CLIVAR(気候変動性・予測可能性研究計画)のインド洋パネル会議「インド洋モデリングワークショップ」が2004年11月29日から12月3日までの5日間、米国ホノルルにて、国際太平洋研究センターのディレクターのJay
McCreary 教授の還暦を祝う特別セッションとあわせて開催されました。2000年と2001年に東京で行われたインド洋関係のシンポジウムの後、インド洋の気候が気候変動研究の重要なテーマのひとつとなり、近年研究者が急速に増加しました。本会議には10か国から70人以上が参加しました。
気候変動おけるインド洋の役割がこれまであまり着目されなかったのは、大洋スケールの大気海洋結合モードが存在しないと思われてきたからです。しかしインド洋ダイポール(IOD)モードが発見されるとその世界の気候への寄与が次々と確認され、最近になり、CLIVAR/WCRPやGOOS(世界海洋観測システム)がインド洋長期監視システム(図1)の必要性を審議するに至っています。この観測網はIODだけでなくインド洋上あるいは海洋内部に生起する季節内擾乱、年々/モンスーン、経年、十年スケールの変動、そして長期の温暖化傾向、赤道を横切る浅いセル(子午面循環)、インドネシア通過流、西岸、東岸境界流、海洋ドームなどの予測や科学的理解を深めることになると期待されています。今回ホノルルで行われた会議では、観測ネットワークの構想を簡単な線形モデルからより複雑な結合大循環モデルまで種々の数値結果をもとに活発な討議が行われました。
今回上がった重要な話題の一つに、JAMSTECおよびインド国立海洋研究所・米国海洋気象庁の機関がインド洋赤道域に部分展開したいくつかの係留ブイの予備報告がありました。この係留ブイにより、柳井丸山波(混合ロスビー重力波)が南北流速の2週間周期のシグナルとして観測されるという興味深い結果を得ることができました。いくつかの海洋大循環モデル(OGCM)ではこの波の位相・エネルギー伝搬を再現することに成功しており、観測結果を補完するデータが提供されたことによって、波動メカニズムがより深く理解されることが期待されています。係留ブイ観測の東西流速にあらわれた季節内変動や半年変動に関しても、議論がなされました。
インド洋は季節内擾乱の発生海域として知られています。今回の会議でも、季節内振動がIOD、エルニーニョ南方振動(ENSO)そしてモンスーンに及ぼす影響を考察した発表がいくつか行われました。季節内シグナルの予測可能性は難しいテーマで、結合モデルを用いた研究では擾乱の強度や東方伝搬をうまく予報するには、より現実的な平均場の再現が重要なことが指摘されました。また、熱帯の積雲対流や季節内擾乱が混合層の昼夜サイクルに依存する可能性も議論されました。
ENSOとIODの相互関係についてはこれまで学界で広く議論されてきましたが、本ワークショップでは多くの大気海洋結合モデル(CGCM)の結果から独立したIOD現象の存在が再確認されました。とりわけ高解像度のSINTEX-Fを用いた数値実験では200年分の数値実験の解析によってENSOがなくてもIOD現象が起こることが示されました。IODの出現頻度にみられる十年スケールのむらがインド洋熱帯域の熱容量の偏差に関係するという仮説が提示されました。IODやENSOがインドネシア通過流やインドモンスーンの2年周期性に及ぼす効果を調べた報告や、インド洋の海面水温の変化がアフリカ南部の降水量に及ぼす影響を調べた発表も行われました。
降水量が豊富なインド洋では所々にバリアー層がみられます。このバリアー層が、南東アラビア海で春期に海面水温が上昇する現象やモンスーンの開始に顕著な役割を果たすことがSINTEX-F結合モデルを用いたプロセス研究によって示されました。ベンガル湾とアラビア海の淡水交換を正しく表現することの重要性を示唆した発表も行われました。また浅い混合層内の塩分や太陽放射の透過率を計測する必要性が示唆され、紅海からの高塩分水やインドネシア通過流として太平洋から流入する水塊の重要性も議論されました。
インド洋の気候シグナルを現在の結合モデルで再現・予報することは太平洋のENSOと比較するとより困難であるとされています。地球環境フロンティア研究センターのSINTEX-F大気海洋結合モデルを使った研究では、4ヶ月先までIODの予測が可能であることを示しました。長期の観測システムをインド洋に構築することで、間違いなくインド洋の気候変動の理解が深り、予測研究も進むことが期待されています。インド洋の気候研究はこれからますます活発になるでしょう。
|