熊野灘沖南海トラフ地震発生帯で明らかになった分岐地震断層とその役割
−東南海地震の発生過程解明を目指して−


平成14年8月8日
海洋科学技術センター


  海洋科学技術センター(理事長 平野 拓也)の研究プロジェクトである固体地球統合フロンティア研究システムのプレート挙動解析研究領域の金田 義行領域長、朴 進午上級研究員らの構造研究グループは、熊野灘沖南海トラフにおいて反射法探査(2001年実施)の結果、東南海地震に関係すると考えられるプレート境界より派生する分岐断層のイメージングに成功し、この分岐断層の性状と1944年東南海地震との関係を明らかにしました。
  この分岐断層の役割については、16日(米国:日本時間17日)に発行されるサイエンス誌に掲載されます。


【研究の概要】
1) 分岐断層のイメージング
熊野灘沖南海トラフ反射法探査によって、プレート境界より上方へ派生する分岐断層のイメージングに成功しました。
2) 分岐断層と1944年東南海地震破壊域との関係
分岐断層が、これまでの地震波形や津波データを用いた1944年東南海地震破壊域に十分含まれることから、この分岐断層は1944年東南海地震時に滑った“地震断層”である可能性をはじめて示しました。
3) 分岐断層に沿った流体の存在の示唆
反射波形解析から分岐断層からの強反射波と波形極性の反転から、この分岐断層に沿った流体の存在が示唆されました。
また、分岐断層の海底到達点周辺では、過去に冷湧水が発見されています。
4) 分岐断層の繰り返しすべりを示唆する外縁隆起帯
分岐断層のトラフ軸側には明瞭な外縁隆起帯が存在していることから、分岐断層の繰り返しすべりによって外縁隆起帯が形成されたことが示唆されました。
5) 東南海地震と分岐断層の役割についての仮説
「1944年をはじめ過去の東南海地震で、今回イメージングされた分岐地震断層が流体の振る舞いと関係して、すべりと固着を繰り返し、その断層運動によって外縁隆起帯が成長している」ことが、明らかになりました。


【背景】
  フィリピン海プレートの沈み込み帯である南海トラフ周辺域では、これまでおよそ100年から200年といった間隔でマグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生しています。最も最近では1944年の東南海地震(Mj=7.9)、1946年南海地震(Mj=8.0)が発生し、それ以前には1854年に安政東海地震・南海地震が起こっています。また、1707年の宝永の地震では、四国沖から東海沖に至る広域が破壊したと考えられています。現在では、東海地震と東南海・南海地震との連動の議論も行われています。
  地震調査研究推進本部では、2001年、南海トラフの地震(東南海・南海地震)についての長期評価等が行われ、翌2002年からは、調査観測計画の強化が議論されています。
  なお最近では、東南海・南海地震に関する特別措置法が成立しています。


【発見および考察】
  熊野灘沖でイメージングされた分岐断層は、トラフ軸より約50−55km陸側で深度約10km付近から、沈み込む海洋プレート境界より分岐しており、Outer ridge(外縁隆起帯)のすぐトラフ軸側の海底付近に達しています。分岐断層の海底への到達地点は、津波解析(Tanioka and Satake,2001)ならびに地震波解析(菊地・山中,2001)で得られている1944年東南海地震破壊域南東縁とほぼ一致しています。
  また、反射波形解析から分岐断層域での流体の存在が示唆されたほか、既に深海調査で発見された海底での冷湧水の位置が分岐断層の海底到達点周辺に一致することが判りました。1944年をはじめ過去の東南海地震においてこの分岐断層が滑りと固着を繰り返し、その際の断層運動によってOuter ridgeを成長させたという仮説を提案し、詳細な沈み込み帯構造のイメージングおよび既往研究成果とを総合的に解析した結果、これまでのこの海域での巨大地震発生過程に分岐断層が大きな役割を果たしていた可能性をはじめて示しました。
  今後も、南海トラフにおける研究を推進し、南海トラフ海溝型巨大地震発生過程の解明を目指します。
  また、本海域における地震発生帯は地球深部探査船「ちきゅう」の統合国際深海掘削計画(IODP)掘削候補点の一つであり、掘削が実施され地震発生帯物質等の重要なデータが得られれば、海溝型地震発生過程研究のさらなる推進が期待できます。


【用語説明】
分岐地震断層本研究では、海溝型巨大地震発生時にプレート境界より上方へ派生し上部プレートを破壊する活断層として定義します。
南海 ト ラ フフィリピン海プレートの沈み込みに伴う駿河湾から九州に至る水深約4000m程の海底のくぼ地。
分 岐 断 層プレート境界から分岐した断層で、上方に向かって急角度になっています。
イメージング反射波形の処理解析により、地下の詳細な構造を可視化する手法。
Outer Ridge(外縁隆起帯):
断層運動等によって、前弧海盆の海溝側に形成される隆起帯
デ コ ル マ高間隙水圧によって形成される低角逆断層すべり面


【添付資料 一覧(PDFファイル)】
図1 熊野灘沖反射法探査測線と1994年東南海地震破壊域
図2 熊野灘沖反射法断面図(分岐断層のイメージング)
(サイエンス掲載図)
図3 測線5の拡大反射断面図
プレート境界と分岐断層のイメージング
図4 1944年東南海地震破壊域と分岐断層分布および熊野灘沖深部構造模式図
(巨大地震発生過程における分岐断層の役割)



本件に関する問い合わせ先
  海洋科学技術センター
    固体地球統合フロンティア研究システム:金田、朴(パク)

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:0468-67-9775
    総務部 普及・広報課:鷲尾、野澤

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