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中国におけるNO2濃度の増加を衛星データで実証 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)・地球環境フロンティア研究センター大気組成変動予測研究プログラムの秋元肇プログラムディレクターと入江仁士、須藤健吾研究員は、ドイツ・ブレーメン大学の研究者と共同で、欧州の対流圏大気化学衛星センサー(GOME)(注1)のデータを解析することにより、中国における二酸化窒素(NO2)の大気中濃度が1990年代の後半から増加し続けていることを世界で初めて定量的に実証した。 最近我が国で光化学オキシダント(注2)濃度が増加し続け(参考1)、その原因として大陸からのオゾンの長距離越境汚染の影響が懸念されている。しかしながらオゾンの前駆体物質である窒素酸化物(NOx)(注3)に関しては、我が国の風上側にあたる中国における放出量や大気中濃度の経年変化が公表されていない。中国では1990年代の後半に石炭の使用量が減少したことが報告されており(参考2)、それに伴って NOxなどの大気汚染物質の放出量が減少したとも言われてきた。地球環境フロンティア研究センターでは、こうした実態がどうであるかを検証するために、GOMEのデータを利用して二酸化窒素(NO2 )(注4)の対流圏カラム濃度(注5)を導出し(注6)、東アジアにおけるNO2による大気汚染の解析を行ってきた。(参考3 平成16年12月6日同研究プログラムプレスリリース) 成果 GOMEのデータを解析して得られた東アジアにおける1996年と2002年の1月のNO2濃度分布を図1に示す。中国東部の華北平原を中心とした領域においてNO2濃度が極めて高く、1996年に比べて2002年には高濃度領域が更に広がっていることが分かった。図2は2002年の濃度分布から1996年の濃度分布を差し引いたもので、この間の増加が特に北京周辺、上海周辺及び河南省などで著しかったことが分かる。図1,2に見られる様に最も明瞭なNO2濃度の増加は華北平原を中心とした領域(四角で囲まれた領域)で起きていることが分かったので、この領域での平均NO2濃度の経年変化を季節別に解析した。その結果図3に見られるように、NO2濃度は冬季に最も高く、増加率は年率8
%に相当することが分かった。同様の傾向は他の季節にも見られ年率7±1 %で増加していることが分かった。このような中国大陸内部の大気汚染物質濃度の経年変化が実測から定量的に得られたのは本研究が初めてである。中国におけるNO2の濃度上昇は中国国内の地表付近のオゾン濃度を増加させてきたばかりでなく、越境大気汚染により我が国のオゾン濃度の増加原因となっていることが推定される。 問合せ先 注2:光化学オキシダント:光化学スモッグの原因物質で、人間の健康や農作物・森林などにとっても有害な大気汚染物質。対流圏では、自動車や工場等から排出される窒素酸化物と揮発性有機化合物との光化学反応で形成される。 注3:窒素酸化物(NOx):化石燃料などの燃焼の際に発生する汚染物質で、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)を合わせたものの総称。工場・事業場、自動車、家庭などの人為起源、及び森林火災、土壌などの自然起源のものがある。対流圏オゾン及び酸性雨の原因物質。 注4:二酸化窒素(NO2):窒素酸化物の内の一つ。二酸化窒素(NO2)が、太陽光により酸素原子(O)と一酸化窒素(NO)に分解され、この酸素原子からオゾンが生成される。高濃度では人体、特に呼吸器に悪影響を及ぼす。 注5:対流圏カラム濃度:地表から対流圏上端までの大気中の物質濃度を積算した累積濃度。 注6:対流圏カラム濃度を導出する手法:一般に衛星観測では成層圏までを含めたカラム濃度が測定されるので、対流圏のカラム濃度を求めるためには、成層圏のカラム濃度を差し引く必要がある。本研究では他の成層圏化学衛星データや化学輸送モデルの結果を用いて成層圏カラム濃度を差し引き、対流圏におけるカラム濃度を求める手法を用いた。 注7:SCIAMACHY:SCanning Imaging Absorption SpectroMeter for Atmospheric CHartographYの略。2001年に打ち上げられた欧州の衛星ENVISATに搭載されているセンサーで、GOMEと原理は似ているが、より空間分解能が高く、O3, BrO, OClO, ClO, SO2, H2CO, NO2, CO, CO2, CH4, H2O, N2Oなど、より多くの化学種を測定出来る。
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