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プレスリリース

2013年 8月 1日
独立行政法人海洋研究開発機構

有人潜水調査船「しんかい6500」世界周航研究航海について(経過報告)
~カリブ海英領ケイマン諸島沖での調査~

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、海洋の極限環境に生息・発達する多様な生物群の調査・研究の一環として、平成25年1月から有人潜水調査船「しんかい6500」及び支援母船「よこすか」を用いて、インド洋、大西洋、太平洋の高温熱水域などの特異かつ極限的な海洋環境域に成立する生態系について、地球的規模の調査・研究のための研究航海「航海名称:QUELLE(クヴェレ)2013」を実施しております(平成24年12月13日既報)。

このたび、カリブ海英領ケイマン諸島沖における調査が終了しましたので、その実施概要について御報告いたします。

なお、「しんかい6500」は、主電池交換など整備のために一時日本に帰国(8月2日に到着予定)し、その後10月~11月にかけて、南太平洋のトンガ海溝・ケルマディック海溝の調査を実施する予定です。

※本航海に関する研究成果については、論文等にまとまった段階で公表します。

1.カリブ海英領ケイマン諸島沖における調査目的

当機構では、深海の極限環境で化学物質をエネルギー源とした生態系(化学合成生態系)や海底下の生命圏に関する総合的な研究に取り組んでいます。その一環として今回、ケイマン諸島沖の中部ケイマン海膨にある、水深5,000m以深の世界最深の深海熱水域を中心に、以下の目的で調査に取り組みました。

なお、当該熱水域での有人潜水船による調査は世界で初めて行われたものです。

(1)
水温が400℃近い熱水域において、生命の生育温度の限界を更新する極限微生物の探査
(2)
調査が進んでいない熱水域における化学合成生物群集の探査とその生息環境の調査
(3)
過去に太平洋と大西洋がつながっていたことに由来する、両海洋の群集の特徴を備えた特異な生物群集の探査

2.実施概要(別添地図参照)

カリブ海英領ケイマン諸島沖 中部ケイマン海膨(水深2,200m~5,200m)

(1)
実施期間: 6月17日~ 7月3日
(2)
実施内容:中部ケイマン海膨における世界最深熱水域を含む、異なる熱水活動域における化学合成微生物生態系の成り立ちの解明
  1. 有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査
  2. 有人潜水船を用いた科学調査に対する、世界で初めてとなる一部始終のノーカット生中継(海底映像含む)
  3. 海上における海底地形の観測
(3)
結果概要:
  1. 世界最深部(水深約5,000m)に存在する深海熱水域(ビービ熱水域)において世界で初めて有人潜水艇による科学調査をリアルタイムで中継し、30万人以上の人々に「有人潜水船による科学調査の醍醐味や躍動感、感動」を体験していただきました。
  2. 中部ケイマン海膨における二つの熱水活動域(ビービ熱水域、フォンダム熱水域)の熱水には極めて高濃度の水素が含まれることが明らかになり、蛇紋岩化反応(※)の影響を強く受けている可能性が示されました。
  3. どちらの熱水域の熱水も、これまでの太平洋、大西洋、インド洋の中央海嶺系の熱水が持つ化学的特徴と異なる性質を有していることから、熱水活動の原動力となる海底下の熱水循環や熱水反応に関する詳細な研究を行う予定です。
  4. 超低速拡大する海嶺系の熱水活動域における化学合成微生物生態系についての研究は世界で例がなく、水素をエネルギー源とする化学合成微生物生態系(ハイパースライム)が存在するかどうか、これまでに知られるハイパースライムと似たタイプかどうか、を焦点とした今後の研究が期待されます。
  5. 大西洋型熱水化学合成生物の存在は確認されましたが、パナマ地峡を横断したと考えられる明確な太平洋型熱水化学合成生物を見つける事はできませんでした。また、極めて生物多様性に乏しい熱水生物群集であることが分かったことから、その理由について今後研究を進めていきます。
(※)地下深くに存在するマントル上部の構成物質であるかんらん岩などに含まれるかんらん石(構成鉱物)が、比較的高温で水と反応し変成作用を受けて蛇紋石(構成鉱物)およびそれを主体とする蛇紋岩に変化すること。その変性作用の副産物として水素が生成されることが知られている。

なお、カリブ海における調査は、英国・サザンプトン大学等との共同研究として実施しています。

写真1 0万人が視聴したビービ熱水域のリミカリス・ハイビサエが群がるチムニー
30万人が視聴したビービ熱水域のリミカリス・ハイビサエが群がるチムニー
写真2 フォンダム熱水域のチューブワーム。太平洋からの移住者ではない模様
フォンダム熱水域のチューブワーム。太平洋からの移住者ではない模様
写真3 フォンダム熱水域のエメラルドと称される背中が緑色したエビ
フォンダム熱水域のエメラルドと称される背中が緑色したエビ
写真4 約400℃の高温を記録したビービ熱水域のブラックスモーカー
約400℃の高温を記録したビービ熱水域のブラックスモーカー
写真5 「地獄への穴」と名付けられたフォンダム熱水域の高温熱水噴出孔から高温熱水
を採取する様子
「地獄への穴」と名付けられたフォンダム熱水域の高温熱水噴出孔から高温熱水 を採取する様子

本調査航海の調査海域図(カリブ海英領ケイマン諸島沖 中部ケイマン海膨) (Connelly, D. P., et al. (2012) Nature Communication, 3:620 DOI: 10.1038/ncomms1636より改編)

図 本調査航海の調査海域図

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
海洋・極限環境生物圏領域 プログラムディレクター 高井 研
電話:046-867-9677
電子メール:kent@jamstec.go.jp
(報道担当)
経営企画部 報道室長 菊地 一成 電話:046-867-9198