平成15年12月5日
海洋科学技術センター

「地球シミュレータ」を用いて精密な地震シミュレーションに成功

〜「2003年ゴードン・ベル賞」を受賞〜

1.概要
 海洋科学技術センター(理事長:平野拓也)固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE)分析解析センターの坪井誠司プログラムディレクターと米国カリフォルニア工科大学地震研究所の研究グループは、「地球シミュレータ」を用いて、2002年11月3日に米国アラスカで発生した地震(Mw=7.9)を精密に再現させることに成功した。この研究成果は、米国アリゾナ州フェニックスで11月16日〜21日に開催されたハイ・パフォーマンスコンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC2003において「2003年ゴードン・ベル賞(最高性能部門)」を受賞した(資料1(1))。当センターの「地球シミュレータ」を用いた研究成果は、昨年に引き続き、2年連続の受賞である。
 
2.受賞論文
A 14.6 billion degrees of freedom, 5 teraflops, 2.5 terabyte earthquake
simulation on the Earth Simulator; (「146億自由度、5テラフロップス、2.5テラバイトの地球シミュレータによる地震シミュレーション」)(資料1(2)

3.受賞者
海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システム: 坪井誠司
カリフォルニア工科大学:Dimitri Komatitsch、Chen Ji、Jeroen Tromp

4.研究内容
 地震の「揺れ」は地震波として、地球全体に伝播していく。地震の際、各地の地震計がとらえた地震波データを解析することにより、震源の位置、地震の規模、その発生状況などを推定し、地震発生のメカニズムを解明するための研究が行われている。地震波が地球全体に伝わる際には、地球の形状(正確には球ではなく楕円体である)、地表や海底の地形、そしてマントルや核といった地球内部構造などの影響を受けるが、今までの研究ではこれらの影響を考慮した解析を行うことがほとんどできなかった。
 本研究では「地球シミュレータ」を用いることにより、地球内部を54億個の格子点に分割し(格子点の間隔は、地球表面で約2.9km)(図1)、地震波の伝播に影響を及ぼす地球の形状などの様々な要因をすべて考慮した地球モデルを作り、このモデル上で、2002年11月にアラスカで発生したマグニチュード7.9の地震を再現させ(資料1(3))、地震波が世界各地に伝播する様子をシミュレーションした。このシミュレーションの計算結果を、実際の地震の際に観測された地震波データと比較したところ、地震波形を正確に再現できることが明らかになった(図2)。

5.受賞理由
 並列計算機を「地震のシミュレーション」という実用的な科学技術計算に応用し、今までにない画期的な地震のシミュレーションを実現することに成功した点が最も評価された。地震波形計算の今までの記録は周期20秒(0.05Hz)であったが、今回のシミュレーションでは、周期5秒(0.2Hz)まで計算することに成功し、シミュレーションの規模が飛躍的に拡大した。今回のシミュレーションでは、「地球シミュレータ」の243ノード(1944プロセッサー)を用い、実効性能5テラフロップスを記録した(資料1(4))。これは、地震学の分野では他に類を見ない優れた性能である(今回ゴードンベル賞を受賞した他のグループの1つである、米国ロサンゼルス盆地の地震シミュレーションを行ったカーネギーメロン大学の研究の実効性能は1テラフロップス)。
 このように、本研究はその研究内容、シミュレーションの規模、共に他に類を見ない優れたものであることが評価され、ゴードン・ベル賞の受賞となった。

6.今後の展望
 日本周辺で発生する巨大地震の多くは、プレートの沈み込み帯で発生する海溝型大地震である。海溝型大地震の震源域は、プレートの沈み込みに伴って海底地形が複雑になっているだけでなく、マントルの温度が場所によって不均一になっているなど、地球内部構造も複雑になっている場合が多い。このような場所で起こる大地震の発生メカニズムを解析するためには、震源地から離れた場所で記録された地震波データを用いることが一般的であるが、その場合、地震波に影響を与える震源域の複雑な地形や地球内部構造などの影響を、いかに取り除いて解析を行うかが大きな研究課題であった。
 今回、「地球シミュレータ」を用いることで、震源域の複雑な地形や地球内部構造などの影響を考慮した地震波の伝播のシミュレーションを全地球規模で行うことが可能となった。この成果を利用すれば、実際に記録された地震波データの中から、地震そのものが原因になっている部分と、震源付近の地球内部構造や地形が原因になっている部分とを分離して解析することができるようになるため、地震波データの解析による地震の発生メカニズム研究が飛躍的に発展することが期待できる。また、地球の内部構造そのものも、地震波を解析して調べるため、今回の地震シミュレーションで得られた地震波の形と、実際に観測された地震波の形を詳細に比較・検討することにより、より正確な地球内部構造の解明につながることも期待できる。



資料1
(1)ゴードン・ベル賞
 ゴードン・ベル賞は高性能計算技術の分野で最も権威がある賞であり、毎年、並列計算機を実用的な科学技術計算に応用し、性能を含めて最も優れた成果を出した研究に与えられるものである。最高性能部門、特別業績部門及び価格性能部門について応募のあったものから審査を行い、受賞者を決定している。本研究は最高性能部門での受賞となった。

(2)146億自由度
 格子点は、3方向に動くことが出来るので自由度3を持つと考えられる。この計算では、54億格子点あるので、その3倍の自由度を持つことになるが、実際には格子点は隣り合ったブロックで共有するところがあるので、厳密に3倍にはならず146億自由度になる。

(3)地震の再現
 地震発生後の研究により、この地震はアラスカ中部にあるデナリ断層が長さ300kmにわたってずれたことが原因であることがわかっている。そこで、地震波の伝播に影響を及ぼす様々な要因をすべて考慮した地球モデルの中に、この断層運動を取り込むことにより地震を再現した。

(4)実効性能5テラフロップス
 理論性能であるピーク性能に対して、実効性能とはあるプログラムを実行した時の計算性能であり、これが計算機の実質的な性能とされる。5テラフロップスとは1秒間に5兆回の計算が可能という意味。

 

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