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プレスリリース

2018年 4月26日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

国際深海科学掘削計画(IODP)第376次研究航海の開始について
~海底熱水鉱床深部の物質移動と海底下生命圏~

国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、「ブラザーカルデラ熱水サイトにおける物質移動:島弧下マントルの覗き穴~揮発性物質・金属元素移動および初期生命の生成条件~」(別紙参照)を実施するため、米国が提供する科学掘削船ジョイデス・レゾリューション号(※2)の研究航海が5月5日から開始されます。

本研究航海では、ニュージーランド北方の火山諸島であるケルマデック弧に位置するブラザーカルデラ熱水サイト(図1)において、最大で海底下800 mの深度まで掘削し、コア試料に対する記載岩石学的・地球化学的・岩石物理学的および微生物学的解析と掘削孔への物理検層を組み合わせることにより、これまで現場で直接観察することが困難であった海底熱水鉱床深部におけるメタンガス、二酸化硫黄や二酸化炭素等の揮発性物質の移動や鉱床を形成する金属元素の移動、並びに初期生命誕生の条件特定にもつながる極限環境下における海底下生命圏への影響解明を目的としています。

本研究航海には日本、アメリカ、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、中国及び韓国から計30名の研究者が乗船し、うち日本からは3名が参加予定です。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。

※2 ジョイデス・レゾリューション号
図1
JOIDES Resolution ©IODP

IODPの科学掘削に米国が提供する掘削船。日本が提供する地球深部探査船「ちきゅう」と比べて浅部の掘削を多数行う役割を担う。

別紙

ブラザーカルデラ熱水サイトにおける物質移動
島弧下マントルの覗き穴 ~揮発性物質・金属元素の移動および初期生命の生成条件~

Brothers Arc Flux
Gateway to the subarc mantle: volatile flux, metal transport,
and conditions for early life

1.日程(現地時間)

IODP第376次研究航海

平成30年5月5日
研究航海開始(首席研究者が乗船)
平成30年5月6日
日本からの研究者がニュージーランドのオークランドにて乗船(数日の準備の後出港)
ニュージーランド北方のケルマデック弧に位置するブラザーカルデラ熱水サイト(NWC-1A、UC-1A、WC-1A)において掘削
平成30年7月5日
オークランドに入港

なお、航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する研究者(氏名50音順)

氏名 所属/役職 担当専門分野
高井 研 海洋研究開発機構/分野長 微生物学
野崎 達生 海洋研究開発機構/グループリーダー代理 硫化物岩石学
Iona McIntosh 海洋研究開発機構/ポストドクトラル研究員 岩石物理学

3.研究の背景・目的

プレートの運動と相互作用によって海底に形成される中央海嶺(※1)や沈み込み帯上部の海洋性島弧(※2)あるいは背弧海盆(※3)等においては、火山活動に伴う熱水循環系によって海底熱水鉱床が形成されています。これまで無人探査機を用いた海底面上の調査が精力的に行われてきましたが、海底下へのアプローチは掘削調査以外に難しく、特に海底下数百mにおける物質移動や化学反応プロセスについては不明な点が多く残っています。そこで、本研究航海ではニュージーランド北方のケルマデック弧に位置するブラザーカルデラ熱水サイトを対象として、最大で海底下800 mに達する掘削調査を実施することにより、

(1)海底熱水鉱床を形成する熱水流体への火山性ガスのインプットの検証
(2)海底熱水鉱床を形成する金属元素の海底下および熱水流路における分布の把握
(3)海底下で起こっている水―岩石反応(変質作用)やそれに伴う元素移動、特に火山性ガスに含まれる炭素や硫黄の物質移動の定量化
(4)高温・高圧・酸性・有害金属元素濃度の高い極限環境下における微生物圏の拡がりおよび代謝経路の解明

を目指します。特に、本研究航海では海洋性島弧の熱水サイトに特徴的な高濃度の揮発性物質(ガス成分)の起源を解明し、マグマに由来する水の寄与を掘削により直接観察するのが究極的な目的です。このような海底熱水鉱床深部における物質移動プロセスが解明されれば、より浅部における物質移動や金属元素の沈殿、すなわち鉱床の形成プロセスが解明されることが期待されます。また、海底熱水鉱床深部における物質移動は、地下微生物圏の拡がりや代謝機構とも関連していると考えられますが、海洋性島弧の熱水に特徴的な酸性かつ溶存金属元素濃度の高い極限環境下は初期生命誕生の場に類似していることから、その環境条件の解明が期待されます。さらに、海洋性島弧の海底熱水鉱床は、陸上の斑岩銅鉱床、浅熱水性鉱床、火山性塊状硫化物鉱床の成り立ちと類似していると見なすことができることから、これらの鉱床の成因解明にも貢献することが期待されます。

※1 中央海嶺
大洋のほぼ中央に南北に連なる幅広い海底山脈で、地球内部のマントルの上昇流により海洋地殻を含むプレート(海洋プレート)が形成され、拡大している場と考えられている。代表的なものとして、大西洋中央海嶺、東太平洋海嶺、中央インド洋海嶺等がある。

※2 島弧
プレートの沈み込みに伴い上盤プレートに形成される火山性の弧状列島。中でも海洋プレート間の沈み込みによって形成されるものを海洋性島弧という。

※3 背弧海盆
プレートの沈み込みに伴い、島弧を挟んで海溝と反対側に形成される海洋底であり、例として日本海が挙げられる。

図1

図1 本研究航海の掘削サイトの位置

表1 本研究航海の掘削サイト・孔の一覧(掘削順)

サイト・孔名 水深 目標掘削深度 作業予定日数
NWC-1A 1,464m 405m 13.0日
UC-1A 1,232m 800m 19.8日
WC-1A 1,765m 565m 16.8日

(航海準備状況、気象条件や調査の進捗状況等によって掘削サイトを変更する場合があります。)

*図1はIODPウェブサイトより引用したものを改変
IODP JRSO・Expeditions・Brothers Arc Flux
https://iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/brothers_arc_flux.html
【参考】IODP Copyright Statement
http://iodp.tamu.edu/about/copyright.html

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海の科学計画について)
地球深部探査センター 科学支援部長 江口 暢久
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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