JAMSTEC
平成11年 3月29日
海洋科学技術センター


深海探査機「ドルフィン-3K」及び支援母船「なつしま」による
ニューギニア島北岸沖精密海底調査の結果について


海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、平成11年2月21日から26日にかけて、 深海探査機「ドルフィン-3K」及び支援母船「なつしま」をパプアニューギニア近海に 派遣し、南太平洋諸国との国際協力によって、1998年7月17日に発生した地震・津波の原 因の解明のための調査研究を行いました。以下に成果の概要を報告致します。

なお、本調査は、本年1月3日から11日にかけて行われた深海調査研究船「かいれい」に よる調査の結果をふまえて、実施されました。





              問合せ先:海洋科学技術センター
                   深海研究部   松本 剛
                    電話 0468-67-3833
                   普及・広報課  他谷 康
                    電話 0468-67-3806



  1. 概要
    1998年7月17日17時49分(日本時間)にニューギニア島北岸シッサノ・アイタペの沖で M7.1の地震が発生し、またそれに引き続いて大規模な津波が発生しました。海洋科学技術 センターでは、地震の発生後の津波の発生に到る過程、更にはそれらを引き起こす力、背 景にある広域テクトニクスを明らかにすることによって、将来の地震・津波被害の軽減・ 防止に役立てることを目指して、この地域で集中的な観測を行うことになりました。第一 次調査として、本年1月3日から11日にかけて、深海調査研究船「かいれい」により、海 底地形調査を中心とした調査研究を実施しました。今回、第二次調査として、深海探査機 「ドルフィン-3K」による調査潜航を実施しました。
    なお、この一連の調査研究は、今回被害のあったパプアニューギニアを含む南太平洋諸 国の鉱物資源・地震・津波などの地質現象に関する情報を一括して管理し、各国間の調整 を行う使命を持つ国際機関であるSOPAC (South Pacific Applied Geoscience Commission = 南太平洋応用地学委員会、本部フィジー国スバ) からの要請を受けて海洋科学技術セン ターが実施したものです。日本国内からは、海洋科学技術センターの他、工業技術院地質 調査所、東京大学地震研究所から津波研究者が参加し、海外からは、当事国でありSOPAC 会員国でもあるパプアニューギニアの他、ニューカレドニア、ハワイ、米国、英国、オー ストラリアの研究者が参加しました。

  2. 調査内容
    先の「かいれい」による海底地形調査結果をもとに、シッサノ・ラグーン沖20~40 km付近に見られる、海底地すべりにより起きたと思われる新鮮な崩落箇所、或いは断層運 動により起きたと思われる断層崖のうち、最も勾配が急であり、新鮮な滑り面の露出して いる箇所などを割り出し、深海探査機「ドルフィン-3K」及び支援母船「なつしま」に よる海底精密調査を行いました(図1図2)。ここでは主として、海底地質調査、海底 変動状況の確認、及び底質試料採取を行い、今回の断層運動あるいは海底地すべりが実際 にどの場所で起こったかなど、海底変動の具体的な地点を特定することを目指しました。

  3. 調査日程(現地調査海域のみ)
    2/19  マダン出港・回航
    2/20  調査海域着・事前調査
    2/21
      「ドルフィン-3K」潜航調査
    2/26
    2/27  調査海域発・回航
    3/1   マダン着



  4. 調査地域の特異点
    (1) 海底の地割れの発見
    本調査海域内には海底地すべりを起こした痕の様な地形が到る処に見られますが、その中 でも、シッサノ・ラグーンの北東沖約20km付近の北落ちの円弧状の急崖が最も新しそうで あり、その急崖での潜航を行いました(図3)。その結果、水深1530~1500m辺りの斜面 上に、東西方向に延々と続く大規模な地割れが現れました(写真(1)(2))。目視観察に より、地割れの淵は鋭く、割れた面には水平な地層も見られ、中に柔らかい堆積物がたま っていることから、発生した時代は相当に新しく、今回の地震に伴うものである可能性が 高いと推定されます。また、この地割れは長さが100~200mぐらい続き、また別の地割れ が始まり、また100~200mぐらい続きました。この様な地割れは、断層起源であるとも、 また、海底地すべり面の上部に発生するものとも考えられます。

    (2) 斜面崩壊痕の発見
    地割れ地点の北沖約10kmのところにある東北東-西南西方向に約5km延びる海丘の南側の 急崖の、水深2100mの辺りにも斜面の崩壊した痕が見られました(図3写真(3))。崩 落痕が全く泥を被っていないことから、これについても今回の地震によるものである可能 性が高いと推定されます。

    (3)特異な生物群集の発見
    シッサノ・ラグーンの北東沖約20kmのところに、直径2000m程の環礁が約500m弱程沈降 した痕があり、その環礁の東側の縁に当たる部分に二枚貝がびっしりと詰まった生物群集 が見られました(写真(4))。貝類のうち、黒色の立っているものはシンカイヒバリガイ (注)の生貝であり、その周辺の白色の散乱しているものはハナシガイ科の二枚貝の死骸 でした。生きたハオリムシも2匹採取しました。これらは、海底下の活動(この場合は地 下の活断層面の存在)を反映していると考えられている冷湧水性の化学合成生物群集で、 同様な生物群集は、日本周辺の地震多発域に当たる相模湾初島沖、南海トラフ、三陸沖日 本海溝域などにも共通に見られます。

    上記以外でも小規模な断層、地割れ、あるいは地すべりなど、地震動を示す証拠が数多く 観察されました。また、比較的古い変動痕も見られたことから、この地域では過去に繰り 返し断層運動や海底地すべりなどが起っていることが推定されます。

  5. 調査結果
    今回の調査により、南緯2度50分、東経142度15分を中心とした半径約8�範囲内(図3円 内)で起こった地殻変動が今回の津波の発生の原因であることが明らかとなりました。こ れは、上記範囲内に非常に新しい地割れや地すべりの痕などが見られたこと、この範囲内 で地殻変動が起こったと仮定して津波伝播のシミュレーションを行った結果、陸上で計算 上最大波高が現れる位置と実際に陸上で最大波高が現れた位置がほぼ一致したことから推 定される結論です。
    なお、最終的な結論は、変動を起こした具体的な地点、変動の規模、発生した現象の順 序などについて、今後の詳細な数値シミュレーションにより明らかになります。

    注:現在世界で八種が報告されており、そのうち四種が日本産でいずれも海底から熱水や 冷水がわき出す地点に分布しています。殻長10~15cm程度の褐色で、肥大したえらを持ち その中に無数の細菌を飼っており、細菌の作り出す有機物に頼って生きています。