平成19年2月26日
独立行政法人海洋研究開発機構

大陸形成のメカニズム 地殻の改変を解明
~我が国の大陸棚限界の延長への貢献に期待~

1. 概要

海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)地球内部変動研究センター(センター長 深尾 良夫)は、マリアナ海域において人工震源(エアガン)と海底地震計(OBS)を用いて地下深部(地殻とマントル)構造の調査を実施しました。その結果、海洋地殻から大陸地殻への進化の一面を明らかにすることができました。

この地殻進化過程の解明は、同様の進化過程をたどると見られる伊豆小笠原海域の地殻にも適用できると考えられ、我が国の大陸棚限界の延長を主張する地学的な背景の一つとなる可能性があります。

この結果は、2月27日(米国時間)に米国科学誌Geologyに掲載されます。

2. 背景

地球上には、比較的軽い岩石を多く含む大陸地殻(*1)とこれと比較して重い岩石で構成される海洋地殻(*2)とがあります。また、地殻同士の衝突や沈みこみによってできる島弧(とうこ)と呼ばれる弧状の地塊が分布しています。

伊豆小笠原海域やマリアナ海域に分布する島弧は、 約5000万年前に一方の海洋地殻がもう一方の海洋地殻の下に沈みこむことによって形成された海洋性島弧と考えられています。ところが、1996年の調査(Suyehiro et al., 1996)では、伊豆小笠原海域北部の海洋性島弧の地殻には、花崗岩や安山岩を主とした大陸性の地殻物質を多く含むことが確認されました。同海域は海洋地殻で囲まれており、島弧が形成される以前には大陸地殻は存在しなかったと推測されることから、海洋性島弧の地殻に大陸性の地殻物質がどのように形成されるのかは、これまで明らかになっていませんでした。

3. 調査の方法

本調査は2003年に、小笠原諸島の南方約1000 kmの海域において、当時の海洋科学技術センター(現 海洋研究開発機構)、東京大学地震研究所、ハワイ大学、スタンフォード大学、ワシントン大学の連携による日米共同研究(Multi-Scale Seismic Imaging of the Mariana Subduction Factory, 日本側代表:当機構理事 末廣 潔)の一環として実施されました。当機構の海洋調査船「かいよう」(写真1)を用いて、106点の観測点に海底地震計(写真2)を設置し、大容量エアガン(写真3)を用いて海面で音波を発振させました(図1)。その音波による信号は、地殻やマントルを通って海底地震計に記録されます。このデータを解析し、海底下の音波速度分布を通して、地殻やマントルの内部構造を調査します。

4. 成果

1.  これまでは、海洋性島弧の地殻に大陸性の地殻物質が存在することしか明らかになっていませんでしたが、本調査で得られた音波速度データと岩石の典型的な音波速度データとの比較により、西マリアナ海嶺とマリアナ島弧には、(1)上部地殻、中部地殻、下部地殻に分類される地殻が存在すること、(2)花崗岩や安山岩を主とした大陸性の地殻物質を含む肥大した中部地殻(緑色部分、音波速度が6.0~6.9㎞/sの箇所)が存在すること、(3)マントル最上部(薄い紺色部分、音波速度が7.6~7.7㎞/sの箇所)は地殻物質とマントル物質が混在していることなどが判明しました(図2)。

2. 中部地殻に含まれる大陸性の地殻物質は、岩石学的な地殻分化モデル(*3)に基づき、マントルから上昇してきたマグマを起源とする海洋地殻の分化により生成されたと考えられます。

3. 本調査で得られたデータによる下部地殻の体積と、同じく本調査で得られたデータによる上部地殻と中部地殻を合わせた体積から地殻分化モデルを用いて計算した下部地殻の体積との間に差を生じることから、一部の地殻物質が地殻からマントルへと移動し、地殻から除去されるシステムがあることも明らかになりました(図3)。

以上のことから、海洋地殻から大陸地殻への「地殻の改変」を伴う地殻の進化過程が明らかになりました。

5. 意義と今後の発展

 「地殻の改変」による大陸地殻が、空間的にどの程度の広がりで存在するのか、あるいは、それが連続的であるか否かを知ることは、大陸棚画定のための地学的な背景の一つとなる可能性があります。当機構は、「大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議」における「大陸棚画定に向けた基本方針(2004年8月決定)」に基づき、海上保安庁との連携のもと、2004年から「大陸棚画定調査に資する地殻構造探査」として、所有する海洋調査船を用いて伊豆小笠原海域北部より地殻構造探査を行っています。今後は伊豆小笠原海域全域に対象を広げて、「地殻の改変」の把握を進めていく予定です。


お問い合わせ先:

(本発表文について)
地球内部変動研究センター
地殻構造解析研究グループ
サブリーダー高橋 成実電話:045-778-5372
研究推進室
室長楢木 暢雄電話:046-867-9590
(報道について)
経営企画室 報道室
室長大嶋 真司電話:046-867-9193