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環境配慮への取り組み

地殻内微生物実験の安全性

Q.
深海底の掘削試料の中に、人に感染する微生物や生態系に有害な微生物が含まれることはないのですか?
A.
地上に比べて、人や生態系に有害な微生物が地殻内に存在する可能性は非常に少ないです。→理由1理由2
また、万一の場合に備えて、船上や陸上で生物実験を行う場合には、研究者に感染したり外部に拡散したりしないよう、国の指針に沿った感染・拡散防止措置を講じます。→拡散防止措置

人間へのリスクと生態系のリスク

地殻内微生物が人に感染しにくい理由

海底下地殻内の環境は、脊椎動物の生息する地上の環境と大きく異なるため、感染性を有するための遺伝子コードを持ち合わせていないか、有効でない可能性がきわめて大きいため。
なお、感染性のある微生物は、これまでの地殻内における調査では認められていません。

参考
1)
感染性とは、脊椎動物に侵入し、体内環境で増殖し、宿主に害を与えることを意味します。海底下環境は、酸素に乏しく、宿主となる脊椎動物が皆無です。そのため脊椎動物へ感染する能力を獲得する確率は、陸上や水圏にくらべてきわめて低くなります。
2)
脊椎動物に対して毒素を有する遺伝子を持つ地殻内微生物が存在する可能性は、ゼロではありません。しかし、人の棲む陸上と海底下の地殻内とでは大きく環境が異なるため、陸上で増殖する能力は低いと考えられます。それは地殻内微生物が成長するのに適した温度、圧力などの環境が地上では大きくズレているためです。
3)
地殻内の環境は地上に露出している部分があります。そこは温泉と呼ばれる場所です。数多くの好熱性微生物が含まれていますが、そんな温泉に入浴しても、それが原因で感染症が発生した事例は報告されていません。これまで起きている温泉での感染は、むしろ陸生の微生物が温泉の浴槽水で増殖したことが原因で発生しています。

地殻内微生物が地上の生態系に害を与えにくい理由

海底下地殻内の微生物にとって、地上や海洋表層の環境は成長に適した条件から大きく外れているため、もし地上や海洋表層に入り込んでも、土着の微生物群との生存競争に勝てずに駆逐されてしまうからです。

参考
1)
地上や海洋表層と海底下地殻内との間は遠く離れているように見えますが、完全に隔離されているわけではありません。
陸生微生物は河川から海に運ばれます。海洋表層と深海の間も、マッコウクジラやクラゲやイカ・タコ類が往復します。海底下深部との間も、沈み込み帯から水が絞り出されたり、マグマ活動に伴う熱水が噴出したり、海底の断層から海水が海底下に侵入したりします。
それに伴って微生物も地上や海洋表層と深海や地殻内の間を行き来することができますが、陸上の微生物が深海の生態系に深刻な影響を与えるような状況は観察されていません。それは成長に最適な環境が異なるため、それぞれの環境に適応して、棲み分けをしているからです。
2)
「ちきゅう」の場合、表層からもっと隔絶した海底下深部まで掘削することができますが、マントルに近づく200度を越える高温の大深度地下になると、もはや未知の微生物が出現する可能性はありません。なぜなら、200度を越えると生物体を構成する有機物が不安定な状態となり、壊れてしまうからです。すなわち炭素骨格の有機物で構成される生物は、これより高温において存在できません。

感染・拡散防止措置

上述のとおり、地殻内の微生物は、人に感染したり、地上の生態系に害を与える可能性がきわめて低いと考えられます。もし万一存在したとしても、コア試料中の微生物の存在密度が地上に比べてごく少なく、かつ貧栄養状態にあって増殖することもないため、通常のサンプル処理や分析で問題が生じることはまずないと考えられます。
しかしながら、培養や組換えDNA実験などの生物実験を行う場合には万一のリスクに備えて、機構は以下のガイドラインを定め、感染・拡散防止措置を講じています。

  • 研究や実験で用いた培地や廃液、関連する器具を廃棄する場合、微生物を不活化させる滅菌処理(オートクレーブ滅菌※)をして廃棄をします。
    ※オートクレーブ滅菌:高温高圧状態の飽和水蒸気により加水分解反応を促進させて滅菌する方法。
  • 培養実験を行う場合は、クリーンベンチを用い、無菌作業環境で行い、他の微生物の吸着・付着・混合を防ぎながら処理を行います。また実験台に生物等が付着したときは直ちに不活化するための措置を行います。
  • 実験従事者は、手洗い、うがいなどの衛生措置を十分にとります。
  • 窓等においては、昆虫等の侵入を防ぐため、閉じておく環境で行います。
  • 実験の内容を知らないものが、みだりに実験中のサンプルに触れることを禁止します。また必要以上にサンプルを他実験室に移動させることを禁止します。さらに微生物は不用意に漏出や拡散が起こらない容器に入れます。
  • 実験目的に応じて、拡散防止措置における微生物使用実験のクラスを厳守し、研究を実施します。
参考
1)
私たちの身近な場所にも未知な微生物が数多く生息しています。岸壁の海水一滴に存在する微生物群集の90%はまだ名前も知られていない微生物です。また、私たちは水や食物から一日に数億から10億個以上もの微生物を摂取していますが、これにも未知微生物が含まれています。私たちの体の腸管にさえ性質が知られていない微生物が生息しています。
この私たちの身近な環境にいる微生物は、深海や地殻内以上に人や生態系に有害な微生物が存在する可能性が高いといえます。そのような微生物について講じられている感染防止・拡散防止措置と同レベルのものを、地殻内微生物の研究にも講じることとしています。

拡散防止措置と法令等