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地球内部ダイナミクス領域

トピックス

平成24年12月12日
独立行政法人海洋研究開発機構

2012年12月7日に牡鹿半島東方沖で発生した地震に関する調査について

1.概要

2012年12月7日17時18分頃に牡鹿半島東方沖の日本海溝でマグニチュード7.3の地震が発生しました。気象庁による観測では、東北地方の一部で最大震度5弱が観測されたのを始め、東日本の広い範囲で震度4以上の揺れが観測されました。また、東北地方の太平洋岸に津波警報・注意報が発令され、石巻市での最大1.0mの津波が観測されたのを始めとして、各地で津波が観測されました。 海洋研究開発機構では、文部科学省からの受託研究「東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の観測調査」の一環として、東京大学地震研究所などと協力して、12月10日から実施している、深海調査研究船「かいれい」による、海陸統合地殻構造探査と海底地震観測において、12月7日の地震発生直後の震源域調査を実施することといたしました。

1.調査計画

当初の計画では、12月7日の地震の震源域南方の日本海溝を東西に横切る調査測線上での海陸統合地殻構造探査(東京大学地震研究所と共同で実施)と、日本海溝海側斜面上で海底地震計20台を用いた地震観測の実施を予定しておりました。今回の地震発生を受けて、震源を挟む海溝軸東西の斜面上に海底地震計を設置して余震観測を実施するとともに、震源域を東西に横断する測線において地殻構造探査を実施することといたしました。今回の地震の震源は、従来使用されてきた海底地震計では観測が不可能であった、水深6000mを超える海溝軸近傍に位置しております。そこで、海洋研究開発機構で開発を進めております、超深海型海底地震計を震源周辺に設置します。
海底地震計の回収後は、データの解析をすすめ、今回の地震の発生メカニズムの解明につなげていく計画です。なお、日本海溝の陸側斜面には、受託研究の一環として、東京大学地震研究所と東北大学によって海底地震計が12月7日の地震発生前から設置されておりました。データ解析にあたっては、各受託機関が協力して取り組む計画です。

注:実際の調査の実施については、今後の地震活動の推移と天候海況に応じて計画を変更する場合があります。

タイトル:
A serpentinite-hosted ecosystem in the Southern Mariana Forearc
(日本語訳「南部マリアナ前弧において蛇紋岩に生じたエコシステム」)
所属:
小原泰彦1, 2、Mark K. Reagan3、藤倉克則2、渡部裕美2、道林克禎4、石井輝秋5、Robert J. Stern6、Ignacio Pujana6、Fernando Martinez7、Guillaume Girard3、Julia Ribeiro6、Maryjo Brounce8、小森直昭4、木野正史4
著者名:
1. 海上保安庁海洋情報部
2. 海洋研究開発機構
3. アイオワ大学
4. 静岡大学理学部
5. 深田地質研究所
6. テキサス大学ダラス校
7. ハワイ大学
8. ロードアイランド大学

2. 背景

グアム島やサイパン島を有するマリアナ弧は、世界の中でも最も典型的な沈み込み帯の一つです。グアム島以北のマリアナ弧では、前弧(注1)の発達が顕著であり、多数の蛇紋岩海山の存在で特徴付けられます。マリアナ海溝には太平洋プレートがフィリピン海プレートへ沈み込んでいます。蛇紋岩海山は、沈み込む太平洋プレートからの流体の供給でカンラン岩(注2)が蛇紋岩化(注3)し、浮力が発生することで形成されると考えられています。一方、グアム以南のマリアナ弧においては、蛇紋岩海山は存在していません。その代わり、マリアナ海溝の深海底に地殻深部から上部マントルの断面が広く露出しています。このグアム以南のマリアナ弧には、世界最深部であるチャレンジャー海淵が存在することが良く知られています。

蛇紋岩化したカンラン岩に生じる熱水系や湧水系の存在は、15年前より知られていました。蛇紋岩海山の一つである南チャモロ海山では、強アルカリ性の湧水系とシンカイヒバリガイ類に代表される化学合成生態系(注4)が1997年に発見されました。また、大西洋中央海嶺の「ロストシティフィールド(Lost City Field)」と呼ばれる場所で、蛇紋岩化したカンラン岩に生じた低温かつ強アルカリ性の熱水系と化学合成生態系の存在が2001年に発見され、多大な注目を集めました。それ以前は、海底拡大域の熱水系は、強酸性かつセ氏約400度にも達する高温の熱水系しか知られていませんでした。

3. 分かったこと

2010年9月に実施されたYK10-12航海では、地殻深部から上部マントルの断面の研究を目的として、「しんかい6500」を用いてグアム南西のマリアナ海溝南部の海溝陸側斜面の調査を実施しました(図1)。この航海の「しんかい6500」第1234潜航において、蛇紋岩化したカンラン岩に生息するシロウリガイ類に代表される化学合成生態系を発見しました。この生態系を構成する優占的な生物はシロウリガイ類で大規模なコロニーを形成していました(主要なコロニーの水深は5620メートル)(図2)。潜航調査では、目視できる湧水の噴出は確認されませんでした。しかし、カンラン岩の蛇紋岩化作用に伴う強アルカリ性の湧水系の存在が、これらの化学合成生態系の生命活動を担っていると考えられるため、この場所を「しんかい湧水フィールド(Shinkai Seep Field)」と命名しました。本潜航において、蛇紋岩化したカンラン岩、ハンレイ岩、優白色の石灰岩様の岩石および約30個体の生きたシロウリガイ類の採取を行いました。

マリアナ海域からシロウリガイ類が発見されたのは、本例が初めてです。また、これまでに知られているシロウリガイ類を伴う化学合成生態系は、堆積物の分解に起因するメタンの湧水系に生息するもの(相模湾や南海トラフ、日本海溝など)と、高温の海底熱水系に生息するもの(ガラパゴスリフトや沖縄トラフなど)の2種類に大きく分類されていましたが、蛇紋岩化したカンラン岩の湧水系に生息するシロウリガイ類が発見された例は、本例が初めてです。

シロウリガイ類について、貝殻の形態および組織のDNA解析を実施しました。その結果、それらは新種のシロウリガイ類である可能性が高く、大西洋中央海嶺の蛇紋岩化したカンラン岩に生じた高温かつ強アルカリ性の熱水系である「ロガチェフフィールド(Logatchev Field)」で産出する種に近縁であることが判明しました(図3)。そのため、本発見は、深海化学合成生態系の代表的なメンバーであるシロウリガイ類は、地理的に近い場所に近縁な種が分布するのではなく、例え遠距離にあっても類似した環境に近縁な種が分布するということを示します。これはシロウリガイ類の世界的な分布状況や進化過程を論ずるための、生物地理学的に重要なデータを与えることとなりました。

また、優白色の石灰岩様の岩石について、透過型電子顕微鏡観察およびX線回折による分析を実施し、この石灰岩様の岩石が主にブルース石(水酸化マグネシウム)とアラゴナイト(炭酸カルシウム)から成ることが判明しました。この結果は、蛇紋岩海山における炭酸塩チムニーの組成と類似しており、「しんかい湧水フィールド」は、沈み込む太平洋プレートの脱水反応による流体を起源とする湧水系であることを示しています。

4. 考察

「しんかい湧水フィールド」では、以下に示す化学反応が発生していると考えられます。まず、以下のカンラン岩の蛇紋岩化作用によって水素が発生します。

カンラン石 + H2O = 蛇紋石 + ブルース石 + 磁鉄鉱(および鉄ニッケル合金)+ H2

次に、この水素から、磁鉄鉱および鉄ニッケル合金を触媒としてフィッシャー・トロプシュ型反応により、無機的にメタンが生成されます。

CO2 + 4H2 = CH4 + 2H2O

このメタンから、次の嫌気的メタン酸化と呼ばれる反応により、硫化水素が生成されます。

CH4 + SO42- = H2S + H2O + CO2-

最後に、シロウリガイ類に共生する硫黄細菌が、この硫化水素を酸化することでエネルギーを獲得し、カルビン・ベンソン回路によって炭素固定することによって有機物を合成します。この有機物をシロウリガイ類が摂取することでシロウリガイ類は生育できます。

H2S + 2O2 = SO42- +2H+

この一連の反応は、原始地球上の初期生命の発生時の状況を模していると考えられており、蛇紋岩化したカンラン岩が関与する熱水系や湧水系の理解が、原始地球上の初期生命発生の解明や、地球外生命の発見のカギを握ると考えられています。一方、大西洋中央海嶺の「ロストシティフィールド」では、化学合成生態系のバイオマスが小規模であることから、蛇紋岩化したカンラン岩に生じる熱水系や湧水系では、大規模なバイオマスは存在できないと考えられていました。ところが、「しんかい湧水フィールド」におけるシロウリガイコロニーは、相模湾や南海トラフのものを上回る大規模なものであり、本発見により、蛇紋岩化したカンラン岩に生じる湧水系であっても、大規模なバイオマスを保持できることが示されました。

1997年に、蛇紋岩海山である南チャモロ海山において、強アルカリ性の湧水系とシンカイヒバリガイ類に代表される化学合成生態系が発見されていましたが、「しんかい湧水フィールド」は、蛇紋岩海山に伴われず、上部マントルの断面に生じた新しいタイプの湧水系です。マリアナ海溝南部においては、地殻深部から上部マントルの断面の露出が多いことが知られており、マリアナ海溝南部から、「しんかい湧水フィールド」と同様な湧水系が、今後、次々と発見される可能性を示しています。また、マリアナ海溝南部と同様な地質学的なセッティングにあるトンガ海溝においても、同様な湧水系の発見が期待されることとなりました。

今回の結果は、海底熱水系や湧水系の活動が海洋や大気の化学組成成分の全体収支に与える影響の再検討が必要なことを示すと共に、海底熱水系や湧水系の活動に支えられた化学合成生態系が、より高い地質学的背景の多様性と広がりを持っていることを示しています。

以上

(注1)前弧:沈み込み帯において、海溝から火山列までの間の部分のこと。通常、100kmから130km程度である。マリアナ地域においては、特に、グアム島以北で前弧の発達が顕著である。

(注2)カンラン岩:上部マントルの主要構成岩石であり、主にカンラン石、斜方輝石、単斜輝石、スピネルという鉱物の集合体である。

(注3)蛇紋岩化:カンラン岩が水と反応して蛇紋岩に変成されること。カンラン岩中の、カンラン石、斜方輝石、単斜輝石が水と反応し、蛇紋石が生成される。蛇紋石はアスベストの一種である。蛇紋石は密度が小さく、上部マントル中のある部分が蛇紋岩化されると、周囲のカンラン岩に対して浮力を持ち、その蛇紋岩体は地表に向けて上昇する。このメカニズムにより、蛇紋岩海山が発生する。

(注4)化学合成生態系:光合成によるエネルギーではなく、海底から湧き出す熱水や湧水に含まれるメタンや硫化水素に依存する生物からなる生態系のこと。それらの生物の多くは、体内にメタン酸化細菌や硫黄細菌を共生しており、それら細菌がメタンや硫化水素を酸化する際に生じるエネルギーを利用して生命を維持している。シロウリガイ類、シンカイヒバリガイ類、ハオリムシ類などが代表例である

図1.マリアナ海溝および「しんかい湧水フィールド」の位置図(左)と詳細な海底地形(右)
「しんかい湧水フィールド」は、世界最深部のチャレンジャー海淵の北東方約80kmに位置する。海底地形図には、「しんかい6500」第1234潜航の航跡と、「しんかい湧水フィールド」の存在範囲を示した。

図2.「しんかい湧水フィールド」の産状(左・中)と採取した蛇紋岩化したカンラン岩の例(右)
蛇紋岩化したカンラン岩に、シロウリガイ類に代表される化学合成生物群集が大規模なコロニーを形成している(左・中)。視野はそれぞれ、約10m(左)、約3m(中)である。カンラン岩には、流体が流入した痕跡として白い脈が形成されている(右)。

図3.「しんかい湧水フィールド」から採取されたシロウリガイ類の標本写真
DNA解析の結果から、大西洋中央海嶺「ロガチェフフィールド」で産出する種に近縁であることが判明した。