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プレスリリース

2017年 12月 20日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

南海トラフの浅部超低周波地震発生域は付加体先端部の
地震波の低速度域と一致
~浅部超低周波地震発生の構造要因の特定に期待~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地震津波海域観測研究開発センターの利根川貴志研究員らは、国立研究開発法人防災科学技術研究所と共同で、南海トラフ付近に展開されている地震・津波観測監視システム(※1、以下「DONET」という。図1)の広帯域地震計と水圧計のデータから、海底でのレーリー波(※2)の変位/水圧を測定することで、DONETの各観測点下における1次元S波速度構造(※3)を推定しました。その速度構造から、付加体(※4)先端部の深さ5〜10 km付近にS波速度が低下する領域が、南海トラフ沿いに新たに2箇所あることを発見し、また、その分布が浅部超低周波地震(※5)の震央分布と良く一致することを明らかにしました。

これまでの研究では、熊野灘の付加体先端部1箇所でのみ、低速度域と浅部超低周波地震の発生域の一致が報告されていました。しかし、その一致が熊野灘だけの局地的なものなのか、その他でも確認されるような普遍的な現象かはわかっていませんでした。

浅部超低周波地震は琉球海溝や十勝沖でも発生しています。そのため、本研究で発見された超低周波地震と低速度域の関係性は、他の海域での浅部超低周波地震発生の構造要因の調査に重要な役割を果たすものと期待されます。また、地震波の低速度域は、津波の高さや陸域で観測される強震動に影響を及ぼしている可能性もあり、影響評価を進める必要があります。

なお、本研究はJSPS科研費JP15K17753からの助成を受けて実施されたものです。

本成果は、英科学誌「Nature Communications」電子版に12月11日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:Sporadic low-velocity volumes spatially correlate with shallow very low frequency earthquake clusters
著者:利根川貴志1、荒木英一郎1、木村俊則1、中村武史2、中野優1、鈴木健介1
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター、2. 国立研究開発法人防災科学技術研究所

2.背景

熊野灘の付加体先端部の内部には、高精度地震探査の結果から地震波速度がその上下と比較して遅くなる領域(低速度域)が深さ5〜8 km付近に存在しており、この低速度域には流体が存在する可能性も指摘されています。また、南海トラフに沿って、付加体先端部では浅部超低周波地震が空間的にクラスター状(スポット的)に発生していることが知られています。熊野灘の付加体先端部でも超低周波地震の発生領域が存在しており、その場所が構造探査で発見された低速度域に一致することも報告されています。しかし、浅部超低周波地震は四国沖や紀伊半島沖でも発生しており、それらの発生領域と低速度域の有無はまだよくわかっていませんでした。

プレート境界付近で発生する浅部超低周波地震を含めたゆっくり地震は、地震発生帯固着域の歪みの蓄積に影響を与えうる重要な現象と考えられており、これらのゆっくり地震の発生には、地下に存在する流体が関係していることが指摘されています。また、付加体先端部の低速度域は流体の存在によって形成されていると考えられています。そのため、低速度域の探索は、浅部超低周波地震の発生様式の解明にも重要な役割を果たすと期待できます。

そこで本研究グループでは、南海トラフ付近の海底に設置されたDONETの広帯域地震計と水圧計の記録を用いて、各観測点下の1次元S波速度構造を推定し、低速度域の有無を解析しました。DONETは熊野灘だけでなく紀伊半島沖から四国沖にかけても展開されています。また、海底観測から信頼度の高い浅部超低周波地震の震源分布も推定されており、DONETの観測点下で浅部超低周波地震が発生していることもわかっています。そのため、四国沖や紀伊半島沖においてDONET下の地震波速度構造を推定し、もしそこに低速度域が発見できれば、浅部超低周波地震の発生領域との空間的な関連性をより確固たるものにすることが可能となります。

3.成果

得られた1次元S波速度構造は、大局的にはS波速度が深さとともに単調に増加するものでした(図2)。しかし、これまで観測されていた領域(図3,D)に加えて、新たに付加体先端部の2箇所の領域(図3,A及びB)で深さ5〜10 km付近にS波低速度域が見つかりました。

また、本研究で用いた手法で速度異常域が本当に検出可能かどうかを調べるために、高速度域・低速度域の厚さや深さを変化させて計算機シミュレーションも行いました。その結果、速度異常域が1 kmよりも厚く、深さ10 kmより浅いところに存在すれば、本手法で検出可能であることを確認しました。このことは、本研究で検出した低速度域は厚さが1 kmよりも厚く、浅部に存在していることを示唆しています。過去の高精度地震探査の研究から、低速度域の厚さは1〜2 km程度と考えられます。

さらに、観測結果で得られた低速度域の速度の低下量と浅部超低周波地震の震央分布を比較すると、速度の低下量が大きい領域(図3、濃い赤色:A, B, D)で浅部超低周波地震が発生していることがわかります。また、低下量が小さい領域(図3,C)では浅部超低周波地震の活動度が低いこともわかります。つまり、熊野灘で確認されていた低速度域と浅部超低周波地震の対応は、熊野灘のみの局地的な現象ではなく、南海トラフで広域にわたって確認できる現象であることがわかりました(図4)。

4.今後の展望

日本周辺で発生している浅部超低周波地震は、広域かつ稠密な定常地震計観測網が展開されていることから捉えることができた一方で、海外ではほぼ見つかっていません。これは、海外での広域・稠密・定常な地震計観測網が不足しているか、他の沈み込み帯では起きていないことが原因と考えられます。

本研究では、地震計と水圧計の記録を使用してS波速度構造を推定しました。現在、世界中で地震計と水圧計を併設するような海底観測が行われつつあります。そのため、本研究で開発した手法が他海域の観測に役立つ可能性があり、実際に適用して付加体先端部に低速度域を見つけることができれば、そこで将来的に浅部超低周波地震が発生する可能性を示唆できることになります。

また、本研究で特定したスポット的に存在する低速度域は、比較的大きな地震のときに、津波の高さや陸域で観測される強震動に影響を及ぼしている可能性があります。そのため、今後、高精度地震探査や広域かつ稠密に展開された海底観測網によって、より精度の高い地下・海底下構造を推定し、低速度域の分布・広がり・速度低下量を調査していく必要があります。そして、これらの構造を計算機シミュレーションなどに取り込み、津波や強震動への影響をより詳細に評価していくことが重要です。

※1 地震津波観測監視システム(DONET):海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、文部科学省の委託事業として、JAMSTECが開発し南海トラフ周辺の深海底に設置したリアルタイムでデータを伝送するシステムである。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400mの海底に設置した「DONET1」は2011年に運用を開始している。また、潮岬沖から室戸岬沖の水深1,100~3,600mの海底に設置した「DONET2」は2016年3月末に整備を終了した。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、地殻変動のようなゆっくりした動きから大きな地震動まで様々な海底の動きを観測することができる。 DONETは、DONET2の完成をもって2016年4月に国立研究開発法人防災科学技術研究所へ移管し、現在運用されている。DONETで取得したデータは、気象庁等にリアルタイムで配信され、緊急地震速報や津波警報にも活用されている。

※2 レーリー波:地球表層を伝播する表面波の一種。地震によって発生する。また、大気や海の波が固体地球を揺することでも発生し、脈動と呼ばれている。巨大地震によって励起されるものは非常に長い距離を伝播する(約10,000 kmほど)。

※3 一次元S波速度構造:ある場所での深さごとのS波速度構造。本研究の推定には、地球表層を伝播するレーリー波(表面波の一種)を使用した。海底観測において、レーリー波は地震計と水圧計で観測することが可能だが、一つの観測点でレーリー波伝播時における海底での変位と水圧の比(変位/水圧)をとり、その周波数依存性を調べることで、その観測点下のS波速度構造を調べることが可能となる。また、このレーリー波は地震が起きたときに発生することが知られているが、さらに、大気や海の波によって固体地球が揺すられたときもレーリー波が発生することがわかっている。本研究ではこれらの二種類のレーリー波の変位/水圧を測定し、得られた二つの速度構造の結果を比較することで、低速度域の存在の信頼性が高いことも確認している。

※4 付加体:日本の南岸沖では、フィリピン海プレートが南海トラフから西南日本下に沈み込んでおり、その沈み込み時にフィリピン海プレートの上にのっている海底堆積物が上盤側にはぎ取られるため、南岸沖から日本列島下にかけて付加体が形成されている。この付加体やフィリピン海プレートは、プレート境界浅部の近傍で発生する地震活動に大きく関連する。

※5 浅部超低周波地震:通常の地震よりもゆっくりとした断層すべりの一種で、放出される地震波は通常の地震よりも低周波(数十秒)に卓越している。フィリピン海プレートの深さ30 km付近でも超低周波地震が発見されているが、海域の付加体近傍で起きていることから「浅部」とつけられている。巨大地震が起きる可能性のある固着域よりも浅部で発生する。

図1

図1 DONETの観測点分布(▲)、黄色線は海底ケーブル、ピンクの太線は東南海(東側)・南海(西側)の想定震源域を示す。

図2

図2 各観測点におけるS波速度構造。図1の青色で示した観測点下のS波速度構造をL1の測線にプロットし、同様に、水色の観測点のものはL2、ピンクの観測点のものはL3、赤色の観測点のものはL4にプロットした。低速度域が無くS波速度構造が単調増加しているものを黒・灰色で速度構造を示し、低速度域が見つかったものを赤・青・水色・ピンクで速度構造をプロットした。
 L1, L2, L4では、付加体先端部(A, B, D)において、S波速度が海底から下に向かって上昇(右方向に変化)し、深さ4 km付近から下降(左方向に変化)し、さらに深さ6〜7 km付近から上昇(右方向に変化)していることがわかる。この左方向に凸のくさび形の構造が低速度を示す。その一方で、L3のCでは低速度域(くさび形の構造)は確認できないことが見て取れる。

図3

図3 低速度域の分布と海底観測によって決定された浅部超低周波地震の震央。低速度の大きい観測点を赤色で示した。水色(DONETの記録で決定されたもの)・青色(臨時海底観測の記録で決定されたもの)は浅部超低周波地震の震央を示す。

図4

図4 低速度域の分布と浅部超低周波地震の震源の概念図。低速度域は南海トラフ沿いに点状に分布し、浅部超低周波地震の震央分布と一致する。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地震津波海域観測研究開発センター 研究員 利根川 貴志
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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