再び増加する光化学スモッグと
越境大気汚染 公開シンポジウム

アブストラクト



「わが国の光化学大気汚染の状況とその対策」

講演者 :
早水 輝好
環境省水・大気環境局大気環境課長

(PDF 7MB)
  わが国では近年、大気環境の改善が進み、NO2やSPMの環境基準達成率はかなり向上してきていますが、光化学オキシダントについては、近年、その濃度レベルが上昇傾向にあり、光化学スモッグ注意報の発令地域も広域化しています。特に昨年は、新潟県、大分県で観測史上初めて注意報が発令され、発令地域数が過去最多の28都府県に達しました。このため、環境省では学識経験者による検討会を設置して、その原因等について検討いただきました。昨年12月の検討会中間報告では、汚染物質の越境移動の影響も認められましたが、その寄与割合については、地域的、季節的に大きく変動するとされたところです。
  環境省では、原因物質の削減対策として、固定発生源については、従来からのNOx等の排出規制に加え、平成16年に大気汚染防止法を改正して揮発性有機化合物(VOC)の排出規制を導入し、規制と事業者の自主的取組との適切な組合せにより、平成22年度までに排出総量を平成12年度比で3割程度削減することを目標として対策を進めています。また移動発生源については、自動車の排出ガスの単体規制や、自動車NOx・PM法の着実な実施等の対策を総合的に推進しています。
  さらに、国際的な取組として、日中韓環境大臣会合の合意に基づき、今年9月に「日中韓光化学オキシダント科学研究ワークショップ」を開催するなど、研究協力を進めているほか、環境的に持続可能な交通(EST)の推進、公害対策と温暖化対策の双方に資する「コベネフィット・アプローチ」の推進など、「クリーンアジア・イニシアティブ」に基づく協力を進めています。



「光化学スモッグはなぜ増加しているか? −原因物質の排出動向」

講演者 :
大原 利眞
国立環境研究所アジア自然共生研究グループ広域大気モデリング研究室長

(PDF 1MB)
  日本の光化学スモッグは全国的に増加しています。光化学スモッグの目安となる光化学オキシダントは、全国の大気汚染測定局で測定されていますが、その年平均濃度は1985〜2004年度の20年間に約1%/年の割合で増加しました。更に、光化学スモッグ注意報が発令された都府県数が経年的に増加し、都市周辺だけでなく離島や山岳でも光化学オキシダント濃度が上昇しています。また、昨年の5月には、西日本を中心に頻繁に光化学スモッグ注意報が発令されたことは記憶に新しいところです。
  光化学スモッグは、大気中に排出されたNOx(窒素酸化物)などの物質が太陽の紫外線を受けて光化学反応を引き起こすことによって作られます。しかし、日本では、光化学スモッグの原因となる大気汚染物質は発生源規制などにより減少しています。何故、原因となる物質が減少しているのに、光化学スモッグは増加しているのでしょうか?この原因として、大気汚染物質が急増しているアジア大陸からの越境汚染による可能性が高いと考えられます。アジア大陸では、火力発電所や工場、自動車などから大量の汚染物質が大気中に放出されていますが、それらの物質が反応することによって発生した光化学スモッグが風下にあたる日本に流れ込んでいるという訳です。
  本講演では、光化学スモッグが全国的に増加していることを、観測データをもとに示し、その原因について一緒に考えたいと思います。特に、東アジアで排出される光化学スモッグの原因となる物質の動向に焦点をあてて、お話しします。



「グローバルに見た越境大気汚染と日本への影響」

講演者 :
秋元 肇
地球環境フロンティア研究センター 大気組成変動予測研究プログラムディレクター

(PDF 9.7MB)
  光化学スモッグの主成分であるオゾンの濃度は、19世紀末以来グローバルで増加しています。とはいっても、オゾンは二酸化炭素などと異なって人間活動によって直接大気中に放出されるわけではなく、こうしたオゾンの増加は地球規模での窒素酸化物などの大気汚染物質の排出量の増加によってもたらされたものです。グローバルでのオゾン汚染の増大は、アジアから北米、北米からヨーロッパ、ヨーロッパからアジアへといった「大陸間輸送」をもたらし、ヨーロッパ大陸や北米大陸などから輸送されてくるオゾンが我が国のバックグランド濃度を高めています。
  一方、最近の中国における経済発展はめざましく、それに伴う窒素酸化物やVOC(揮発性有機化合物)などの大気汚染物質の排出量の増加が、東アジアにおける広域オゾン汚染をもたらし、大陸からの越境輸送が我が国の光化学スモッグに影響を与えているとの議論がなされています。
  それでは、日本の光化学スモッグに対するこうした大陸間輸送や越境輸送の影響は、我が国自身で排出される大気汚染物質に起因するオゾンに対してどの程度の割合を占めているのでしょうか。こうした研究はまだ緒についたばかりですが、最近の研究の一端をご紹介します。
  オゾン濃度の増加は我が国を初めとし東アジアの広域において、人間への健康影響、農作物の減収、森林の衰退をもたらしている可能性が高く、それぞれに対して我が国自身の大気汚染によるオゾン、大陸間輸送によるオゾン、東アジア越境輸送によるオゾンがそれぞれどのような意味合いを持っているかについてお話しします。



「東アジアの越境汚染問題をどう解決するか −国際的な枠組みを考える」

講演者 :
鈴木 克徳
金沢大学フロンティアサイエンス機構特任教授

(PDF 19.3MB)
  東アジア地域では、中国やアセアン諸国の著しい経済成長に伴い、国内におけるローカルな大気汚染問題の激化に加え、酸性雨や光化学スモッグ等の越境大気汚染問題の深刻化が懸念されるようになっています。欧米諸国や日本では、まず国内の大気汚染問題を解決した後に越境大気汚染問題や地球温暖化、成層圏オゾン層の破壊などの地球環境問題が顕在化しましたが、これらの国ではすべてが同時多発的に進行している点に特徴があります。
  ローカルな大気汚染問題と越境大気汚染問題、地球温暖化等の問題は相互に密接に関連しており、一体的、総合的に取り組むことが期待されます。東アジアには、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)という越境大気汚染問題に取り組むための国際枠組みがありますが、対象は酸性雨のみに限定されており、現状では、統合的な大気環境管理の枠組みとは大きな隔たりがあります。本研究は、欧州越境大気汚染条約のもとで欧米諸国が徐々に統合的な大気環境管理を志向するようになったプロセスや、統合的な大気環境管理に向けて柔軟性を有する南アジアのマレ宣言に基づく越境大気汚染問題への取組等を研究することにより、また、統合的な大気環境管理に向けた東アジア諸国の制約要因を明らかにすることにより、東アジアに適した大気環境管理の国際協力の枠組み(東アジア大気環境レジーム)を提案します。また、そのような枠組みの合意形成に向けたシナリオを検討することにより、交渉プロセスの促進に資することを目指します。