動予測研究プログラムの若手研究者は、多少なりともこの国際共同研究に関係したり、この研究計画の流れの中で育った人たちが多いと思われます。このIGBP-MEXTと平行して、「人間と自然の相互作用系を文理連携で進める学振未来開拓」のプロジェクトリーダーや「創世的基礎研究(新プロ)生物多様性」のプロジェクトのコアメンバーにもなりました。京都大学生態学研究センターのセンター長とこれら三つのプロジェクトの推進が重なり、目の回るような事態となりましたが、地球環境−炭素,
窒素サイクル−生物多様性−人間社会を包括した地球環境問題の勉強をすることができました。琵琶湖−淀川水系の流域モデル構築のプロジェクト(未来開拓)は、総合地球環境学研究所での継続を含めて8年間に渡って同じ若年メンバーと続け、7年目からようやく人間と社会の相互作用環なるものの研究方法が身についたと感じています。このような10年間以上にわたるプロジェクトの推進や組織の立ち上げの経験をベ
ースにして生態系変動予測研究プログラムの更なる充実と新しい視点を加味した展開をしていきたいと念じています。
下の図は、生態系変動予測研究プログラムの中で、現在進行形であるプロジェクトを、私のこれまでの海洋や陸を含めた調査研究や、プロジェクト研究の経験からまとめた概念図の上に乗せて、各プロジェクトの位置づけをしたものです。赤字は、今後新しく加味できればと思っている事柄のキーワードに相当しています。
これまでプロジェクトから私が学んだ要点を書いておきます。
1)プロジェクトの課題名をつけることは比較的易しい。
しかし明らかにすべき具体的な目的に対する作業仮説と具体的な方法論をまとめること(ロードマップをつくること)は、複雑でプロセスが解明されていない生態システムを研究対象とした場合、きわめて難しい事柄である。
2)学際的な融合は、個人の頭の中でのみ可能であり、統合は連携でやっていくしかない。各人が他の分野を理
解する程度に比例して連携はうまく行くようになる。
3)生物地球科学、生態学に関する応用・基礎研究は定式化、モデル化することによって適応的管理(計画→実行→
検証→行動サイクル)に関連付けられ、指標や環境容量などの提案につながる。
地球シミュレータやリモートセンシングを方法論とする生態系の研究は、人力で予測不可能な時空間場について新しい局面を提示すると思われます。モデルの検証はGISや高感度分析法によって時間積分的な変化を追うことが有力な方法となるでしょう。私の専門である高解像度の安定同位体測定法はそのような手法のひとつであると思われます。このようなことを考えながら、これからの第2フェーズに入った生態系変動予測研究プログラムを推進していきたいと思っています。生態系は複雑である為、数十年から数百年のタイムスケールでの中長期の変動に関しては多くのことが依然として判っていません。これまでの成果を踏み台として、1)生態系の基本プロセスの理解とモデル化、2)大気―海洋統合モデルへの生態系モデルの統合、3)生態系の変動と人間活動の相互作用系の解明に資することを三つの柱として、現場の実態を踏まえた生態系予測モデルの構築を目指したいと思っています。この生態系変動予測研究プログラム推進の中から次世代のフロンティアを背負う若手が輩出することを強く希望しています。
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