JAMSTEC
平成11年 3月23日
海洋科学技術センター
海洋音響トモグラフィーの運用状況について
- 経緯
海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、中部熱帯太平洋におけるエルニーニョ等 の観測のため、海洋音響トモグラフィーシステム5基(注1:図1)を平成10年12月23日か ら平成11年1月3日の間に設置し(図2)、約1年にわたる長期観測を実施している。この 観測データの一部は海面ブイ(注2)を用いてリアルタイムで陸上に送信されている。
- これまでの成果
陸上に送信されてきた水温データと同時期に直接海域で計測した水温はよく一致している ことが確認された(図3)。また、実験開始直後の1月18日頃に一時的な水温の上昇が観測 されたが、2月初旬には水温の低下(200m深度で2度程度)が見られた。その後、この1ヶ 月間を通じては、水温が低下しており、この現象がラニーニャ現象(注3)に結びつくか 否かに注目し、引き続き観測をすることとしている(図4)。
- 機器の現状
4号機、3号機、2号機が、本年の2月14日(8時),2月20日(18時)、3月5日(18時)の定 時送信(注4)を最後に各々の通信が途絶えており、リアルタイムでのデータ受信はなさ れていない。現在正常に動作している1号機及び5号機からの衛星データ解析から、2号機、 3号機及び4号機の水中下にあるトランシーバ(注5)は、スケジュール通りに音源の発音が 作動しており、全てのデータが正常に記録されているものと推定される。
- 今後の予定
平成11年12月までこのまま観測を行い、エルニーニョ現象などの解明に向けて、データを 収集する。その後、海洋調査船「かいよう」の航海において全基を回収するとともに、蓄 積されているデータを取り出した後、本格的な観測データの解析を実施する予定である。 また、海面ブイの通信途絶についても、原因究明及び対策を施し、平成12年1月に再設置 する予定である。
・200Hz送受信システム係留系
・海面ブイ構造図
問い合わせ先: 海洋科学技術センター
海洋観測研究部 中埜、藤森
TEL 0468−67−3885
普及・広報課 他谷、野口
TEL 0468−67−3806
- 注1*海洋音響トモグラフィーシステム
- 医用のX線CTと同じ原理で、X線の代わりに音波を使って、海の中で種々な角度から音 波を出したり受けたりして、海の中の水温や流れのCT像を写し出そうとするもの。
- 注2*海面ブイ
- データ伝送用のインマルサット送受信機とトモグラフィー内のクロック校正用のG PS受信機を搭載、水中のトランシーバとは長さ約3000mの伝送ケーブルで接続されてい る。
海面ブイの機能は、
- データ送信 :8KB蓄積後、観測データを送信(不定期)
- 定時送信 :一日一回送信、日本時間0時
- アラーム送信:海面ブイが漂流した時、3時間毎に位置情報を送信
- 受信窓 :毎週水曜日に陸上からのコマンドを受信するために、受信機を起動している時間。
- 注3*ラニーニャ現象
- エルニーニョとは逆に、熱帯太平洋の中央部から東部にかけて海面水温が平年より低くな る現象。東日本や西日本の夏の気温は高温傾向が強く、冬の気温は低温傾向が強い。
- 注4*定時送信
- 1日1回決められた時間に海面ブイの位置や電池電圧等を送信する。
- 注5*トランシーバ
- 海中で音波を送受信するための音源(水中スピーカー)と受波器(水中マイクロホ ン),電子回路等で構成されるトモグラフィーシステムの中心部。電子回路には、高精度 クロック,データ処理・記録器,音源駆動用アンプ等が含まれ、トランシーバ間の音波の 正確な伝搬時間が計測される。また、海面ブイが流失した場合に備えルビジウム原子発振 器を内蔵しており、クロックの校正を行う機能を持っている。