平成12年5月17日
海洋科学技術センター

我が国初の北極点への氷海観測用小型漂流ブイによる観測に成功


 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、平成12年4月25日午前2時48分に北極海の北緯89度41分、西経130度20分の北極点の海氷上に、我が国初の氷海観測用小型漂流ブイ1号機(以下:小型漂流ブイ)」を米国ワシントン大学及び米国海洋大気庁太平洋海洋環境研究所と共同で設置し、データが正常に伝送されていることが確認されました。(資料1-11-2
 小型漂流ブイは、海洋科学技術センターが米国ウッズホール海洋研究所と過去10年余り行ってきた氷海用自動観測ステーションによる北極海の自動観測技術を基に独自開発したもので、通信衛星によるデータ伝送、GPSによる精密位置決定、海洋センサーと水中ケーブルの間には非接触型の電磁誘導モデムを採用するなど、最新の技術を集めた氷海用の小型海洋観測ブイです。今回北極点自動観測ブイを設置することにより、今まで非連続的にしか入手できなかった北極点付近の海洋環境のデータの入手が可能となり、このブイを複数機展開することにより「変化しつつある北極海」の実態とその変動速度が明らかになる等の成果が期待されます。

(時間は全て日本時間)

北極点に設置された漂流ブイ | 漂流ブイ設置風景

問い合わせ先
海洋科学技術センター
海洋観測研究部 滝沢、畠山
TEL 0468—67—3876
北極研究グループホームページ
普及・広報課 他谷、木村
TEL 0468—67—3806

 




参考資料

北極点氷海観測用小型漂流ブイの設置概要

1.概要
 小型漂流ブイは、地球温暖化の影響が最も早く現れ、全球的気候変動に大きな役割を果たすとされる北極海の現場観測データを収集するものです。小型漂流ブイ(図1)は、シベリアの沖から北極点を通り北大西洋へ流出する流氷の流れ「極横断流」に乗り(図2)、気象データ(風向風速、気温、気圧)と深さ250mまでの水温・塩分及び深さ170mまでの海流を自動測定することに限定しました。小型漂流ブイは、当センターが独自開発したもので、通信衛星によるデータ伝送、GPSによる精密位置決定、海洋センサーと水中ケーブルの間には非接触型の電磁誘導モデムを採用する等、最新の技術を集めた氷海用の小型海洋観測ブイで、このブイを複数機展開することにより「変化しつつある北極海」の実態とその変動速度が明らかになる等の成果が期待されます。データは人工衛星を経由して当センター横須賀本部まで計測データを送ります。

2.目的
 地球温暖化による21世紀の気候変動モデルは、いずれも北極域で気温上昇が最も大きくなる事を予測しています。
この小型漂流ブイを複数機展開する事により、厚い海氷の存在により船舶観測のみならずリモートセンシング手法も限られる北極海がこれからどのように変わっていくのかを捕らえる事を目指しています。

3.期待される成果
イ.小型漂流ブイからの気象観測データは、測候所やアメダスに代表される気象観測点が存在しない北極海における、気象データ収集漂流ブイネットワークの一環として北半球の天気予報業務に利用されます。
ロ.小型漂流ブイを複数機展開する事により、北極海の海氷の減少や海洋中層の水温と塩分の上昇等を広域立体同時観測が可能になり、「変化しつつある北極海」の実態が明らかになります。
ハ.小型漂流ブイからのデータは、北極海の貴重な現場観測データの蓄積となり、全球的な気候変動の解明に貢献できます。

4.今後の予定
 平成12年5月17日午前6時現在、小型漂流ブイ1号機は、北緯89度28分、西経57度43 分(図2)、にあり極横断流に乗って約130m/日で北大西洋へ向かっています。今年9月には、北極海の極横断流に並ぶ代表的な流氷の流れ「ボーフォート循環」の観測を目指して2号機をカナダの北沖に設置する計画です。
氷海観測用小型漂流ブイについて 


 


 

ブイの主要目
 浮体部 全 高  4m (アンテナを含めると7m)
     最大直径 0.7m
     材 質  アルミ製。浮力材として特殊発泡樹脂。
 水中ケーブル   260m

 重量(空中重量) 280kg
 海洋センサー
  水温塩分計   4台(最大6台)
  音響式流向流速計 1台(最大2台)
層厚10mで16層の海流鉛直分布が測定可能
気象センサー 風向風速計 1台
気温計 1台
気圧計 1台
通信システム  ORBCOMM衛星通信システム(双方向通信可能)
(バックアップとして、ARGOSシステム搭載)
ブイの位置決定 GPSシステム
電    源  260Ahrリチウム電池 2個

主な特徴として、
イ. 観測項目を海洋物理(水温、塩分、海流)と気象に限定しました。
ロ. 大容量のデータを送信するため、双方向通信が可能なシステムを採用しました。これは、必要に応じて海洋科学技術センターより指示を送ることによって、計測モードや通信モードを変えることが出来ます。また、バックアップとしてARGOSシステムも搭載し、2重の通信系統を持っています。
ハ.漂流ブイであるため、海流の絶対流速を精度良く求めるためには、ブイ自身の移動速度を精度良く計算する必要がありますが、GPSシステムの採用により精密な位置決定が可能となりました。
ニ. 海洋センサーと、計測データを浮体部の中央処理装置に伝送する水中ケーブルの間には、非接触型の電磁誘導モデムを採用し、接続部での漏水や接触不良などのトラブルを最小限にしました。
ホ. 計測データは衛星通信システムにより送信されると同時に、ブイ本体の48メガバイトフラッシュ・カード・メモリーに記憶されます。従って、もし2重の通信系統が不調でデータ伝送が出来ない時でも、ブイの回収が出来れば測定データを失う事は避けられます。