平成17年3月1日
海洋研究開発機構
巡航探査機の世界新記録航続距離317kmを達成
-深海巡航探査機「うらしま」が全自動長距離航走に成功-

1.概要
 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)において開発中の世界初の燃料電池を用いた自律型深海巡航探査機「うらしま」は、駿河湾で2月26日から開始した性能試験において、デュアル相互監視型コンピュータシステム(別紙1)の性能確認とともに、閉鎖式燃料電池(注1)を用い317kmという連続長距離航走に2月28日午後3時10分成功した。巡航探査機(動力源を問わない)として、世界第1位の記録である。また、その際、発電部に最新技術である金属セパレータを用いたこの燃料電池のエネルギー効率は54%(注2)を超える世界トップレベルの高性能を示した。
 今回の「うらしま」長距離航走試験の成功により、従来の水上船や曳航体による海底探査に比べ、波浪の影響を受けない探査が行えるので画像が精密となり、調査速度も3倍程度上がることにより同じ時間内であれば、より探査範囲を広げることが可能となる見通しを得た。また、海洋研究開発機構が計画する次期ロボット式無人探査機の開発にあたり、この無人機の目指す日本の排他的経済水域調査や北極海横断調査に必要となる無人探査機開発の基礎データを取得することができた。

2.性能試験について
 機体に内蔵したコンピュータが予め設定したシナリオに従って自分の位置を計算しながら航走する「うらしま」は、電子技術、コンピュータ技術等の最新技術を結集した長距離航走型「海洋ロボット」で、海底地震域の深海底調査や、地球温暖化現象の調査に役立てる目的で開発が進められている。水中で用いるために密閉空間で発電する必要があるので閉鎖式燃料電池という世界最新鋭動力源を世界に先駆けて開発するとともに、自律して全自動で海洋調査を行うことができる賢い無人探査機技術の確立を目指している。燃料である水素の貯蔵方法については、最近、開発されている燃料電池自動車が350気圧という高圧ガスタンクに水素を貯蔵しているが、一般消費者が扱うにあたっては安全性には課題があると言われている。当機構においては、水素を吸蔵する性質のある新合金(注3)を開発し、常温で2気圧という低圧で安全な貯蔵装置に蓄えて本探査機に搭載しているが、このことも世界で初めての試みである。以上の燃料電池をはじめ、デュアル相互監視型コンピュータシステム(別紙1)の性能確認等、各制御システム等の性能試験が今回の試験目的である。
 今回の性能試験は、駿河湾中央部に設定した南北25km、東西2km、深度800mの海域内(別紙2)で行われた。2月25日に当機構横須賀本部の専用岸壁から、支援母船「よこすか」に搭載して出航し、2月26日午前5時から試験を開始した。午前7時10分から潜航を開始し、28日午後3時10分まで56時間連続航走した。午後4時30分に支援母船に無事回収した(写真)。
 なお、連続航走記録であるが、英国サザンプトン海洋研究所の無人探査機AUTOSUB(使用最大深度1,600m(実績1,003m)、動力源は一次マンガンアルカリ電池(一回使用で使い捨て))が記録した262kmが、これまでの世界最長であった。

3.これまでの開発経過の概要
 深海巡航探査機「うらしま」は、平成10年より設計、建造を始め、平成14年にリチウムイオン電池(注4)で航続距離132.5kmを記録した。
 平成15年にリチウムイオン電池から新たに開発した燃料電池に載せ換え、同年7月に世界で初めて水中で発電して航走することに成功し、同年9月に朝から夕方までの7時間連続潜行し、その際に潜行距離30kmを記録することにも成功した。
 その後、さらに性能向上のための改良及び調整を続け、長距離潜行確認試験として平成16年6月に300km航走の試験を実施したが、台風4号の影響で220kmを航走した時点で断念している。
 また、長距離潜行確認試験の再トライのため、平成16年12月に再度試験を実施したが、自律航行中に、内蔵している2つのコンピュータ間の通信が不良となり、安全のため試験を中断した。なお、その時点で「うらしま」は、潜航開始から中断までに航走した連続距離は230km、連続航走時間は約39時間を記録した。

4.今後のスケジュール
 平成17年度以降も年に2〜3回程度の海域試験を行う計画である。今後の試験では、航走性能だけでなく、海底探査機器等の搭載観測機器の試験を実施し、深海底研究者の"研究設備"としての性能向上を目指すこととしている。


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                  海洋研究開発機構
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                   海洋技術研究開発プログラム 担当:青木、百留
                    TEL046-867-9370、9379
                    FAX046-867-9375
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