平成15年4月18日
海洋科学技術センター

地球は模範的なゼロエミッション工場
〜サブダクションファクトリー:その地球進化における役割〜

1. 概要

 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE、システム長 久城育夫)は、プレートが生成される「マントルプルーム域」(資料1(2))と、プレートが地球内部にとりこまれる「沈み込み帯」とを統一した理論で説明することに成功し、マントルプルーム域と沈み込み帯の間では、物質が10億年以上の歳月をかけてリサイクルされていることを、世界で初めて明らかにした。
  日本周辺をはじめとする、世界各地のプレートの沈み込み帯(サブダクションゾーン)では、地震や火山活動など、人間生活に多大な影響を与える自然現象がおきることが知られており、しばしば巨大な工場(ファクトリー)に喩えられている(資料2)。すなわち、サブダクションファクトリーでは、ベルトコンベアー(海洋プレート)で原材料(海洋地殻、海洋堆積物など)が搬入され、騒音や振動(地震)を出したり、煙突(火山)から煙を出しながら、製品(マグマ・大陸地殻)を生産している(資料2)。工場の製造工程では廃棄物が生まれるが、サブダクションファクトリーでは、廃棄物を再利用対象物として地球内部に送り出している(資料2)。この再利用対象物はマントル深部に10億年以上蓄えられ、熟成した後、マントルプルーム (資料1(2))として上昇してくる(資料2)。いわば、サブダクションファクトリーは、模範的な「ゼロ・エミッション工場」と言えよう。

 

2. 研究の背景及び成果

 地球には、堅い岩石からなる「地殻」の下に、岩石でありながら流動する性質をもつ「マントル」が存在する(資料1(1))。「地殻」はいくつものプレートに分かれマントルの上をゆっくりと移動している(プレートテクトニクス)。これらのプレートの相互運動が、大陸移動や造山運動などの自然現象を引き起こし、地球誕生から現在に至る約46億年の地球の進化過程に大きな影響を及ぼしてきたと考えられている。しかし、地球の進化過程は時空間的に非常に大きい現象であること、また、地球内部の状態を直接調べることができない、などの理由から、プレート運動と地球進化をつなぐ包括的なメカニズムについては不明な点が多かった。
  火山から噴出するマグマは、地球内部の物質が融解して生じた物質であるため、マグマの組成を調べることで地球内部の状態を推定する研究が進められてきた。ハワイなどの海洋域ホットスポット(資料1(3))から噴出したマグマが冷えて生成された玄武岩の化学組成を調べた結果、マントルは、HIMU、EM1、EM2などの数種類の成分(正式には端成分という資料1(4))が混合してできていることが明らかになっていた。これらのマントル成分の起源については様々な説が提唱されていたが、全体を統一的に説明できるものがなかった。
 今回、固体地球統合フロンティア研究システムでは、プレート沈み込み帯、すなわちサブダクションファクトリーの製造過程で生じる「廃棄物」に注目し、この「廃棄物」がマントル深部に蓄えられた後、マントルプルームとして上昇し、ホットスポットを通じて再度地球表層にリサイクルされるという仮説をたて(資料2)、岩石の化学組成分析や高温高圧実験により得られたデータを検証した。その結果、HIMUは海洋地殻、EM1は大陸地殻、EM2は海洋地殻の上に堆積した堆積物がそれぞれサブダクションファクトリーを通り抜けた後に残った廃棄物を起源としたマントル成分であることを明らかにした(資料2)。これにより、プレートが生成されるマントルプルーム域と、プレートが地球内部に沈み込むサブダクションファクトリーとを統一した理論で説明できるようになり、地球内部のダイナミクスと地球進化との因果関係を包括的に説明することが可能になった。この研究成果は科学雑誌「Geological. Society. London 特別号」に掲載される予定(4月〜5月)。

資料1[PDFファイル]
資料2
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