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プレスリリース

2017年 9月 25日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第369次研究航海の開始について
~白亜紀における豪州の気候とテクトニクス~

国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、「豪州における白亜紀の気候とテクトニクス」(別紙参照)を実施するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号(※2)の研究航海が9月26日から開始されます。

本研究航海では、グレートオーストラリア湾およびナチュラリスト海台近傍のメンテーレ海盆(図1)を掘削し、採取された堆積物コアや基盤岩コアの地質学的、岩石学的、地球化学的研究を行うことで、白亜紀という超温暖期における南半球高緯度の気候について理解すること、白亜紀海洋無酸素事変における南半球高緯度の海洋環境を明らかにすること、さらに中生代のゴンドワナ超大陸の分裂とそれに関連した火成活動やナチュラリスト海台の形成史を解明することを目的としています。

この研究航海には日本、米国、欧州、ブラジル、中国、インド及びオーストラリアから計31名の研究者が乗船し、うち日本からは3名が参加予定です

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。平成15年(2003年)10月から平成25年まで実施された統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)の後継にあたるプロジェクト。


JOIDES Resolution ©IODP

※2 ジョイデス・レゾリューション号

IODPの科学掘削に米国が提供するライザーレス掘削船。日本が提供する地球深部探査船「ちきゅう」と比べて浅部の掘削を多数行う役割を担う。

別紙

白亜紀における豪州の気候とテクトニクス
-白亜紀・超温室時代の南半球高緯度の気候変動とテクトニクスの履歴-

Australia Cretaceous Climate and Tectonics
- Tectonic, paleoclimate, and paleoceanographic history of the Mentelle Basin and Naturaliste Plateau at southern high latitudes during the Cretaceous -

1.日程(現地時間)

  第369次研究航海

平成29年9月26日
研究航海開始(首席研究者が乗船)
平成29年9月27日
日本からの研究者がオーストラリアのホバートにて乗船(数日の準備の後出港)
グレートオーストラリア湾およびメンテーレ海盆において掘削
平成29年11月26日
オーストラリアのフリーマントルに入港

なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する研究者(氏名50音順)

氏名 所属/役職 担当研究分野
黒田 潤一郎 東京大学/准教授 堆積学
長谷川 卓 金沢大学/教授 無機化学/有機化学
Maria Luisa Tejada 海洋研究開発機構/研究員 岩石学

3.研究の背景・目的

オーストラリア大陸南西沖ナチュラリスト海台近傍のメンテーレ海盆では、およそ1億年前~8千万年前の海底堆積物が海底下に眠っています。この時代は白亜紀の中頃にあたり、地球環境が特に温暖であった「超温室時代」です。中でも高緯度は現在よりも著しく気温・水温が高かったというデータが得られており、現在と全く異なる海洋循環や気候システムが駆動していた可能性があります。白亜紀にこの海域は南緯60度付近にあったとされ、温室地球の気候や海洋循環を知る上で重要な場所であるにもかかわらず、これまで白亜紀の情報が不足していました。今回の航海では、この海域の白亜紀堆積物を海盆内の様々な水深(800~4000m)のサイトで掘削し、その堆積物を分析することで白亜紀という超温室時代における南半球高緯度の海洋環境を復元し、気候変動を解明することを目的とします。また、この超温室地球環境がいつ始まり、どの程度の期間継続したのか、その間にも短期的にも寒冷化が起こったり、それによって南極氷床が一時的にでも発達したのか等、多くの疑問を解決するための情報が得られると期待されます。

白亜紀の中頃(およそ9千万年前)には地球史上の大イベントである海洋無酸素事変2(Oceanic Anoxic Event 2)が起こりました。海洋無酸素事変とは、海洋中~深部の酸素濃度が低下し、世界中のさまざまな海域で有機炭素に富む黒色頁岩が堆積した地球環境イベントです。このイベントは、何らかの原因で海洋の鉛直循環が停滞し、海洋中~深層に酸素が供給されにくくなったことが示唆されていますが、そのトリガーが何かについては現在も盛んに議論されています。今回の調査海域でも黒色頁岩の回収が予想されています。メンテーレ海盆で回収される黒色頁岩と、グレートオーストラリア湾で回収される黒色頁岩を比較することで、この海洋無酸素事変の時に南半球高緯度で顕著な海洋循環の変化や気候変動(温暖化/寒冷化)が起こったのかについて検討し、この未解明の大イベントについて理解を深めます。さらに、今回の航海で掘削が実施される海域は、新生代で開いたタスマン海峡の履歴を知る上でも重要な場所であるとともに、得られた堆積物試料から新生代の気候進化史の理解が深まることも期待されます。

メンテーレ海盆の基盤岩である火山岩と直上の中生代の堆積物からは、ゴンドワナ超大陸の分裂について多くの情報がもたらされるかもしれません。オーストラリア大陸を含むゴンドワナ超大陸は数回のステップで分裂したと言われていますが、そのタイミングや、分裂に関連した火成活動の特徴、さらにはナチュラリスト海台を形成した火山活動についても掘削試料から多くの情報が得られると期待されます。

【参考】
Exp.369のサイト
http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/australia_climate_tectonics.html
Scientific Prospectus
http://publications.iodp.org/scientific_prospectus/369

図1
図1 本研究航海の掘削サイトの位置
(同一サイトで複数の孔を掘削する場合もあり、掘削孔数とサイト数は一致しません)

表1 本研究航海の掘削サイト・孔の一覧(掘削順)

サイト・孔名 水深 目標掘削深度 掘削作業
予定日数
WCED-4A3,046m570m5.4日
MBAS-8D3,901m1,200m20.7日
MBAS-4B2,801m880m10.3日
MBAS-9A861m1,200m10.7日
※以下、状況により実施する可能性がある予備の掘削サイト
MBAS-8B3,901m1,200m18.0日
MBAS-4C2,801m880m13.6日
MBAS-6A1,211m1,200m14.4日
MBAS-3C3,131m1,500m25.5日
MBAS-5B2,711m750m11.6日

WCEDはグレートオーストラリア湾の掘削サイト、MBASはメンテーレ海盆の掘削サイトを示す。
(なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって掘削サイトを変更する場合があります。)

*図1は下記より引用したものを改変

IODPウェブサイト
http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/australia_climate_tectonics.html
参考:IODP Copyright Statementt
http://iodp.tamu.edu/about/copyright.html
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海の科学計画について)
地球深部探査センター 科学支援部長 江口 暢久
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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