海洋音響トモグラフィーによりラニーニャ終息時の変化を観測することに成功

平成12年 9月22日 
海洋科学技術センター

 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、海洋音響トモグラフィーシステム(注1)を中部熱帯太平洋に展開し(図1)、トモグラフィー観測実験を行っています。
  この観測データから、

・水温の解析により、冷水や暖水が西向きに50cm/s程度で伝わる波動現象。
・ 流速の解析により、70日程度の周期の南北への流速変化。
などが得られました。
  これらは、トモグラフィーの手法で初めて捉えられたものです。
  また、これらの変化は、本年4月以降は弱まっていますが、これはラニーニャが終わった時期とほぼ重なるものでした。
  この実験は、7基のトモグラフィートランシーバを用いて行われており、2000年1月から8月までのデータを解析した結果、得られたものです。
  この結果は、9月26日(火)から行われる2000年日本海洋学会秋季大会で発表されます。

 背景
 熱帯にはエルニーニョやラニーニャという数年スケールの大規模な変動があることが知られていますが、この変動に対して亜熱帯での10年スケールの変動が影響を及ぼしているとも考えられています。この関係の解明に向けて、熱帯から亜熱帯にまたがる観測範囲でのトモグラフィー観測を行っています。

 観測及び考察
  北緯3度付近の水温に暖水や冷水が交互に現れているこの現象は、赤道のLegeckis(レジキス)波(注2)によるものと考えられます(図2)。今年の4月にラニーニャが終わりましたが、これと同時期に、この活動が弱まっているのが分かります。
  流速の時間変化に着目すると、2号機と4号機の間(約500km)の平均流速の南北成分は、70日程度の周期で南北に流れが変動していることが分かります(図3)。流速は最大で3cm/s程度です。このように広域の平均流速の計測は他の観測手法では難しく、トモグラフィーによって初めて求まったものです。
  この現象も今年3月を境に弱まっており、ラニーニャの終息時期と重なるものです。 今後、この計測を本年12月まで続け、このデータをもとにエルニーニョ等のメカニズムの解明に貢献していく予定です。       

(問い合わせ先)               
海洋科学技術センター            
海洋観測研究部 中埜、藤森        
  電話(0468)67−5515     
総務部普及・広報課 他谷、月岡      
電話(0468)67−3806     
ホームページ;http://www.jamstec.go.jp

「2000年日本海洋学会秋季大会」は以下のURLをご参照下さい。
http://www2.ori.u-tokyo.ac.jp/~osj/kaiyo/kaiyoj.html


注1:海洋音響トモグラフィーシステム

 海洋音響トモグラフィーは、音波を使って広域な海洋の水温や流速などを計測する計測手法であり医用のX線CTと同じ原理で、X線の代わりに音波を使って、海の中で種々な角度から音波を出したり受けたりして、海の中の水温や流れのCT像を写し出そうとするものです。
  今回の実験では、中部熱帯太平洋の東西1200km、南北1500kmという広範囲の観測海域の水温や流速が観測されています。
  トモグラフィーでは、海洋の内部の立体構造を知ることができます。
図4:水温表示参考図図5:流速表示参考図6:トモグラフィーシステム概念図写真1:トモグラフィートランシーバ図7:係留系構成図図8:設置海域詳細図図9:トモグラフィー原理図

注2:Legeckis(レジキス)波(赤道不安定波動:Tropical Instability Waves)

 この現象は、東太平洋のこの緯度付近で発達し、Legeckis(レジキス)波(あるいは赤道不安定波動)と呼ばれ、西向きに50cm/s(時速約1.8km)程度の速さで伝播することが、人工衛星による海面水温の観測等から知られています。
 これは、2−4N、2−4S付近において赤道海流系の不安定によって発生する渦であり、水平波長1000〜1500km、位相速度0.5m/sec周期30日程度のカプス状(角型状)をした波が、東西に並んで西向きに伝播するもの。ラニーニャ時の強い赤道湧昇に伴って冷水が張り出し、南北方向の水温差が生じている時に、より発達し、日付変更線付近まで伝搬する。