平成16年10月29日
海洋研究開発機構

インド洋のダイポールモード現象の終息原因を解明


概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長加藤康宏)地球環境フロンティア研究センターの山形俊男プログラムディレクターと同センターのアングルリ・スルヤチャンドラ・ラオ研究員は、1958年から現在までの大気海洋データを用いて、インド洋ダイポールモード(IOD)現象が突然に終息する原因を調査した。その結果、強いエルニーニョ現象が見られない年に発生するIOD現象は、強い西風を伴う季節内擾乱により終息することが明らかになった。

この研究成果は、10月14日に、米国地球物理連合(American Geophysical Union)の学会誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

背景

IOD現象は、同センターの気候変動予測研究プログラムの研究グループによって発見された大気海洋相互作用現象であり、インド洋周辺の気候と大きな関係があることが明らかになっている。インドの豪雨(6月-9月)、日本を含む東アジアの猛暑(6月-8月)、スリランカの大雨(10月-12月)、東アフリカの洪水(10月-11月)、インドネシアの干ばつ(9月-11月)、オーストラリア西部、南部の干ばつ(6月-9月)などがその例である。通常、IOD現象は6ヶ月程度の寿命で終息するが、なんらかの理由により早期に終息する場合がある。インド洋周辺地域の大雨や干ばつなどの異常気象に関係することから、IOD現象がいつどのように終息するかを予測することは重要である。通常のIOD現象の年では、インドでは6月から9月まで(図1a)、東アフリカでは10月から11月まで通常より雨が多い(図1b)。しかし2003年のIOD現象は、8月に急激に終息したため、終息前のインド降水量は例年より多かったが、終息後の降水量は例年より少なかった。また、10月から11月の東アフリカの降雨量も例年より少なかった(図1c、d)

成果

インド洋の赤道上では、年に2回、4月から5月(春期)と10月から11月(秋期)に、西風が強化されることが知られている。最近、この他の季節にも季節内擾乱と呼ばれる強い西風が間欠的に存在することがわかって来た。IOD現象が現れると、東風が卓越するようになり(図2上図)、季節内擾乱は弱まるか現れなくなる。一方で、IOD現象が終息するおよそ一ヶ月前になると、30日から60日の間、季節内擾乱が生じることが明らかになった。この西風のバーストは赤道で振幅が最大で、東向きに伝播する赤道ケルビン波と呼ばれる海洋波動を励起する。この赤道ケルビン波がインドネシアの西岸に到達すると、海洋表層の厚さが増し、インド洋東部の海面水温が上昇する。この結果、インド洋の海水温の西高東低の偏差は消え、通常の状態に戻り、IOD現象は終息する(図2下図)

この研究成果は、インド洋周辺の気候の予測に大きな貢献を果たすと期待される。2003年のIOD現象の8月における急激な終息は、海洋研究開発機構のトライトンブイ(海洋観測ブイ)のデータにより、確認されている。IOD現象の発生、発達、終息とその周辺諸国の異常気象への影響の予測を目指して、インド洋の観測システムの計画が世界海洋観測システムなどの国際機関のプログラムにより進められている。

問い合わせ先
海洋研究開発機構
地球環境フロンティア研究センター 担当:太田
Tel:045-778-5687 Fax:045-778-5497 URL:http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jp/
総務部普及・広報課 担当:山西、五町
Tel:046-867-9066 Fax:046-867-9055 URL:http://www.jamstec.go.jp/

注:インド洋ダイポール(IOD):通常、熱帯インド洋は、東部(スマトラ側)の海水温が高く、西部(東アフリカ側)が低い状態となっている。IOD現象が起こると、これとは逆に西側の海面温度が高く、東側で低くなる。この現象は7月から12月およそ6ヶ月続き、この間、インド洋周辺の気候にさまざまな影響を与えることが明らかになっている。