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プレスリリース

2017年 11月 24日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第372次研究航海の開始について
~ヒクランギ沈み込み帯における地すべりとスロースリップイベント~

国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、「ヒクランギ沈み込み帯におけるガスハイドレートが引き起こす地すべり及びスロースリップイベントの発生メカニズムの解明にむけた掘削コアの採取と検層」(別紙参照)を実施するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号(※2)によるIODP第372次研究航海(以下「本研究航海」という。)が11月26日から開始されます。

本研究航海では、ニュージーランド北島沖のヒクランギ沈み込み帯(図1)において、地すべり堆積物やガスハイドレート(※3)を含む堆積物を掘削し、地質学的、地球物理学的、地球化学的な解析から、堆積体が地すべりを起こす過程で、ガスハイドレートの特性や安定性の変化がどのように関与してきたのかを解明することを目的としています。

さらに、本研究航海の後、来年3月に同じ海域で行われる予定のIODP第375次研究航海では、スロースリップ(※4)に関連する断層やプレート、堆積物の掘削、掘削孔内への長期観測装置の設置によって、スロースリップの発生メカニズムや堆積物や岩石、流体が物理的、化学的にどのように変化したのかを明らかにすることを目的としています。本研究航海では、IODP第375次研究航海で行われる掘削にむけて、事前に検層データを取得します。

本研究航海には日本、米国、欧州、ニュージーランド、オーストラリア、中国、韓国及びインドから計29名の研究者が乗船し、うち日本からは3名が参加予定です。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。平成15年(2003年)10月から平成25年まで実施された統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)の後継にあたるプロジェクト。


JOIDES Resolution ©IODP

※2 ジョイデス・レゾリューション号

IODPの科学掘削に米国が提供するライザーレス掘削船。日本が提供する地球深部探査船「ちきゅう」と比べて浅部の掘削を多数行う役割を担う。

※3 ガスハイドレート

メタンやエタン、二酸化炭素等のガスと水分子が、低温・高圧環境下で氷状に結晶化したもの。

※4 スロースリップ(ゆっくりすべり)

通常の地震よりもゆっくりとした断層すべりの一種で、地下の断層がおよそ一日以上の期間をかけてゆっくりとすべる地殻変動現象。プレート境界地震等、プレート境界近傍の断層運動を理解する上で重要と考えられている。

別紙

ヒクランギ沈み込み帯におけるガスハイドレートが引き起こす地すべり
及びスロースリップイベントの発生メカニズムの解明にむけた掘削コアの採取と検層

Creeping Gas Hydrate Slides and LWD for Hikurangi Subduction Margin:
coring and logging while drilling to unravel the mechanisms of creeping landslides and
subduction slow slip events at the Hikurangi subduction margin, New Zealand

1.日程(現地時間)

  第372次研究航海

平成29年11月26日
研究航海開始(首席研究者が乗船)
平成29年11月27日
日本からの研究者がオーストラリアのフリーマントルにて乗船
(数日の準備の後出港)
ニュージーランド北島沖ヒクランギ沈み込み帯において掘削
平成30年 1月 4日
ニュージーランドのリトルトンに入港(研究航海終了)

なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する研究者(氏名50音順)

氏名 所属/役職 担当研究分野
尾張 聡子 千葉大学/大学院生(博士課程) 無機化学
高下 裕章 東京大学/大学院生(博士課程) 孔内計測/物理特性
Hung Yu Wu 海洋研究開発機構/技術研究員 孔内計測/物理特性

3.研究の背景・目的

ニュージーランド北島はオーストラリアプレート上にあり、その東方には太平洋プレートが沈み込むことによりヒクランギ沈み込み帯が形成されています。このヒクランギ沈み込み帯には、トゥアヘニ地すべり堆積体と呼ばれる海底地すべりによる堆積物が分布していますが、その最下部の深度は、ガスハイドレートが安定して分布する深度の最下部と一致しています。これは海底地すべりの発生メカニズムにガスハイドレートの特性や安定性の変化が密接に関連しており、特にガスハイドレート濃集層が長い時間をかけてゆっくりずるずると変形するクリーピングと呼ばれる現象が海底の不安定化の度合いに影響している可能性を示唆します。本研究航海ではトゥアヘニ地すべり堆積体の3地点(図1のTLCサイト)を掘削し、ガスハイドレートのクリーピング現象や、過去に起きた海底地すべりとの関係を明らかにすることを目的としています。

また、同海域内で来年3月に行われる予定のIODP第375次研究航海では、スロースリップによってずれ動いた断層や上盤プレート、海域に流入する堆積物の掘削や、掘削孔内への長期観測装置の設置を行い、ヒクランギ沈み込み帯におけるスロースリップの発生メカニズムだけでなく、スロースリップイベントに伴い変化する堆積物や岩石の物性や化学組成、温度特性を明らかにすることを目的としています。そのため本研究航海では、IODP第375次研究航海の掘削地点でもある3地点(図1のHSMサイト)において事前に掘削同時検層を行い、データの共有を行います。

【参考】

IODP第372次研究航海のウェブサイト

http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/hikurangi_gas_hydrate_slides.html

Scientific Prospectus

http://publications.iodp.org/scientific_prospectus/372/index.html

図1
図1 本研究航海の掘削サイトの位置
赤丸がトゥアヘニ地すべり堆積体の掘削地点であるTLCサイト(図2)、黄丸がヒクランギ沈み込み帯の掘削地点であるHSMサイト(図3)。
図2
図2 TLCサイトの詳細
図3
図3 HSMサイトの詳細

表1 本研究航海の掘削サイト・孔の一覧(掘削順)

サイト・孔名 水深 目標掘削深度 作業予定日数
TLC-04B 731m 205m 4.4日
HSM-15A 2,735m 600m 2.1日
HSM-01A 1,005m 650m 1.8日
TLC-02C 575m 135m 1.1日
TLC-03B 691m 165m 1.1日
HSM-05A 3,549m 1,200m 4.9日

なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって掘削サイトを変更する場合があります。

*図1~3はIODPウェブサイトより引用したものを改変

IODP JRSO・Expeditions・Creeping Gas Hydrate Slides and Hikurangi LWD(図1)

http://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/hikurangi_gas_hydrate_slides.html

IODP Expedition 372 Scientific Prospectus(図2及び3)

http://publications.iodp.org/scientific_prospectus/372/372SP.PDF

参考:IODP Copyright Statement

http://iodp.tamu.edu/about/copyright.html

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本研究航海の科学計画について)
地球深部探査センター 科学支援部長 江口 暢久
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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