平成19年4月23日
独立行政法人海洋研究開発機構

海水を長期間、自動で採集することに世界で初めて成功
〜海洋の二酸化炭素吸収メカニズムの解明に期待〜

1.概要

海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)むつ研究所(青森県むつ市)は、海洋の持つ大気中の二酸化炭素(CO2)の吸収能力を把握するために、カムチャッカ半島南方沖の太平洋域において、自動採水装置を用いて長期間にわたって海水を採集することに、世界で初めて成功しました。

本装置による自動採水の成功により、地球温暖化の主要因となっているCO2を、海洋が、どのぐらいの量を、どのようなメカニズムで吸収しているのかを詳細に解明することが可能となります。

今回の成果は、4月24日発行の日本海洋学会誌Journal of Oceanography 63巻3号(6月号)に掲載されます。

2.背景

CO2等の温室効果ガスによる地球温暖化が国際的な社会問題となっていますが、地球規模でのCO2の動向を正確に把握するためには、地球表面積の約70%を占め、大気中のCO2の約60倍もの量を貯蔵している海洋のCO2吸収過程、および海洋内でのCO2の循環過程を把握する必要があります。

カムチャッカ半島南方沖の北太平洋域は、深層の海水が湧き上がり、豊富な栄養分が深層から海洋表層へ供給される海域に相当し、植物プランクトンの光合成活動をはじめとする生物生産活動が活発で、CO2吸収能力が高いとされています。

このような海洋のCO2吸収過程や海洋内でのCO2の循環過程は季節ごとに大きく変動するので、その詳細を把握するためには、長期にわたる高頻度の海洋データの取得が必要です。しかし、このような観測は、これまで海洋観測船によって行われており、高頻度で観測を行うことはできませんでした。また、海洋観測船では、荒天のときに、採水などの観測作業ができないという問題もありました。

これらを解決するには、自動で、連続して、長期間にわたりデータやサンプルを収集する自動観測装置、試料採集装置の開発とその運用が熱望されてきました。

3.自動採水装置について

今回使用した装置は、自動的に採水を行うことを目的としたもので、深さ数千mの海域でも、係留索によって海底から係留することができます。採取した海水を収めるサンプルバックを48本搭載し、予め設定したスケジュールに従って海水を自動的に採水するので、一度設置を行えば、長期間、高頻度に採水を行うことができます(図12)。

当研究所では、2001年から本装置を外洋域に設置し自動採水を開始しました。当初は設置・回収時に装置が破損したり、採取した海水が変質するなどの問題がありました。また、水深約5200mにもなる外洋域において、希望する水深に装置を設置することも困難をきわめました。

これらの問題に対して、装置の設置作業方法の改善、装置をとりつける係留索の設計や係留資材の変更、また採取した海水の変質を防ぐため、海水保存実験を基に防腐剤の改良などを行いました。

これら改善を経て、2005年3月17日、海洋地球研究船「みらい」により自動採水装置(図2(a))をカムチャッカ半島南方沖約800kmの北太平洋域(北緯47度、東経160度、水深5,200m、図3海域図参照)に設置しました。同年9月に同装置を一時回収し、採集された海水サンプル・データの回収、新しいサンプルバックの装着、電池交換等の保守作業を行った後、再設置しました。そして2006年5月30日に同装置の回収を行いました。この結果、水深約40mの海水が1年以上にわたって4〜8日毎に自動的に採水されたことが確認されました。(写真参照)このような高頻度の自動採水が成功したのは世界で初めてのことです。

4.測定の結果

採集された海水の化学分析の結果、以下のことが確認されました。

(1)

海水中の植物プランクトンの栄養分(硝酸塩とケイ酸塩)が、春から夏にかけて植物プランクトンの増殖に伴い減少し、秋から翌年の春にかけて冬の冷却混合により増加している様子が詳細に捉えられました(図4)。

(2)

(2) 6月下旬から7月にかけて、海水中のケイ酸塩濃度の急激な低下と、水深150mで捕集装置(図2(b))に採集された沈降粒子中の固体ケイ酸塩(オパール)の急激な増加がほぼ同時に発生していることが観測されました。このことから、植物プランクトン(珪藻)の殻となっていたオパールが、珪藻の死後に沈降し、表層から深層に迅速に運ばれている様子も明らかとなりました(図5)。このことは、珪藻が光合成によって取り込んだ二酸化炭素も迅速に海洋の内部へ輸送されていることを意味します。

5.今後の展望

今回の観測により本装置の有用性が確認されるとともに、海洋におけるCO2吸収メカニズムの解明に役立つデータの取得が可能となりました。

今後は北太平洋域において本装置を水中光測定装置、沈降粒子捕集装置のような他の自動観測装置と長期間併用することで、総合的な海洋学データを収集し、より詳細なCO2吸収能力、循環過程を把握する予定です。また、地球規模の海洋観測のために、諸外国の研究機関と協力し、様々な海域で同様の観測研究を実施する予定です。

お問い合わせ先:

(本発表文について)
むつ研究所研究グループサブリーダー本多牧生電話:046-867-9502
むつ研究所研究推進グループ吉川泰司電話:0175-45-1030
(報道について)
経営企画室報道室長大嶋真司電話:046-867-9193