平成16年9月16日
海洋研究開発機構
国立環境研究所

最終氷河期に海底下メタンハイドレート層が崩壊した形跡を下北半島沖で発見
- 地球規模の気候変動への影響 -

概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)むつ研究所の内田昌男研究員、阿波根直一研究員、独立行政法人国立環境研究所(理事長 合志陽一)化学環境研究領域の柴田康行領域長らの共同研究グループは下北半島沖の水深1366mから採取された海底柱状堆積物コア(長さ13m)の解析から、今から2万5千4百年前(暦年代)に海底下に存在するメタンハイドレート(注1)が不安定化して、大量のメタンが放出したとされる形跡を発見した。

この成果は、アメリカ地球物理学連合発行の雑誌Geochemistry, Geophysics, Geosystems(8月19日発行)に掲載された。また国際地質学会議(8月27日、イタリア)、並びに国際古海洋学会議(9月6日、フランス)にて発表された。

背景
グリーンランドアイスコアの酸素安定同位体比(注2)の分析から、過去9万年間に22回、数百年規模での急激な温暖化が起きたことが報告されている。これらの急激な気候変動のメカニズムについての詳細については、まだ明らかになっていない。しかし、このメカニズムの一つを説明するものとして、現在、極域も含めた大陸縁辺部の海底下に大量に存在するメタンハイドレート層が何らかの原因によって崩壊し、メタンハイドレート由来のメタンが大量に大気へと放出され、温暖化を加速させたのではないかとの仮説が提唱されている。その量は、化石燃料にして既知の天然ガス、石油、石炭の総埋蔵量の2倍以上(炭素換算)に相当することが分かっている。最近、日本周辺を含めた北西太平洋の縁辺域の海底探査によっても、莫大なメタンハイドレート層の存在が明らかにされている。現在メタンハイドレート層の宝庫ともいえる北西太平洋域が、過去にメタン放出という形で汎世界レベルの急激な温暖化と密接に連動していた可能性があり、今後メタンハイドレートの崩壊と過去の急激な気候変動との関係を解明することは極めて重要な課題である。



成果
本研究において解析された海底柱状堆積物コアは、2001年6月の海洋研究開発機構所有の海洋地球研究船「みらい」MR01-K03航海により、青森県下北半島沖の水深1366mの地点(PC4/5)において採取された(図1)。堆積物試料に含まれる石灰質微化石(浮遊性有孔虫・底生有孔虫)(注3)、バクテリア由来の有機化合物について分析を行った結果、海底下約9 mの堆積物層からメタン放出の可能性を示唆する大きな形跡が見つかった(図2)。これらの層について国立環境研究所の加速器質量分析計を用いた放射性炭素年代測定法により、正確な堆積年代を求めたところ、この時代は、グリーンランドアイスコアから復元されている短周期の温暖化イベントである”亜間氷期 3(IS3)”の時期に相当することがわかった(図3)。これは、北西太平洋での最終氷河期における地球規模での突然かつ急激な温暖化現象と海底下に存在するメタンハイドレートとの関連性を示唆する世界で始めての発見である。過去のメタンハイドレート層の崩壊が関わったと考えられる気候変動に関するメカニズムの詳細は、現在のところまだ明らかになっていないが、メタンハイドレート層の崩壊が地球の気温上昇をもたらし、全球的な温暖化を引き起こすトリガーとして機能したのか、それとも別の原因でまず温暖化し、それに伴う海水循環の変動や海水準の低下による海底下の水温・圧力変化によって、メタンハイドレート層の崩壊が起こったのか、今後詳細な解析が必要とされる。また本研究は、人類活動による温暖化影響だけでなく、地球の自然のリズムによる突然かつ急激な温暖化によっても人類は、将来、甚大な影響を受ける可能性があることを示唆するでものである。



注1:一定の物理条件下で形成されるメタンと水が結合し、シャーベット状になったもの、天然ガス、石油等に代わる次世代のエネルギー源として期待されている。
注2:アイスコアの氷の酸素安定同位体比は、気温の変動を示す指標として用いられている。年平均気温と酸素同位体比の間には相関があり、その経験式に基づいて過去の気温を算出することができる。
注3:炭酸カルシウム骨格をもつ単細胞生物の化石。海洋表層に生息するものと(浮遊性有孔虫)、海底面に生息するもの(底生有孔虫)がある。これら有孔虫の炭酸カルシウム骨格に含まれる炭素同位体比を測定することにより、生息中に有孔虫がメタンを取り込んだかどうか調べることができる。

問合わせ先

海洋研究開発機構
 むつ研究所 担当:内田
  Tel :046-867-9491 Fax:046-867-9450 
  URL:http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/mutu/
 
 総務部普及・広報課 担当:山西、五町
  Tel :046-867-9066 Fax:0468-67-9055
  URL:http://www.jamstec.go.jp/

国立環境研究所
 化学環境研究領域 担当:柴田
  Tel :029-850-2450 Fax:029-850-2573
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 企画・広報室 担当:田邉
  Tel :029-850-2303 Fax:029-851-2854
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