平成19年1月23日
独立行政法人海洋研究開発機構

沖縄トラフ深海底下において新たな熱水噴出現象
〜世界で初めて「ブルースモーカー」を発見〜

[概要]

海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)極限環境生物圏研究センター(センター長 掘越弘毅)地殻内微生物研究プログラムの高井研プログラムディレクターらは、有人潜水調査船「しんかい6500」を用いた、石垣島の北西約50km付近の沖縄トラフ鳩間(はとま)海丘(別添、海域図参照)の調査の映像を解析した結果、熱水噴出孔(チムニー:写真1)から青色の熱水噴出物(ブルースモーカー:写真2)を発見しました。青色の熱水噴出物発見の報告はこれまでになく、世界で初めての発見であると考えられます。

また、同海域においてこれまで観察されたことがない白色の熱水噴出物(ホワイトスモーカー)も同時に見つかり、鳩間海丘の海底下でのマグマの活動が活発化していることが予想されます。

[これまでの調査状況]

鳩間海丘は沖縄トラフの火山フロント周辺に存在する火山地形で、1999年には、この海丘のカルデラ内に直径約200mの拡がりを有する熱水活動が発見されており、以後、当機構極限環境生物圏研究センターを中心に、熱水活動域における生物群集の生態と生息環境について継続的に調査が行われてきました。

このカルデラの中心には、溶岩ドーム状の高まりが存在し、その真ん中には日本近海で最も巨大なチムニー(比高30 m以上)が存在します。その巨大チムニーの頂部からは、比較的低温で透明な熱水ゆらぎや高温で透明な熱水(クリアスモーカー)が湧出し、カルデラ内のその他のサイトにおいてもスポット状のクリアスモーカーが分布します。(今回「ブルースモーカー」が観察されたのは、巨大チムニーから10m程北にある噴出孔であると考えられます。)

鳩間海丘の熱水は、沖縄トラフ熱水活動域の典型的な特徴である「マグマに由来する二酸化炭素と有機物の熱分解由来の二酸化炭素を多量に含み、海底下の化学反応や微生物活動に由来するメタンも多量に含む熱水である一方、マグマ成分である硫黄化合物は比較的少ない熱水」であることが既に知られていました。

[今回の調査状況]

当機構は2006年8月3日に南部沖縄トラフ鳩間海丘の熱水活動域(水深1,470m付近)において「しんかい6500」による調査を行い、噴出熱水の撮影を行いました。映像を解析した結果、チムニーから「ブルースモーカー」や、同海域においてこれまで観察されたことがない「ホワイトスモーカー」も同時に見つかり、鳩間海丘での熱水噴出活動が活発化していることが観察されました。

[考察]

これまで黒色、灰色、白色の熱水噴出物が発見されていますが、青色の熱水噴出物発見の報告例はありません。今回発見された「ブルースモーカー」が、なぜ青く見えるのかに関しては、いくつかの理由が考えられます。例えば、「シリカコロイドの生成」※1、「鉄や銅、その他の遷移元素の錯体の形成」※2等です。熱水の色は熱水活動の物理・化学的なプロセスと密接に関係していることから、青色の熱水噴出物発見により、これまで知られていなかった熱水活動の物理・化学的なメカニズムが存在するものと考えられます。残念ながら、今回の調査だけでは原因の同定ができないため、今後、さらに調査・研究を進めていきます。

また、『なぜ、鳩間海丘に突然、「ブルースモーカー」や「ホワイトスモーカー」が出現したのか』という疑問については、マグマの揮発性主成分である二酸化硫黄が突然増大した結果ではないかと考えられます。これは、マグマ活動や地震活動の活発化と大きく関係する現象であり、熱水活動の様子や化学成分の変化を注意深く観察する必要があります。特に、噴火や地震と熱水活動や熱水化学合成生態系の変動との関連性は、世界的に注目されている研究対象であり、日本周辺でも研究を進めていきます。

[今後の予定]

当機構は本年3月に追加調査を行い、「ブルースモーカー」の熱水を実際に採取し、熱水化学成分や微生物組成を詳細に解析するとともに、海底地震計等の計測機器を設置して、活動状況のモニタリング体制を構築する予定です。


※1 シリカコロイドの生成:熱水にシリカ(二酸化ケイ素)の粒子が含有されている場合、波長の短い青色光を散乱させることにより青く見えると考えられる。

※2 遷移元素の錯体の形成:鉄や銅などの遷移元素イオンを水に溶かすと水分子との配位結合による錯体を形成する。この場合、遷移元素イオンが特定の色以外の光を吸収するため、残った色が透過・反射して見える。

お問い合わせ先:

(本研究全般について)

極限環境生物圏研究センター
地殻内微生物研究プログラム   プログラムディレクター   高井   研
電話:(046)867-9687
研究推進室長   村田   範之
電話:(046)867-9600

(海底下構造について)

地球内部変動研究センター
海洋底観測研究グループ   グループリーダー   木下   正高
電話:(046)867-9323
研究推進室長 楢木暢雄
電話:(046)867-9590

(報道について)

経営企画室
報道室長   大嶋   真司
電話:(046)867-9193