平成15年7月29日
海洋科学技術センター

プレート沈み込み帯の地震の化石を世界で初めて発見

〜地震発生メカニズムの物質科学的理解に道が開かれる〜

(1) 概要

海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE、システム長 久城育夫)と東京大学(総長 佐々木 毅)大学院理学系研究科(研究科長 佐藤勝彦)は、プレート沈み込み帯で発生した地震の痕跡(シュードタキライト)を、高知県南部の海岸にある露出した岩盤(露頭)の中に世界で初めて発見した。これにより、南海地震や東海地震など、日本で発生する大地震の原因とされる海溝型大地震(資料1 (1))の発生過程のメカニズム解明に向け、大きな道が開かれた。

(2)研究の背景および成果
地震は、断層が高速でずれる(運動する)ことにより発生する。断層が高速でずれると断層面に摩擦が生じるため、地震とは断層で生じる摩擦現象と言うことができる。そして摩擦現象は接触面の状態に大きく依存するため、地震発生メカニズムを解明するためには、地震の摩擦面、すなわち断層を構成する岩石の分析を欠かすことができない。しかしながら、現在の地震の震源断層を直接分析することは、震源が地下深部にあるため技術的に困難である。そのため、過去の震源が地表に隆起・露出している断層露頭の調査分析が従来から行われてきた。

断層が高速運動して地震が発生すると、断層面に莫大な摩擦熱が生じて岩石が融解しガラス化する。このようにして生じたガラス質の断層岩をシュードタキライトという。シュードタキライトは過去に大地震を起こしたことのある断層に生じるため、「地震の化石」と認識されている。シュードタキライトは国内では数カ所でしか報告されていない珍しい断層岩であるが、それらはすべて内陸型の震源断層によるものであり、プレート沈み込み帯で発生する海溝型大地震によって生じたシュードタキライトは今まで報告がなかった。そのため、プレートの沈み込み帯ではどのような物質がどのようなメカニズムで地震を起こしているのかについては、想像の域を出なかった。

今回発見された、海溝型大地震が原因で生じたシュードタキライトは、高知県にある四万十帯(しまんとたい)(資料1(2))の興津(おきつ)メランジュ(資料1(3))の露頭に存在する(図12)。ここで発見されたシュードタキライトは約5000万年前に起きた地震の際に生じたものであるため、この断層が再びずれて地震を起こすことはないが、この断層の運動が活動的だった時代、興津メランジュ層は海底下に存在し、現在の南海地震の震源断層とほぼ同じ状態であったと考えられる(図34)。この断層露頭を研究することにより、古い地震発生装置を分解して現在の地震発生装置の仕組みを推測するという、いわば「温故知新」の研究を行うことができる。この研究成果は科学雑誌「Geology」に掲載される。


(3)今後の展望
四万十帯には今回発見された露頭ばかりではなく、沈み込み帯の様々な深さや状態の多くの断層が含まれているため、今回の発見に引き続いて断層岩研究を積み重ねることにより、長さ数100Km 深さ数10Kmにも及ぶ長大な海溝型大地震の震源断層の全体像がイメージできるようになると期待される。

また、今年秋に開始される統合国際深海掘削計画(IODP)(資料1(4))では、海溝型地震発生帯を掘削して震源域の物質を採取・分析すると共に、震源域に地震計などの観測装置を設置してそのメカニズムの解明を目指す計画になっている。このIODPでもたらされる研究成果と、今後の四万十帯における広域的な断層岩研究の成果とを合わせることにより、海溝型大地震の発生メカニズムの解明が一層推進されることが期待される。


>> 資料1 [PDFファイル:4KB]

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