JAMSTEC
平成10年12月 8日
海洋科学技術センター


ニューギニア島北岸沖精密地球物理調査の実施について


 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、平成11年1月より、深 海調査研究船「かいれい」をパプアニューギニア近海に派遣し、1998年7月17日に発生し た地震・津波の原因の解明のための調査研究を行います。この調査研究は、被災国を含む 地域国際機関からの要請をふまえて行われるものであり、広く南太平洋諸国との国際協力 により進められます。


          問合せ先:海洋科学技術センター
               深海研究部   松本
               普及・広報課  喜多河、他谷
                電話 03-5765-7101(東京連絡所)


  1. 概要
     1998年7月17日17時49分(日本時間)にニューギニア島北岸アイタペ・シッサノの沖で M7.0の地震が、またその直後に大規模な津波が発生しました。特に津波の被害は甚大であ り、遡上高15 m、また被災者6,000人とも報道されています。災害発生直後には、我が国 の津波研究者による現地調査隊が組織され、沿岸域の津波被害状況調査と陸地に乗上げた 津波の波高の推定作業が行われましたが、これらの調査の結果により 、津波の原因は、地震に伴う震源域での地震断層よりはむしろ、地震の発生に誘発された 海底地すべりであると言われています。以上の点に鑑み、この地域での集中観測を行い、 地震の発生から津波の発生に到る過程、更にはそれらをひき起す力、背景にある広域テク トニクスを明らかにすることによって、将来の地震・津波被害の軽減・防止に役立てるこ とが期待されます。そこで、1999年1月より、「かいれい」を派遣し、海底地形調査を中 心とした調査研究を展開します。またその調査結果をもとに、今後、支援母船「なつしま 」及び深海探査機「ドルフィン−3K」による海底の目視観察を中心とした調査航海を実 施することも検討しています。

  2. 経緯
     この様な地震・津波の実態を知り、原因を究明するため、震源域で海域調査を行うこと は不可欠のことです。今回被害のあったパプアニューギニアを含む南太平洋諸国の鉱物資 源・地震・津波などの地質現象に関する情報を一括して管理し、各国間の調整を行う使命 を持つ国際機関であるSOPAC(South Pacific Applied Geoscience Commission = 南太平洋 応用地学委員会、本部フィジー国スバ)は、その任務として、今回の災害の原因を解明す るための方策を検討していましたが、SOPAC加盟国*)には調査に適する観測船がなく、そ こで、同委員会のアルフレッド・シンプソン総裁から、かねてより海洋科学分野での共同 研究を行っていた海洋科学技術センターの理事長宛、調査研究実施の要請がありました。 本計画は、これにより検討され、実施されるものです。我が国でも過去に大津波により多 数の死者を記録した例があり(例えば1771年八重山での明和の大津波、1933年三陸地震津 波、1993年北海道南西沖地震時の奥尻島での津波被害等)、今回の津波の原因を解明する ことは、単にニューギニア地域のみならず、我が国周辺をはじめとする西太平洋全域、ひ いては中南米西岸なども含む世界全域での津波研究に役立ちます。海洋科学技術センター が中核となって研究を進めて行きますが、調査チームとしては、全日本の専門家の叡智を 結集し、大学・国立研究所からも研究者が参加します。また当事国であるパプアニューギ ニアは勿論のこと,SOPAC加盟国の研究者も本調査研究に参加します。

  3. 参加機関及び国際協力体制
     本行動は、日本国内の大学及び国立研究機関に属する津波研究者を中心とした研究チー ムを主体とし、SOPAC(前出)会員国・関係国の研究者の協力も得て実施されます。日本国 内からは、海洋科学技術センターの他、工業技術院地質調査所、海上保安庁水路部、東京 大学地震研究所、琉球大学、電力中央研究所等が参加し、その他、パプアニューギニア、 ニューカレドニア、ハワイ、米国、英国の研究者が参加します。

  4. 計画の日程
     本計画による「かいれい」精密地球物理調査の目的・内容及び日程は以下の通りです。 また、対象海域を図1図2に示します。

    (1) 調査目的・内容:
     本調査海域では、過去に精密地形調査等の系統的な調査研究はほとんど行われていませ ん。そこでまず、平均速度約12ノットで航走しながら、海底地形、海底反射強度**)等の 探査を行います。地形データ及び海底反射強度データから津波の原因となった地震断層、 或いは海底地すべりの場所をある程度特定することが可能となります。海洋科学技術セン ターでは、これまでに前述の1771年の明和の大津波に関する総合的な調査研究を行って来 ましたが、その成果をもとに、今回津波が陸上に達して大規模な被害を及ぼした原因とし ては、波源域と陸域との間に存在する海底谷に沿って津波が極度に増幅したことが推定さ れます。得られた精密地形データを用いて津波伝播のシミュレーション計算を行うことに より、そのことを証明することが期待されます。更に、底泥採取も行い、今回、海底地す べり、あるいは海底の崩落の痕、更には過去にも同様の現象があったか否かについて、そ の実態を解明します。

    (2) 調査日程:
     12/26 那覇出港,マダン向け回航
     1/1 マダン入港,研究者乗船
     1/2 マダン出港
     1/3 パプア島北岸アイタペ沖調査海域着,調査開始
     1/11 調査海域発
     1/12 マダン入港,同上航海終了
     1/13 マダン出港,横須賀向け回航
     1/21 横須賀入港


*) SOPAC加盟国:
 オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、グアム、キリバス、
マーシャル諸島、ニュージーランド、パプアニューギニア、ソロモン諸島、トンガ、
ツバル、バヌアツ、西サモア

**)海底反射強度
 「かいれい」に搭載された測深装置には、海底の反射強度を測定する機能も付加されて います。海底反射強度は、海底の堅さを表す指標となりますが、海底での堆積物の乱れな どがあれば、周囲と比べて明瞭な反射強度の違いが見出され、海底の地すべり・崩落の痕 などを特定する際に極めて有効です。