Newsletter No.5 January-1999 

「大気組成変動予測に向けて」


地球フロンティア研究システム
大気組成変動予測研究領域長


(東京大学先端科学技術研究センター教授)秋 元 肇

 地球温暖化・気候変動、オゾン層破壊、酸性雨など現在問題となっている地球環境問題の多くは、人間活動に起因する大気組成の変動が直接の引き金になっており、こうした変動のメカニズムを明らかにし、将来予測の精度を向上させることが、地球環境問題の解決に向けての対策を考える上で不可欠です。さらに、現在起こりつつある大気組成の変動は、これまでまだ一般に知られていない地球環境問題をもたらす可能性もあり、そうした問題に早期に警告を発することも、大気組成変動研究の大きな役割と考えております。

 地球フロンティア研究システム「大気組成変動予測研究領域」では、こうしたことを念頭に、当面次のようなテーマに重点を置いて研究を行う予定です。

(a)東アジア・西太平洋域における反応性微量成分の輸送・化学変質過程
 北東アジア・東南アジアを含む東アジアは、その人口増加・経済発展により世界的に見ても来世紀前半において、大気組成の長期的変動が最も大きいと考えられている地域です。本研究では地球温暖化・気候変動に対して地域的な影響が最も大きいと考えられる対流圏オゾン、エアロゾルなど比較的短寿命の大気組成成分について、東アジア・西太平洋域における地域的三次元空間分布、長期的・短期的変動要因などについて明らかにします。また、地表付近の対流圏オゾン濃度の増加は、この地域の森林や農作物などに多大な被害をもたらす可能性があり、その将来予測は急務です。

(b)大陸間長距離輸送メカニズム
 東アジア・西太平洋における地域研究を全球的な地球環境変動に結びつけるためには、ヨーロッパからアジアへ、アジアから北米へといった大陸間長距離輸送とこれに伴う化学変質過程を明らかにする必要があります。本研究では大陸間長距離輸送の内でも、東アジアにおける大気組成変動の解析に当たって最も重要な、ヨーロッパから東アジアへのトランス・ユーラシア長距離輸送および東アジアから北米大陸への長距離輸送に重点を置き、モデルと観測データを統合した研究を進めます。

(c)温室効果気体等の変動と循環
 温室効果気体等の時間的・空間的変動要因を明らかにするには、特に生物圏を含む放出源・吸収源強度の変動についてさらに詳しく調べ、循環のプロセスを定量的に明らかにする必要があります。本研究ではこの目的のために、地上観測基地、航空機、船舶などを利用して広域に渡って観測された二酸化炭素、メタン、一酸化炭素等の炭素や酸素の同位体組成に関する観測データの収集を行い、全球三次元モデルなどを用いた解析を進めます。

 大気組成変動予測研究の学問的な基盤である「大気化学」は、まだ若い学問で、もともとの大気化学者という研究者はほとんどいません。今が伸び盛りの学問分野ですので、どんな分野からでも興味のある方は、本領域にどんどん飛び込んで来ていただきたいと思います。
 本領域がポストドク、プレドク研究者の武者修行の場になり、ここから多くの地球大気化学者が世界に飛び出して行けるような研究の場となるように努力したいと思っています。

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