2010年 6月 18日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)IPCC貢献地球環境予測プロジェクトの松野太郎特任上席研究員(東京大学名誉教授、北海道大学名誉教授)に、本日、世界気象機関(※1)より「世界気象機関IMO賞」(※2)を授与されることが決定されましたのでお知らせいたします。本受賞は日本人で初めてとなります。
この受賞は、世界気象機関本部で開催された執行理事会の決定によるものです。
「世界気象機関IMO賞」は、世界気象機関における最高の賞であり、気象学、気候学、水文学やそれに関連する分野の進展、並びにそれらの国際的な活動の推進において多大な貢献を成した科学者に贈られます。松野特任上席研究員の受賞は、1956年の第1回から数えて57人目の受賞となります。
松野特任上席研究員は、特に大気力学の分野における研究の発展や、日本における気候研究の推進、さらに「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」や世界気象機関を含む数多くの国際的な活動に貢献しました。今回の受賞は、これらの功績が評価されたものです(別紙参照)。
※世界気象機関
世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25(1950)年に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26(1951)年より国際連合の専門機関の一つとして活動しています。平成22(2010)年3 月31 日現在、183 か国と6領域が構成員として加盟しています(日本は昭和28(1953)年に加盟)。
※2 IMO
「国際気象機関」の略で、世界気象機関の前身にあたります。
参考:気象庁報道発表資料
別紙
氏名 | 松野太郎(英文論文著者名:Taroh Matsuno) |
生年月日 | 昭和9(1934)年10月17日 |
現所属名、職名 | 独立行政法人 海洋研究開発機構 IPCC貢献地球環境予測プロジェクト 特任上席研究員 |
学歴
昭和32(1957)年 | 3月 | 東京大学理学部卒業(物理学科、地球物理学コース) |
昭和34(1959)年 | 3月 | 同上大学院修士課程修了(数物系研究科地球物理学専攻) |
昭和37(1962)年 | 3月 | 同上博士課程退学 |
昭和41(1966)年 | 5月 | 理学博士学位取得(東京大学) |
職歴
昭和37(1962)年 | 4月 | 東京大学理学部 助手 |
昭和41(1966)年 | 6月 | 九州大学理学部 助教授(物理学科・大気物理学) |
昭和46(1971)年 | 6月 | 東京大学理学部 助教授(地球物理学科・気象学) |
昭和59(1984)年 | 4月 | 同上 教授 (同上) |
平成 3(1991)年 | 4月 | 東京大学気候システム研究センター 教授(センター長) |
平成 6(1994)年 | 10月 | 北海道大学大学院地球環境科学研究科 教授 |
平成 9(1997)年 | 10月 | 宇宙開発事業団/海洋科学技術センター 地球フロンティア研究システム システム長(兼任) |
平成10(1998)年 | 3月 | 北海道大学 教授 定年退官 |
平成10(1998)年 | 4月 | 宇宙開発事業団/海洋科学技術センター 地球フロンティア研究システム システム長(専任) |
平成16(2004)年 | 4月 | 独立行政法人海洋研究開発機構 IPCC貢献地球環境予測プロジェクト 特任上席研究員 |
現在に至る。この間、 | ||
昭和43(1968)〜昭和44(1969)年 | 米国ワシントン大学大気科学科 客員研究員 | |
昭和44(1969)〜昭和45(1970)年 | 米国プリンストン大学地球流体力学プログラム 客員研究員 |
|
昭和52(1977)〜昭和53(1978)年 | 米国国立大気研究センター(NCAR)客員研究員 |
松野太郎博士の主な功績
松野太郎博士は、気象学、特に大気力学の分野における研究の発展に大きく寄与し、また、気候研究、特に地球システムモデルの開発の分野で強いリーダーシップを発揮し、多くの活動を行ってきた。その功績から、松野博士は日本学士院会員、米国気象学会名誉会員に選ばれている。以下に、松野博士の主な業績を示す。
1.気象学の研究における業績
松野博士は、特に大気力学において重要な研究成果を得た。その一つは「赤道波の力学」に関する成果であり、様々な熱帯域の大気や海洋の波動(赤道波)の存在を理論的に示すことに成功した。ここで理論的に示された赤道波は、実際に大気や海洋に存在することが確認されるとともに、例えばエルニーニョ現象の盛衰などにおいて重要な役割を担っていることが後に示された。もう一つの顕著な研究成果として、「成層圏の力学」に関する理論的研究、特に成層圏における突然昇温のメカニズムの解明が挙げられる。
これらの顕著な研究成果に対し、松野博士は昭和45(1970)年に日本気象学会賞、平成9(1997)年に日本学士院賞、平成11(1999)年には米国気象学会ロスビー研究メダルを受賞している。
2.気候研究の推進
気象学において顕著な研究成果を挙げるとともに、松野博士は、その幅広い見識のもとに、気候研究、特に温暖化予測研究の推進において、強いリーダーシップを発揮した。自ら研究プログラムを主導すると同時に、日本における研究拠点の設置に尽力した。例えば東京大学気候システム研究センターのセンター長としての活動、地球フロンティア研究システムの設立と、システム長としての活動が挙げられる。その活動の中でも、地球シミュレーターを用いて実施された温暖化予測のための研究結果は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書」に大きく貢献した。
更に、松野博士は、熱帯域の気象を正しくシミュレートすることを目的として従来の積雲対流パラメタリゼーションを用いず、直接個々の積雲対流を数値予報モデルにおいて計算する「全球雲解像度モデル」を用いた研究の推進に取り組んでいる。海洋研究開発機構をはじめとする若手研究者をリードして行っているこの先進的な研究は、温暖化予測のための数値予報モデル(地球システムモデル)の改善に重要な役割を果たす可能性があるとともに、熱帯の気象を直接モデルで扱うことにより日常の天気予報や季節予報に用いる数値予報モデルの予測精度の改善にも資する可能性がある。
これらの多くの研究推進に資する活動に対し、松野博士は、平成4(1992)年に日本気象学会藤原賞を受賞している。
3.気象/気候研究に関する国際活動への貢献
松野博士は、気象/気候研究に関する多くの国際活動に参加し、貢献してきた。例えば、IPCC第4次報告書第1作業部会における査読編集及び政策決定者向け要約の作成や、統合報告書の作成に対する活動が挙げられる。また、世界気候研究計画(WCRP)の科学委員会委員(昭和61(1986)〜平成6(1994)年)や、「気候研究のための世界モデリングサミット(平成20(2008)年)」の組織委員会委員などを務め、気候研究の推進に大きく貢献した。また、世界気象機関執行理事会のためのタスクチームの一つである「気候/気象/水/環境予測の枠組みのための研究的タスクチーム」の委員として、同執行理事会の活動に貢献した。