平成17年4月28日
海洋研究開発機構

地球シミュレータを活用した3.5kmメッシュの全球雲解像大気モデルの開発について

1. 概要
 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の地球環境フロンティア研究センターでは、地球環境モデリング研究プログラム・次世代モデル開発グループの佐藤正樹サブリーダー、富田浩文研究員ほかが、2000年以来、当時開発中の地球シミュレータをフルに活用する新しい大気モデルとして、雲の生成・変動を直接計算する「次世代大気モデル」の開発を行ってきた。この度第1バージョンが完成し、世界で初めて3.5kmメッシュで雲の生成・変動を直接計算する全球の気象のシミュレーションに成功した(図1)。これまでの粗いメッシュの大気モデルで最大の困難とされていた、対流雲の間接的取り扱いの曖昧さを解消し、これにより、数値天気予報や気候変動予測の確度を一段と高くする可能性が生まれた。特に、太平洋高気圧に支配される日本の夏季の予報、台風の発生や強さの予測が向上すると期待される。
 この研究成果は、4月20日から、英国のレディングで開催された国際的な「水惑星実験」(注1)プログラムと、ヨーロッパ地球物理学会で発表した。引き続き、日本気象学会等で発表の予定である。

2. 背景
 温帯地方では高気圧、低気圧、前線があり、それに伴って天気が変化するが、熱帯域ではその様な大規模な構造はなく、クラウドクラスター(注2)が散在している。クラウドクラスターとは、入道雲の大きな塊で、衛星画像(図2)で見れば100〜500kmサイズのひろがりを持っているが、芯になる上昇気流は10〜20kmの幅しかない。このような熱帯の対流雲は夏季の太平洋高気圧の位置や強さの変動等を決定する要因の一つであり、日本の天気にも大きな影響を与える。これまでの大気モデル(数値天気予報、気候変化予測モデル)は50km〜300kmという粗いメッシュであったため、クラウドクラスターを直接扱うことは出来ず、仮定をおいて間接的に扱うこと(パラメタライズ)(注3)によりモデルに取り入れていた。しかし、小さいながら独特の変化をするクラウドクラスターの振る舞いは、5km以下のメッシュで雲の生成・変動を支配する方程式を適用した直接的な計算によってしか追跡し再現する事はできない。この事は大気の数値モデルにおける最大の困難と認識されていた。

3. 成果
 今回の実験の最大の成果は、これまでの大気モデルでは最大の困難とされていた、対流雲、特に熱帯域に散在するクラウドクラスターを5km以下の間隔(今回は最小3.5km)のメッシュを用いて直接モデルで計算し、それによってクラウドクラスターとその動きや離合集散の様子が、衛星画像を見る様に正しく、リアリスティックに表されるようになったことである。これは、世界最大のスーパーコンピューター地球シミュレータを用いて初めて可能となったもので、大気モデル(数値天気予報)50年の歴史に新しい時代を開くものである。これにより、熱帯域対流雲の挙動を方程式に従って直接計算し、数値天気予報や気候変動予測の確度を一段と高くする可能性が示された。

4.今後の予定
  今回は仮想的な「水惑星実験」を行ったが、これから現実的な海陸分布、山岳などをモデルに組み込み、引き続き実験を行う。これによって日本の夏の気候に重要な役割を果たすアジアモンスーン地帯の雨に関して、それぞれの地域で特有の地形と結びついた対流性降雨のメカニズムが初めて正しく表現される様になると期待される。同様に対流雲の群の中から台風が発生するプロセスもより正しく表現される様になる。

問い合わせ先:独立行政法人海洋研究開発機構
●地球環境フロンティア研究センター研究推進室長 増田勝彦
Tel: 045-778-5746 Fax: 045-778-5497
URL: http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jp/
●総務部普及・広報課長 高橋賢一
Tel: 046-867-9050 Fax: 046-867-9055
URL: http://www.jamstec.go.jp/

注1: 水惑星実験:大気モデルの性能をよく知るため、全球が海で覆われた地球を想定し、海面温度の南北分布として、実際に観測されたものをモデルに組み込み、その上の大気のシミュレーションを行うこと。
注2: クラウドクラスター:多くの積乱雲が比較的狭い範囲に密集している雲域。大雨、突風などの顕著現象を伴うことが多い。
注3: パラメタライズ:格子間隔より小さなサイズの現象および、その効果を格子スケールでの温度、風などをもとに経験値により表現する方式。対流のパラメタライズの場合には、天気予報で「上空に寒気が入るので大気が不安定となりにわか雨や雷雨が降るでしょう」という表現そのままに、50km〜300kmのメッシュの平均的な温度、湿度の状態から、対流の起こりやすさと強さ、降雨量を経験をもとに決めるという方法。