平成11年6月11日
海洋科学技術センター
四国室戸沖南海トラフにおける
大規模かつ高密度な深部構造探査について
-南海地震発生過程の解明を目指して-
海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、これまで明らかにされなかった西部南海トラフにおける海溝型地震発生域(多くは海陸域を含む深度約10〜30kmが該当)に至る深部構造を詳細に把握するため、陸域と海域の相互で、大規模な探査を開始します。
この探査は、6月14日、陸域(香川県及び徳島県各1ヶ所)においてダイナマイト(500kg/1発破)の発破を行うのに続き、海域においても6月15日から18日にかけて、通常探査の3〜4倍のエネルギーの大容量エアガン(容量約200リットル)を海域で発振して人工地震波を発生させ、陸域深部や海底下深部を伝搬して地表や海底面に到達する振動を、陸上および海底の地震計で捉えます。海溝型地震発生域に至る深部構造を把握するためには、これまで行われなかった40〜50kmの深部を探査する必要があり、今回の探査により捉えたデータを解析して50kmまでの深部構造を明らかにしようとするものです(図1)。
このため、海陸域の約200kmにわたって、海底地震計100台と陸用地震計70台(東京大学地震研究所所有の共同利用機器)により観測するため、深海調査研究船「かいれい」ならびに海洋調査船「かいよう」を動員して海域での調査を進めるものです。
測点間隔は1〜2kmと、同規模の探査に比べ数倍の高密度であり、海陸域での相互発振受振による高密度地震計展開の深部構造探査としては世界的にもほとんど例がありません。
この探査によって、震源分布の詳細解析やモデリング研究等と併せて地震発生過程の解明に一歩近づくと期待されます。
問合せ先:海洋科学技術センター
フロンティア研究推進室 能瀬、金田
電話 0468-67-3384、3392
総務部普及・広報課 他谷、池川、野口
電話 0468-67-3942
1.今回の調査にあたって
当センターでは、海溝域で発生する地震研究を進めており、南海トラフ周辺の海域調査においても1946年の南海地震の際に発生したと考えられる地震断層を発見・解析しました(図2)。また海溝域で発生する巨大地震のトリガーの一つと考えられている海山の沈み込み構造を解明してきました(図3)。この深部構造探査によって地震断層や海山の詳細構造が初めて明らかになりました。
今回の探査では、南海トラフ周辺の海域と香川県から徳島県にかけての陸域において、大規模な深部構造探査を行い、地震活動の評価を行います。このような海陸域にわたる大規模な探査によって、地震発生過程の解明に重要な海陸境界部の深部構造が明らかになります。
2.調査経緯
四国沖南海トラフ海域においては、巨大地震が多発し、海底下の地殻変動が活発な海域として知られており、センターとしてもこれまでマルチチャンネル反射法探査システム(注)を用いた探査を行い、解析を行ってきました。
また今回の探査に先立ち、6月6日から9日には、深海調査研究船「かいれい」及び海洋調査船「かいよう」の2船式探査でより深部の反射法探査を行いました。その後、6月14日の陸上発破記録を総計170台の海陸地震計で観測し、6月15日から18日には、海洋調査船「かいよう」に搭載した大容量エアガンの発振を海陸域延べ約200kmに及ぶ測線で観測を行います。
3.調査概要
陸域の2地点(香川県大川郡大川町および徳島県海部郡海部町)で時間差により発破作業を行い、また海域では「かいよう」の大容量エアガン(容量200リットル、140気圧)を作動します。
これらの信号を、70台の陸上地震計と海底に設置した100台の海底地震計を用い、海陸域での相互発振受振による深部構造探査を行います。
4.期待される成果
このような陸域と海域にわたる大規模かつ高密度な深部構造探査(図4)は、世界的にも極めてまれで、プレートの沈み込み構造を詳細に把握する事ができ、深部構造と震源分布によって地震活動の評価を行う上で大きな成果が期待されています。
また、これらの研究成果と今回の探査によって得られるデータを用いて深部構造を数値モデル化し、当センターが開発を進めている地殻変動のシミュレーションを行うことによって、このような海溝域でおこる巨大地震のメカニズム解明と今後の地震発生の長期予測モデルの構築に、一歩近づくことができると期待されます。
注:海面付近から海底に向けて音波を発生させ、海底下の物質境界面からの反射波を海水面付近のストリーマーケーブルで受振し、その連続記録を解析することで、海底下20km程度までの地下構造を詳細に把握することができるシステム