FRA-JAMSTECジョイントシンポジウム開催報告
-JCOPEの漁海況予報への展開に向けて-

宮澤泰正、章若潮
(独立行政法人海洋研究開発機構・地球環境フロンティア研究センター)
平井光行、小松幸生、植原量行、伊藤進一、清水学、亀田卓彦,筧茂穂、日下彰
(独立行政法人水産総合研究センター)

海洋研究開発機構・地球環境フロンティア研究センターと水産総合研究センターでは、2004年度より3年間の共同研究「太平洋およびわが国周辺の海況予測モデルの高度化と魚類生態モデルとの結合化に関する研究」を実施しています。共同研究の目的の一つは、地球環境フロンティア研究センターが開発したJCOPE海洋変動予測システム を漁海況予報に適用するために改良を図ることです。本シンポジウムは、水産総合研究センター所有の現場観測値との比較・検証に基づき、JCOPEの性能とその限界、そして改良すべき問題点について議論することを目的とし、2005年4月26日に30名を越える参加者を得て海洋研究開発機構横浜研究所において開催されました。

プログラム

海洋変動の数値的な予測は、1980年代にエルニーニョ等熱帯の気候変動に関連する大気海洋結合現象の予測の一環として始まりました。一方、日本近海の黒潮流路の予測など中緯度の海洋変動の予測は、観測データの不足や計算資源の制約などからその進展が遅れていましたが、近年、人工衛星や海洋フロートなど観測手段の発達や、現場観測データの国際的な交換の枠組が充実したこと、及び計算機技術の飛躍的な進歩によって急速にその実現可能性が高まっています。

地球環境フロンティア研究センターでは日本沿海予測実験計画(JCOPE)のもとで海洋変動予測システムを開発し,2001年12月より黒潮流路の2ヶ月予測を主目的として日本近海の海洋変動予測実験を始め、ウェブサイトにおいて予測結果を公開してきました。実験において、高解像度海洋大循環モデルに観測データを導入して現実の海況を逐次推定し(データ同化)、推定した状態から予測を行っています。一方、水産総合研究センターでは独自の観測網から得られる観測データ等をもとに海況を推定し漁海況予報を行っていますが、海洋数値モデルによる予報はまだ行われていません。

シンポジウムでは最初、北海道沖等の親潮域、三陸沖等の親潮黒潮混合水域、および日本南岸の黒潮域における観測的な知見が総括され、親潮の南限緯度や黒潮流路、そして暖水渦や冷水渦の振る舞い等について数値モデルを用いて現況を把握し2?3ヶ月程度先までの予測を行う必要性が指摘されました。親潮の南限緯度がサンマの回遊状況に大きく影響することも指摘され、海況数値予報が水産資源のより定量的かつ包括的な管理に資する可能性が示唆されました。次に、これらの現象に対する現状のJCOPE海洋変動予測システムの現況再現性、予測のスキルの詳細な検証結果が報告されました。日本南岸の黒潮の断面や流路については一定の再現・予測スキルを持つが、親潮域や混合水域での再現・予測には解決するべき課題があることが示されました(図1図2)。

会場の討論においては、「どこまで予測できたら数値予報を導入するのか」、「本当に予測精度を向上させられるのか」といった真摯な疑問が出されました。これに対し、「数値予報が,現在行っている経験的な予報を凌駕できればよい」、「水産関係のデータが必ずしも現行システムに導入されていないので、こうしたデータを入れるようにすれば初期値が良くなり、予測も良くなるだろう」といった応答がありました。さらに、「数値予報の導入は,従来ばらばらであった予報の基準を統一し定量化することだけでも非常に大きな意義がある。予報精度の改良は導入以後も営々と続ければ良い」といった意見がありました。

本共同研究は今年度も続行され、昨年度の検証結果をもとにJCOPE海洋変動予測システムが改良される予定です。改良を続けるうちに予測システムが実際に現業に導入され,船舶等による観測網と密接に連携しながらその成果が実際の水産資源管理等に貢献する日がいつか来ることでしょう。

図1: 2003年2月の三陸沖200m深水温分布。a) 観測。b) 模算値(同化をしない場合)。c) 現況推定値(同化をした場合)。黒潮続流の北限緯度などが模算値を修正する同化によってある程度推定されているが、観測と現況推定値には無視できない違いもみられる。

図2: 2002年後半から2004年半ばの期間における親潮第1分枝南限緯度(100m5度c等温線の位置)の変動。黒線: 観測値。赤線: 模算値(同化をしない場合)。緑線: 現況推定値(同化をした場合)。青線と紫線: 2ヶ月予測。現況推定値が必ずしも観測と一致しないが、予測結果は現況推定値によく追随している。現況推定値を改善すれば、予測も改善する可能性を示唆している。