1.概要
海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球環境観測研究センターは、平成18年4月17日、北極点付近の多年氷域注1において、アルゴフロート注2を用いた新しい氷海用観測システムPOPS(Polar Ocean Profiling System注3:図1)の設置に成功し、これまで国際アルゴ計画の観測空白域であった北極海において、世界で初めてのリアルタイム観測・データ配信を実現しました(図2a)。
2.背景
全海洋のモニタリングシステムの構築を目指す国際アルゴ計画では、平成18年6月現在2400台を超えるアルゴフロートにより、世界中の海域でリアルタイムの観測を行っています(図2b)。アルゴフロートは観測データ送信のために海水面に浮上する必要がありますが、海氷が存在する海域ではそれが困難であるため、これまでアルゴフロートによる北極海観測はできませんでした。このため新たな発想で作られたのがPOPSです。
海氷は観測の障害物と考えられがちです。しかし、本システムは海氷と共に漂流する注4ブイからケーブルを吊り下げて、これにアルゴフロートを沿わせる形で観測を行うため、海氷域でのデータ取得・配信が可能となりました。
3.実施内容
北極海上には南極大陸にあるような常設基地は存在しません。当機構のチームは、北極点付近の厚さ2〜3mの多年氷上(北緯89.03度、東経165.66度)のキャンプに滞在し、平成18年4月17日にPOPSの設置を行いました(図3)。その後、水温・塩分の鉛直連続データを3日毎に、気温・気圧・GPS位置情報データを3時間毎に順調に取得し続けています。本システムにより、北極海の海氷変動メカニズムを調べる上で不可欠となる海洋の貯熱量(北極海が持つ熱量)及び貯淡水量(北極海表層を覆う淡水量)などが常時モニタできるようになりました(データ例:図4)。さらに、取得データについては、平成18年5月23日より、気象庁を通じて国際気象通信システム(GTS:Global Telecommunication System)および国際アルゴデータセンターへの自動配信を始めました。今回の設置は、図2aのように北緯80度以北で唯一の国際アルゴ計画観測点であるため、世界で初めて北極海から当計画にデータを提供したことになります。
なお、本データ及び観測結果は、当機構のホームページ(http://www.jamstec.go.jp/arctic/)でも見ることができます。
4.今後の予定
国際アルゴ計画で得られているデータは、様々な気候変動予測モデルの元になるデータとしても用いられています。したがって、新たに北極海の現場観測データが自動配信されることは、激変する北極海の実態把握のみならず、全球規模の気候変動予測モデルの精度向上に繋がり、そして全球地球観測システム(GEOSS)「10年実施計画」などに貢献することができると考えられます。また、平成19年3月から平成21年3月までの国際極年には各国の様々な極域観測が予定されています。今回の成功を受けて、ヨーロッパの研究機関も今年の夏に数機のPOPSを北極海に投入することを計画しており、将来的には国際的枠組で多点展開による北極海からのデータ配信が期待されます。
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