地球温暖化抑制のためにはNOxとCOの同時排出抑制が有効
- 大気汚染ガスの地球温暖化影響評価手法を開発 -



平成13年5月2日
海洋科学技術センター
宇宙開発事業団




 宇宙開発事業団(理事長 山之内秀一郎)及び海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)の共同プロジェクトである地球フロンティア研究システムの秋元肇・大気組成変動予測研究領域長とオリバー・ワイルド博士は米国カリフォルニア大学のマイケル・プレーサー教授と共同で、全球三次元化学輸送モデルを用いて、窒素酸化物 (NOx)、一酸化炭素 (CO) などの大気汚染ガスが地球温暖化に及ぼす影響を定量的に評価する手法を初めて開発した。
 本手法を用いた解析により、大気汚染対策としてNOxとCOの排出抑制を地球規模で併せて実施することで地球温暖化抑制にも有効となることが明らかとなった。(図1
この成果は、5月1日発行のアメリカ地球物理学会速報誌 Geophysical Research Letters ( Vol.28, No.9, P1719 ) に掲載されました。

背景
 最近発表された「気候変動に関わる政府間パネル(IPCC)」の2001年報告書の中では、京都議定書の対象ガス以外に対流圏オゾン(O3)の温室効果が重要であること、また温室効果ガスと並んでそれらに影響を及ぼすガスの排出量を削減することが、地球温暖化を抑制するために必要であることが述べられている。窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、非メタン炭化水素(NMHC)などの大気汚染ガスからは、対流圏オゾンや、メタン(CH4)などに影響を及ぼすOHラジカルが生成されるので、それらは間接温室効果ガスと呼ばれる。間接温室効果ガスの地球温暖化に及ぼす影響については、これを定量的に評価する手法はこれまで開発されていなかった。

成果
 秋元領域長らのグループは、地球全体の放射・気象モデルに光化学反応モデルを組み合わせた全球三次元化学輸送モデルを用いて、大気汚染ガスの放出量が変化した場合にオゾン(O3)、メタン(CH4)等の濃度がどう応答するかを解析する手法を開発した。(図2)これを用いて予備的計算を行った結果、NOxの排出量のみを削減した場合、温室効果ガスの一種であるオゾンの発生自体は押さえられるものの、逆に別の温室効果ガスであるメタンが増加するため、長期的には逆効果(地球温暖化の促進)となりかねないが、NOxと同時にCOの排出量を削減すると、メタンの増加が抑制され、地球温暖化防止に有効であるという結果が得られた。(図3、図4
 今後は、大気汚染ガス排出等に関する各地域(アジア地域など)ごとの特徴を折り込んだ詳細な研究や、他の大気汚染ガスについての解析等を進めて行き、大気汚染対策と地球温暖化対策とを一体のものとして考えることができる指標(基準)作りに貢献できるような研究に発展させて行く予定です。


問合せ先
    海洋科学技術センター/宇宙開発事業団
    地球フロンティア研究システム合同推進事務局 担当:菱田・川崎
        TEL 045-778-5615(菱田)、045-778-5700(川崎)
        ホームページ http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/frontier/

    海洋科学技術センター 総務部 普及・広報課 TEL 0468-67-5547
        ホームページ http://www.jamstec.go.jp (海洋科学技術センター)

    宇宙開発事業団  広報室 TEL 03-3438-6111
        ホームページ http://yyy.tksc.nasda.go.jp (宇宙開発事業団)





参考資料


1.本研究の位置付けについて
 これまでNOx、 CO、 NMHCのような短寿命の大気汚染ガスの地球温暖化影響を定量的に議論することは非常に困難であった。これらのガスはそれ自身は温室効果を持たないが、メタン、オゾン、代替フロン(HCFC)など主要温室効果ガスの濃度を制御するので間接温室効果ガスと呼ばれる。最近発表されたIPCC報告書には、温室効果ガスと並んでその濃度に影響を及ぼすガスの排出を削減させることが、放射強制力を安定させる上で必要となると述べられている。本研究はそのような間接温室効果ガスの地球温暖化影響を解析するために、それらの放出量を変化させたときにオゾンが短期間で変化する影響とメタンなどが長期間で変化する影響とを一旦分離した後、それらを合わせて地球温暖化影響を評価する手法をはじめて確立したものである。モデルとしてはカリフォルニア大学アーバイン校で開発された全球三次元化学輸送モデルが用いられた。

2.大気汚染ガスが地球温暖化に影響を及ぼすメカニズム(図1参照)
(1)間接温室効果ガスと呼ばれる大気汚染ガス(NOx、CO、NMHCなど)が、対流圏において紫外線の照射を受けると光化学反応を起こし、オゾンとOHラジカルが生成される。

(2)オゾンは強力な温室効果ガスであるので、大気汚染ガスの排出規制によって対流圏のオゾンを減少させることは地球温暖化の抑制上、有効である。この対流圏オゾンを減少させるためにはNOxを減少させることが最も有効であることが知られている。オゾンは大気中の寿命が短い(夏季には1-2週間、冬季で約2カ月)ため、NOxを削減したことによる地球温暖化抑止効果は、NOx削減とほぼ同時に働く。

(3)一方OHラジカルは、別の温室効果ガスであるメタンと光化学反応を起こし大気中のメタンを除去する働きを有する。NOx削減を実施すると、OHラジカルも減少するので、大気中のメタン濃度が増加することとなり、メタンの温室効果によって地球温暖化は逆に促進されてしまう。しかも、メタンの大気中寿命は長い(約10年)ため、NOxを削減したことによる地球温暖化促進効果はNOx削減後数10年間持続する。

(4)従って、NOx削減による地球温暖化効果を評価するためには、短期的なオゾンの削減効果と長期的なメタンの増加効果を合わせて評価する必要がある。本研究ではこれらを合わせて定量的に評価した結果、NOxのみの削減では数10年の期間を積算した場合、正の温室効果となり、地球温暖化を促進しかねないという結果が得られた。

(5)対流圏においてOHラジカルが光化学反応を起こす物質は、CH4以外にも存在する。それらの物質を削減すれば、相対的にCH4と反応するOHラジカルの量が増し、CH4の増加を押さえることができる。中でも、一酸化炭素(CO)の増減がOHラジカル濃度の変化に対して最も大きな影響を与えることが知られている。
 NOxと共に COの両方を削減した場合は、オゾン濃度の減少はさらに進み、同時にメタン濃度の増加が抑制されるので、数10年間で評価を行うと負の温室効果となり、地球温暖化を抑制できることが分かった。

3.IPCC第1ワーキンググループ第3次報告書「政策決定者のための概要」抜粋

・CO2以外の温室効果ガスの濃度が2100年までにどのくらい変化するかについてのモデルの計算結果は、SRESシナリオの代表例として用いたシナリオ毎に大きく異なり、2000年での値を基準とした場合、CH4の変化量は−190〜+1970ppb(現在の濃度は1760ppb)、N2Oは+38〜+144ppb(現在の濃度は316ppb)、対流圏のオゾン総量は−12〜+62%であり、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)及び六フッ化硫黄(SF6)の濃度については、非常に広い幅で予測されている。シナリオによっては対流圏オゾン総量がCH4と同程度の放射強制力を持つとの結果が出ており、北半球の大半の地域では、大気の質の目標達成が脅かされかねない。

温室効果ガスやその濃度に影響を及ぼすガスの排出を削減させることは、放射強制力を安定化させる上で必要となる。人為期限の温室効果ガスで最も重要なCO2については、例えば炭素循環モデルによる計算によると、大気中のCO2濃度を450、650及び1000ppmで安定化させるためには、人為起源のCO2の排出量をそれぞれ数十年、約100年及び約200年以内に1990年のレベル以下にした上で、その後着実に減少させ続けることが必要となる。最終的には、CO2の排出量を現在に比べてごくわずかなレベルにまで減少させる必要がある。

対流圏のオゾン総量は1750年以降36%増加したと見積もられている。これは、いくつかのオゾン生成ガスの人為起源による排出によるものが主であり、放射強制力にして0.35Wm-2に相当する。オゾンの放射強制力は地域によって大きく変わり、CO2のような長寿命の温室効果ガスと比べて排出量の変化にすばやく応答する。


4.語句の説明

・放射強制力
 地球の熱収支の平衡状態からのずれを対流圏界面における単位面積当たりの放射量で表したもの。その要因としては、太陽入射量、大気中の温室効果ガス濃度、雲量などがあり、放射強制力という概念を用いることによってこれらを気候変動の要因として量的に比較することができる。
 なお、ここでは温室効果の度合いを表す尺度として用いられている。