平成13年8月2日
海洋科学技術センター

 

〜エル・ニーニョ発生の兆候をつかむ〜
トライトンブイにより西太平洋赤道域において暖水の大規模な移動を観測

 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、ニューギニア近海の赤道域に展開している海洋観測ブイ(トライトンブイ)の測定データから、6月末から7月初めに1.5m/s(時速5.5キロ)を越える非常に強い東向きの海流を観測しました。これは、大規模な暖水の東方への移動を意味し、エル・ニーニョ発生の兆候を示すものと考えられます(図1)。
 当センターでは、昨年6月に西太平洋赤道域に暖水の蓄積があることを発表しました。この西太平洋に蓄えられた暖水を東に押し出す西風が、この暖水プール域で強く吹けば、エル・ニーニョの発生が推測されるとしていました。昨年11月以降数回の西風による暖水の東方への移動が観測されていましたが、今回の流速は極めて大きく今後エル・ニーニョに発達する可能性が高いと考えられます。
 トライトンブイの展開は米国海洋大気庁太平洋海洋環境研究所/PMELのタオブイと連携して、熱帯太平洋全域を監視していますが、今後は東太平洋での風のデータ、水温のデータに注目する必要があります。
 トライトンブイのデータは、準リアルタイムで、PMELのタオブイデ−タとトライトンブイデ−タを統合後、センタ−及び、PMELからインタ−ネットを通じて公開しています。

 

          問い合わせ先:               
           海洋科学技術センター            
            海洋観測研究部 黒田 
             電話0468−67−3472
            海洋科学技術センター トライトンホームぺージ 
             http://www.jamstec.go.jp/jamstec/TRITON/
            総務部普及・広報課 志村、月岡
             電話0468−67−3806


海洋観測ブイ(トライトンブイ)の観測結果概要

1.経緯 

 西部熱帯太平洋の暖水プールにおける大気海洋相互作用が、全球の大気に影響して数年スケールで現れるエル・ニーニョ現象を引き起こすことが知られています。(図2エル・ニーニョの模式図)。この暖水プールの形成過程を、海洋の水温、塩分分布および海面での熱、降水量の時間変化を観測し、エル・ニーニョ現象発生のメカニズム解明の研究をすすめるため、トライトンブイの展開をしています。(図3ブイの配置図)。
 トライトン計画は、米国の海洋大気庁太平洋海洋環境研究所(PMEL)のタオ計画(TAO/Tropical Atmosphere Ocean 熱帯大気海洋研究)と連携して熱帯太平洋全域のエル・ニーニョのモニターを行っています。トライトンブイネットワークは気候変動の予測を研究の中心に置いているCLIVAR (Climate Variability and Predictability 気候変動と予測に関する研究計画)のエル・ニーニョ観測システムの一部としてその計画の推進に大きな役割を果たしています。また世界の海で恒常的な海洋観測網を作ろうとしているGOOS (Global Ocean Observing System 世界海洋観測システム)にも貢献するものです。

2. 観測結果

(1) 暖水移動の指標:赤道上の水温分布、及び20度等温線の深さ

 7月中旬に赤道上の高水温域(または等温線)は西太平洋から中部太平洋に延び、海面水温29度の海水が日付変更線を越えて分布しています(図4上)。また、東経156度で観測された東向きの流れで暖かい海水が集まり、150mの深さで、平年より2度高くなっています(図4下)。7月下旬にはこの暖水は西経140度あたりまで東進し(図5下)、今後、東太平洋の海面水温を上昇させるものと考えられます。
 表層の温度躍層を代表する20度等温線は、熱がどれだけ蓄積されているかの一つの指標です。20度等温線が深ければ暖かい海水が表層に集められていることになります。タオ/トライトン(TAO/TRITON)ブイから得られた赤道沿いの、現在(2001年7月14日)の20度等温線深度とその平年値からの偏差のデータ(図6赤道沿いの20度等温線の深さ)に注目します。この20度等温線深度が赤道上の日付け変更線近辺で170m程度であり(図6上)、平年より10m深くなり(図6下)、西太平洋から東太平洋に移動している途中にあることを示しています。暖水域の西側で西風、東側で東風となっており、暖水域が上昇気流をおこし海上風がこの暖水に向かい吹きこんでおり、大気と海洋が強く結びついている状態にあることを示しています。

 

 

3.図表の説明

図1. 赤道上、東経156度及び東経147度の深度10mの南北方向及び東西方向の流速
 6月30日に赤道上、東経156度で最大1.5m/sの強い東向きの流れを観測した。現在も0.7m/s程度で流れている。赤道上、東経147度でも同様な変化を示す。

図2. エル・ニーニョの模式図 現在は、暖水が西太平洋から東太平洋に移動中。

図3. トライトンブイの配置図

図4. 赤道沿いの水温分布(上)、平年からの偏差(下)(7月14日)

 中部太平洋の日付け変更線付近の深度150mに平年より2度以上高い偏差がある。これが、東太平洋に伝搬すれば、エル・ニーニョとなる。

図5. 赤道沿いの水温分布(上)、平年からの偏差(下)(7月29日)

 7月14日以降も暖水は東進を続け、東太平洋に侵入しつつあることを示す。

図6. 赤道沿いの20度等温線の深さ(上)、平年からの偏差(下)

 中部太平洋の日付け変更線付近に平年より10m深くなっていて暖水が西から東へ移動中であることを示す。この暖水域の東では、東風、西では西風となりこの暖水域に吹き込む様子が判る。