東海沖から中部日本において海陸域で大規模な深部構造探査を実施

平成13年7月25日
海洋科学技術センター
東京大学地震研究所 

1.概要
 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)及び東京大学地震研究所(所長 山下輝夫)は、全国の大学(注1)や気象庁と協力し、東海沖から中部日本を横断して日本海沿岸まで、海陸を統合した大規模な深部構造探査を実施する。
 今回の構造探査は、約360台の陸上地震計及び約70台の海底地震計を用い、陸海にわたって総測線長480kmもの大規模かつ高密度なもの(図1)。これは国内で過去最大、世界的にも例が少ない。
 これによって、最近、中央防災会議によって見直しが行われた東海地震の想定震源域を含む深さ30〜50kmまでの詳細なプレート構造を初めて得ることができ(参考1)、東海地震の発生メカニズムの解明など地震調査研究の推進に大いに寄与するものである。

2.観測体制
 構造探査は、海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システムプレート挙動解析研究領域(金田 義行 領域長)及び東京大学地震研究所(岩崎 貴哉 教授)が中心となって実施する。このうち陸域の構造探査については、地震研究所の共同利用研究所の機能を活用して、全国の大学(注1)の協力を得て実施する。また、海域については主として海洋科学技術センターが担当する。

3.観測内容
3.1 海陸統合大深度構造探査(図1
 深さ40〜50kmまでのプレート沈み込みの詳細なイメージを得るため、かつてない約360台(予定)もの多数の陸上地震計を静岡県から石川県にかけて約500m〜1km間隔で設置する。また、海域部では、海洋科学技術センターの海洋調査船「かいよう」(2,893総トン)により東海沖に約70台の海底地震計を約3km間隔で設置する。
 この測線上で、陸域部ではTNT火薬(500kg:5地点)による発破を実施し、海域部では「かいよう」の大容量 エアガン(約200リットル、140気圧)を用いた音波(エアガン波形)を海底に向けて発する。
 この発破による地震波及びエアガンから発せられた音波が地殻内部で反射・屈折したものを上述の陸上地震計及び海底地震計により観測する。

3.2 日仏共同構造探査
  東海沖には、巨大地震の震源過程に影響を及ぼす可能性のある古銭洲海嶺が沈み込んでいると考えられている。このような不整形構造をさらに詳細に把握するため、昨年度の事前調査の結果 を踏まえて、「かいよう」により海底地震計約100台(約1km間隔)を用いた構造探査を実施する。これは海洋科学技術センター、東京大学海洋研究所及び仏海洋研究所(IFREMER)による日仏共同研究として実施する。

3.3 陸域精密地殻構造探査
 東京大学地震研究所は,陸域における精密な構造探査を実施するとともに、今回の測線の一部において地震計の稠密展開(約50m間隔)による高精度な活断層構造のイメージング(画像化による解析)も行う。

4.観測スケジュール
平成13年7月27日:「かいよう」(第1航海)横須賀新港を出航(〜8月17日)。日仏共同構造探査を実施。
     8月20日:「かいよう」(第2航海)横須賀新港を出航(〜9月6日)。海陸統合構造探査を実施。
     8月25日〜26日未明:陸上発破作業の実施

5.解析
 今回の構造探査データを用いて,東海・中部地方に沈み込むプレート境界面深部までの物性や力学的特性,島弧 側地殻の不均質構造等に関する解析を行う。これは,プレート沈み込みの伴う様々な時間スケールのダイナミクス(例えば日本列島の形成史など固体地球の大規模な変動)の理解に大きく貢献するものである.
 さらに,得られた解析結果は,IFREEが開発を進めている地殻活動のシミュレーションの元となる物性情報に反映させる.これによって、海溝域で起こる巨大地震のメカニズム解明と今後の地震発生の長期予測モデルの構築に、一歩近づくことが出来ると期待される.

6.これまでの成果
 固体地球統合フロンティア研究システム(平成12年度末までは海底下深部構造フロンティア)では、平成8年度後半から、海溝域で発生する地震研究を進めており、陸域と海域にわたる構造探査は、今回より小規模であるが、これまで平成11年6月に四国において初めて実施し(総測線長355km、陸上地震計93台、海底地震計98台。参考2)、12年7月に北海道東方域で実施している(総測線長440km、陸上地震計74台、海底地震計45台。)。
 前者の構造探査では、過去の南海地震の際に発生したと考えられる地震断層(参考3)、及び、1946年南海地震の発生・破壊過程に関係すると考えられている海山の沈み込み構造(参考4)を発見している。

         問い合わせ先:
          海洋科学技術センター
           フロンティア研究推進室フロンティア研究推進課 西村、能瀬
            電話 0468−67−5664
           総務部普及・広報課 志村、月岡
            電話 0468−67−3806

          東京大学地震研究所
           事務部庶務掛
            電話 03−5841−5666


【観測体制】

■代表機関

・海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システムプレート挙動解析研究領域(金田 義行 領域長)
・東京大学地震研究所(岩崎 貴哉 教授)

■陸域の構造探査における協力機関

・気象庁      (濱田 信生 地震予知情報課長ほか)
・神奈川県温泉地学研究所(棚田 収)
・北海道大学理学部 (森谷 武男 助教授ほか)
・山形大学理学部  (長谷見晶子 教授ほか)
・茨城大学理学部  (宮下 芳助 教授ほか)
・極地研究所    (金尾 政紀 助手ほか)
・東海大学海洋学部 (馬場 久紀 助教授ほか)
・名古屋大学理学部 (山岡 耕春 助教授ほか)
・岐阜大学教育学部 (佐々木嘉三 教授)
・京都大学防災研究所(伊藤  潔 助教授ほか)
・九州大学理学部  (鈴木 貞臣 教授ほか)
・鹿児島大学理学部 (宮町 広樹 助教授ほか)

【付属資料】

図1 :東海沖−中部日本海陸域統合深部構造探査
参考1:今回の探査のねらい
参考2:1999 年海陸統合地震探査
参考3:東南海地震の際に発生したと考えられる地震断層
参考4:沈み込む海山の発見、1946年南海道地震破壊過程と沈み込んだ海山の関係
参考5:東北日本で実施された深部構造探査結果
参考6:用語解説