タイ北部の常緑林、最も乾燥する乾季後半に大量の水蒸気を大気中に放出

- 新しい森林モデル予測が観測結果と一致 -

平成13年12月27日 
宇宙開発事業団   
海洋科学技術センター

 地球フロンティア研究システム(宇宙開発事業団と海洋科学技術センターの共同プロジェクト)の水循環予測研究領域・陸面水循環過程グループの田中克典研究員は、タイ北部の常緑林から大気への水蒸気放出が最も乾いた乾季後半に最大になることを新しく開発した森林モデル(図2)を用いて世界で初めて明らかにした。また、このモデルの予測結果は、水蒸気放出の季節変動の手がかりとなる樹液流速の観測結果と一致した(図1)。
 この森林モデルは2002年1月1日発行の「Ecological Modeling」に掲載される。

背景

 タイの森林には落葉林と常緑林がある。落葉林は乾季に葉を落し、葉からの蒸散がなくなる。また地表も乾いている為、地表から水蒸気が大気に放出されることはない。一方、一年中葉をつけている常緑林も、乾季に大気・土壌ともに乾燥しているとき(資料1)、植物体内の水の損失を押さえるために気孔を閉じ、これによって水蒸気の放出が著しく低下すると考えられていた。実際、1970年にPinkerらが観測を行ったところ、蒸散は見られなかったと報告されている(Journal of Applied Meteorology 19, 1341-1350, 1980年発表)(資料2)。それ以後、この研究に対する新しい試みは行われていなかった。

成果

 新しく開発した森林モデルを使って、タイ北部の常緑林について水蒸気の放出量をシミュレーションしたところ、常緑林は乾季後半の蒸散によって大量の水蒸気を大気に放出した(図1)。これにより、常緑林がポンプのように土壌深くにある水分を汲み上げ、大気中にばら撒いていたことが判った。GAME熱帯プロジェクトによる、蒸散の季節変動の手がかりとなる樹液流速の季節変動における最近の観測結果もモデルが示す結果と一致し、乾季後半に常緑林からの水蒸気が大量に大気中に放出されていることが実証された。今回得た成果は、アジアモンスーン地域における水循環の予測精度の向上に役立つとともに、森林が水資源に果たす役割を考える上でも重要な資料となり得るであろう。

資料3.用語解説

問合せ先

地球フロンティア研究システム
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 HP:http://www.nasda.go.jp
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