JAMSTEC
高知県室戸岬沖「海底地震総合観測システム」の運用開始
及び得られた画像について
平成9年4月24日
海洋科学技術センター
海洋科学技術センター(理事長 平野 拓也)は、高知県室戸岬沖に「海底地震総合 観測システム」を設置し、地震、津波および深海環境変動等のリアルタイム観測を開 始しました。1.目的
深海底では、地震、火山噴火、熱水の噴出、特殊な生物群集など、陸上に災害を及ぼ す地殻変動が起きたり、解明されていない現象が多数存在することが明らかになって きました。○海域における地震調査研究の推進
我が国の陸上に多大な被害を及ぼす巨大地震の多くは海底で発生しています。 今回、「海底地震総合観測システム」を設置した高知県室戸岬沖およびその周辺海域 は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートとの衝突に起因して、1944年の 東南海地震など、巨大地震が多発し、海底下の地殻変動が活発な海域として知られて いるにもかかわらず、海底地震観測の空白域となっております。
一方、地震調査研究推進本部(本部長:科学技術庁長官)においては、現在、地震に 関する調査観測計画の策定を進めており、その中でケーブル式海底地震計の敷設の重 要性が謳われています。ケーブル式海底地震計による地震観測は、海域において発生 する地震活動の詳細の把握に有効であり、本システムの稼働が当該海域で発生する地 震の震源決定精度の飛躍的な向上等に貢献するものと期待されています。
以上の背景のもとに、海洋科学技術センターは、関西・四国方面の海側の観測空白域 を埋める重要な海底地震観測網として、本システムを高知県室戸岬沖に設置すること と致しました。
また、海洋科学技術センターでは、巨大地震の発生する海溝域等の精密な最上部マン トルまでの地下構造を解明するため海底下深部構造フロンティア研究を実施しており ますが、本システムにより提供される地震・津波のみならず数多くの物理量のリアル タイム観測データは、先ほど完成した深海調査研究船「かいれい」によるマルチチャ ンネル反射法探査装置により得られる地殻構造データと合わせて本研究の推進にも貢 献します。○深海環境の変化と海底変動現象との相関関係の究明
シロウリガイは、断層面に沿って地下から湧出する間隙水に含まれる、メタンや硫化 水素をエネルギー源として生息する特殊な生物です。シロウリガイの生息環境は、こ の湧水(量および含まれる成分)に依存しており、湧水は海底下の活動(地下のマグ マ活動や断層面に加わる応力)を反映していると考えられていることから、これら特 殊な生物群集の変化と海底変動現象は何らかの相関がある可能性があります。
水深3,572mの深海底に設置された本システムの先端観測ステーションは、カラービ デオカメラを装備していますが、この様な深海底でビデオカメラによる長期観測を開 始するのは世界で初めての試みです。このカラービデオカメラにより、水深3,572m の深海底に棲息するシロウリガイの姿を鮮明に映し出しました。(別添参照)
また、先端観測ステーションに搭載されている塩分・水温・深度計(CTD)からは 、平均して35パーミル(塩分濃度)、1.5℃(水温)程度の値をリアルタイムで 送り続けています。本システムには、カラービデオカメラの他、塩分濃度、水温、地 中温度計等が装備されており、これら深海底における生物学的、物理的な環境の変化 と地震等の海底変動現象との相関関係を長期的に観測することが可能となります。2.システムの構成
「海底地震総合観測システム」は、室戸岬沖から南海トラフに至る海域の地震、津波 等の海底変動や深海環境をリアルタイムで観測することを目的としています。
本システムは、“ケーブル型海底観測ステーション”と“展開型海底観測ステーショ ン”とで構成されており、今回、“ケーブル型海底観測ステーション”の運用が開始 されました。
“ケーブル型海底観測ステーション”は、光ファイバーケーブルで接続された海底地 震計2台、津波計2台及び先端観測ステーションで構成され、高知県室戸岬から沖合い 約100kmまでの間の、水深1,286mと2,116mに海底地震計(計2台 )、水深1,54 4mと2,384mに津波計(計2台)及び水深3,572mに先端観測ステーション(1台)を 設置しました。先端観測ステーションには,カラービデオカメラ(首振り機構付)、 水中ライト(6台)、地中温度計(2台)、流向流速計、CTD(導電率(塩分)・ 水温・深度計)、ADCP(ドップラー式音響流向流速計)などが装備されています。
これら観測機器により得られたデータは、光ファイバーで陸上局にリアルタイムで送 られます。さらに、カラー画像を含む観測データは,室戸陸上局から専用電話回線で 海洋科学技術センター(神奈川県横須賀市)まで送られています。3.今後の予定
「海底地震総合観測システム」は、本日から本格的に運用を開始致します。
今後、観測データをもとに、地震につながる深海の諸現象や、深海環境、生物生態等 を総合的に解明していく予定です。
また、地震及び津波データは、気象庁大阪管区気象台にリアルタイムで伝送され、四 国沖南海トラフで発生する地震の総合判定に利用される予定です。
「海底地震総合観測システム」を構成する「展開型海底観測ステーション」について は、浅海域で実証試験を行ったのち、本年夏頃に高知県室戸岬沖約250kmの四国 海盆(水深約4400m)に設置する予定です。
パーミル;千分率(パーセントは百分率)
1 「ケーブル型海底観測ステーション」に搭載された観測機器
2 「海底地震総合観測システム」概念図
3 ケーブル敷設ルート
4 写真1 先端観測ステーション
写真2 海底地震計
写真3 津波計
参考資料1
2 津波計 2台
地震発生に伴う津波の発生を観測する
<先端観測ステーション>
1 カラービデオカメラ 1台
シロウリガイなどの深海生物を観測する
2 ハイドロフォン 1台
地震や火山噴火にともなう水中音を観測する
3 地中温度計 2台
シロウリガイ周辺の地中の温度勾配を測定する
4 CTD(導電率(塩分)・水温・深度) 1台
海水の導電率(塩分)、水温、圧力変化を測定する
5 ADCP(ドップラー式流向流速計) 1台
海底付近の流れを二次元的に測定する
6 流向流速計 1台
海底付近の流れを測定する
7 水中ライト 6台
カラービデオカメラ撮影用照明
参考資料2
参考資料3
参考資料4
写真2 海底地震計
写真3 津波計