
地球内部ダイナミクス領域長
鳥海光弘
宇宙から地球の縁を眺めると、霧のように張り付いている大気の層と、その下の青く輝く海洋、および緑あるいは茶色に色づいた陸地が見える。対流圏と海洋と大陸である。われわれの住む地球の表層とは,この三つのシステムが多くの要素で互いに関係づけられている巨大システムである。大陸をつくる地殻と海洋の地殻とのコントラストは、高低差とその岩石の違いにある。大陸地殻は多様な岩石からつくられているが、海洋地殻は一様な玄武岩質の岩石である。大陸地殻は40億年まえから現在までつくられ続け、一方の海洋地殻は2億年前以降につくられている。つまり、海洋地殻と大陸地殻は別物なのである。

写真1:「はやぶさ」が撮影した地球のカラー画像 ©JAXA
海洋地殻がつくられるというのは、どういうことなのだろう。太平洋やフィリピン海のマグマが海嶺などを通じて噴出し、冷えて固まる。そしてその源はマントルにある。これが海洋地殻をつくった。一方、ハワイ諸島もマントルに由来するマグマの噴火でつくられる。では大陸地殻はどのようにつくられるのか。多様な岩石をつくるには、多彩な過程があるに違いない。火成岩、堆積岩、変成岩、生物起源の岩石などはそれぞれ異なるシステム地球の諸現象の結果である。それは海と陸の境界域で起こっているダイナミクスである。そこはマグマもつくられているが、プレート境界にそって巨大な地震が発生している領域である。日本列島はそのことをまざまざと見せ付けた。2011年1月27日には南九州新燃岳が爆発的に噴火し、そして2011年3月11日に、東北地方太平洋沖地震が起こった。この地震では太平洋プレートと北米プレートとの境界部分が200kmx540kmにわたる巨大クラックがつくられた。

写真2:噴火する新燃岳 2011年2月4日午後10時04分 ©気象庁気象研究所
日本列島は地球で最も活動的な地域のひとつである。しかし、普段はきわめて微細な動きしかなく、ほとんどの人々にとっては安定した大地であると映る。その大地と海洋がにわかに激烈な変動をするのである。そのような激変も地球内部の巨大な規模の物理過程であるに違いないのである。つまり、多くの複合的な物理過程が絡み合って起こる現象である。であるならばそれは数理モデルで表わせるに違いない。混乱させる事態は、物理過程の空間的スケールの巨大さ、にもかかわらずその時間スケールの短さ、そして前駆過程のシグナルの隠微さ、そして起こった後のカスケード的な多様な事象の発生である。これらは何も地震だけでなく、海底火山噴火、海底地すべり、海洋への巨大隕石衝突、などでも起こることである。そしてそれらが引き起こす地球環境変動と社会へのダメージは大変に著しい。

写真3:水深533mのマリアナ海底火山「NWロタ-1」の噴火の様子、2005年10月海洋調査船「なつしま」NT05-17航海・無人探査機「ハイパードルフィン」撮影
IFREEはこうした地球表層や人間社会に多大な影響をもたらす地球現象の実態を明らかにしようとしている。日本列島の周辺海域では、沈み込む海洋プレートとその上部の地殻やマントルの実態が大変複雑な様相を持ち、そのダイナミクスを複雑にしている。海洋島などの地下では周辺の海洋プレートとは違った物質構造を示し、沈み込み始めると、プレート内部がいろいろな断層で断ち切られ、それらによってプレートは拘束沈み込み運動を起こしている。こうした運動が水や炭酸ガスなどの流体成分の循環を駆動しあるいは影響を受け、マグマ発生を励起し、島弧地殻あるいは大陸地殻を形成しつつ、反地殻ともいうべき高密度物質をマントル内部に残す。そして、それらはプレートとともに沈降し、マントル深部に集積するに違いないのである。こうした地球内部のダイナミクスがさまざまな時間と空間スケールをもって運動し、それらが結合し、物質循環を駆動しているのである。

図1:地球現象の実態、内部構造や物質循環の仕組みを明らかにする。
その特徴的な様相は数理的にいえば岩石や鉱物のもつ物理的あるいは化学的な性質と、それらの実体をさまざまな形で非常に多数結合させ、そうしてつくられるシステムのもつ時間と空間的な変動の重なったダイナミクスのうちに見ることができるに違いない。つまり、システムの要素である物質の性質とそれらの結合系としての複雑システムの特性が地球内部のダイナミクスを理解する重要な鍵となる。そのような理解にとっては実態の細部に至る解明、とくにいろいろな時間や空間スケールでの実態やその時間変動、そして空間変化を捉えることがIFREEの大きな目標である。それには常に更新される観測や測定が重要な要素となる。そしてそれを関連付けて、システムに組み立てるデザイン、つまりモデリングが重要となろう。その間の橋を掛け渡すには多量の情報とモデルの間をつなぐ数理が必要となる。これは現代の広い科学分野で重要となるデータマイニングという新分野であり、海域地球科学の中にそのような情報解析を担うシステム地球科学とも言うべき領域を分野横断的に作り上げることも大事であろう。

図2:詳細な観測によるプレート境界の内部構造解析やモデリングによるダイナミクスのシミュレーションによって、いろいろな時間や空間スケールでの実態を捉えていく。
a)南海トラフの地下構造、b)ひずみ場のシミュレーション
2011年4月、2011年3.11東日本大震災のあとに