Newsletter No.6 March-1999 


国際北極圏研究センター プログラムディレクター
北海道大学大学院教授 池田 元美
Motoyoshi Ikeda
Professor of Hokkaido Univ.
IARC Program Director,FRSGC



 北極圏気候変動の研究は、地球の温暖化を理解し予測していくうえで、それを解くかぎともいえる、非常に重要な意味合いを持っていると思っております。多くの科学者は、地球温暖化の影響が北極海/北極圏に一番顕著に現れていると言っていますが、そうであるとは限らないことを、図1に示したメカニズムを元に説明します。

 この図では、地球の全海洋を引き伸ばして、北極海からグリーンランド海、大西洋、南太平洋、北太平洋と描きました。すなわち全地球の海流を、この平面の上に表わしています。例えば、北極海にはロシアの河川から淡水が流入し、その結果として形成された低塩表層水が大気によって冷やされて海氷ができます。それが風や海流によって流されるとグリーンランド海に出てきます。実はこのグリーンランド海というのも非常に重要な海域で、現在、一番注目している海域です。ここでは大西洋から高塩・高温の海水が流れて、北極海からの低温・低塩の海氷・海流とグリーンランド海上でぶつかります。大気によって冷やされると、熱を取られた海水は密度を増し、沈み込みがおこります。これが深層水(北大西洋深層水)と呼ばれ、世界中の深層海洋に流れていきます。

 ところが温暖化によってロシア河川の流量が増え、また北極海の氷が溶けるとすると、海氷の流出量が増えてグリーンランド海の表層水が低塩化します。それはいくら冷却しても、沈み込みに必要な量の塩分を含んでおらず重くなれないので、沈み込みが止ってしまいます。そうするとメキシコ湾流に乗ってやってきた高温・高塩の水も止まります。すなわち、メキシコ湾流による熱輸送が減少して、北大西洋の気候はむしろ寒冷化してしまうという現象がおきます。つまり、地球の温暖化によって北極圏の気温が高くなってしまうと言われますが、その周辺ではかえって寒冷化する期間が数十年続くのではないかという恐れもあります。
このような現象は、氷河期の終了したあと、もっと大規模に起こったという証拠が残っています。

 以上のように、地球の温暖化に重要な役割を持っている北極圏の研究を、国際北極圏研究センター(IA RC)でおこなっていきたいと思っております。これまであまり国際研究で主導権を発揮してこなかった日 本人研究者が、力を試すよい機会であると思います。


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