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プレスリリース

2020年 9月 30日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人東北大学大学院理学研究科
国立大学法人東北大学災害科学国際研究所

無人機を用いた海底地殻変動の多点長期観測に成功
―高時間分解能での地震発生帯の現状把握に大きな進展―

1. 発表のポイント

自動自律航行する無人観測機を用いて、日本海溝沿いの海底地殻変動観測点14点を約40日かけて巡回し、データを収録することに成功。
これまで船舶の使用が不可欠だった、GNSS-音響測距結合方式の海底地殻変動観測のコストを大幅に削減することが可能に。
観測頻度を上げることが現実的になり、プレート境界浅部(海溝軸近傍)での固着・すべりの時間変化の検出が期待できる。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門の飯沼卓史主任研究員らは、東北大学大学院理学研究科の日野亮太教授及び東北大学災害科学国際研究所の木戸元之教授らとともにGNSS()-音響測距結合方式の海底地殻変動観測(図1、以下「GNSS-A観測」という。)を無人海上観測機「ウェーブグライダー」(図2)によって実施するシステムを開発し、複数の観測点に沿って無人機を巡回させることにより、多くの地点での観測データを1ヶ月あまりの間に自動で取得することに成功しました(図3)。

従来、有人船舶もしくは係留式のブイを用いることが不可欠だったGNSS-A観測では、その高い運用コストが観測体制の充実における課題となってきていましたが、無人機を用いた観測の実現により、1観測あたりのコストを1/10以下にまで削減が可能です。

今後、無人機を活用することで海底地殻変動観測の頻度を高めることができれば、海溝型大地震の発生を繰り返す海域下での海陸プレート境界で蓄積された歪を解消する過程の実態が詳しく明らかとなり、巨大地震の発生可能性評価の信頼度を大幅に向上させることができると期待できます。

本研究の一部は、JSPS科研費JP19H05596の助成を受けて実施されたものです。

3. 背景

日本列島周辺の海域では、1944年昭和東南海地震、1946年昭和南海地震や2011年東北地方太平洋沖地震のような巨大地震が繰り返し発生し、大きな津波によって甚大な被害をもたらしてきました。このような海溝型巨大地震は、沈み込む海洋プレートが陸側のプレートと固着していることによって生じる歪を解放する過程の一つであり、プレート境界のどこがどの程度の強さで固着しているかを把握できれば、生じ得る地震の規模や発生間隔についての重要な情報を得られます。

しかし、これらの地震を発生させるプレート境界面は海底下にあります。特に、巨大津波の発生を左右するプレート境界の浅い部分は、海洋プレートが沈み込み始める日本海溝や千島海溝、南海トラフや相模トラフなどの、陸から離れた海溝軸近傍に位置しているため、海底での地殻変動観測データが無ければ、そこでの固着やすべりの状況を把握できません。

これまで、海上でのGNSS観測と海上-海底間の音響測距とを組み合わせた、海底地殻変動観測(GNSS-A観測)が開発され(図1参照)、日本列島周辺に多数の観測点が設置されてきました。その結果、日本海溝沿いの海域では東北地方太平洋沖地震の地震時の地殻変動が数十mに達したことが明らかにされたり、地震後の地殻変動場の空間的なパターンが、地震時に大きなすべりが発生した領域(宮城県沖)とその南北で明らかに異なることが示されたりと、海溝型巨大地震の発生過程の解明に重要な知見が数多くもたらされてきました。

従来、GNSS-A観測を実施するためには、有人の船舶が用いられてきました。JAMSTECでは、いくつかの船舶の船底に音響測距用の機器を設置し、GNSS-A観測が可能な態勢を整えてきました。しかし、これらの船舶を用いた観測航海の実施には多数の人員を要するとともに、多量の燃料も必要となります。観測にかかるコストが高いことは、海底地殻変動観測の頻度を上げて、広域におけるプレート境界での固着・すべりの状況を精度よく、また、高時間分解能で把握するための妨げとなってきました。

そこでJAMSTECは、東北大学と共同で2018年度から無人海上観測機「ウェーブグライダー」を用いてGNSS-A観測を行うシステムの開発を開始し、試験観測を行ってきました(図2参照)。ウェーブグライダーは波浪を推進力に変えて自動自律航行する無人機で、観測機器の作動・制御や自身のナビゲーションに必要となる電力は太陽光パネルによって賄われ、燃料の補給を要せず長期間海域での運用が可能な、海上観測プラットフォームです。2019年7月に実施した約4日間の試験観測の結果を踏まえて、2020年6月から7月にかけての約40日間で、東北大学が2012年以降に設置した20点余りの観測点のうち、15点の海底地殻変動観測点を巡回してGNSS-A観測を行うことを目標とした実海域試験を実施しました。

4. 成果

6月21日にG04観測点で傭船からウェーブグライダーを投入し順次観測を行った後、別の航海で7月28日にG14観測点で傭船から揚収しました。途中、天候に恵まれず太陽光パネルによる発電量が減少した時期があったために、揚収航海までの日数が足りなくなってしまい、1観測点(G13)における観測を断念することにはなりましたが、残りの14観測点において、GNSS-A観測を実施することができました(図3参照)。

揚収したウェーブグライダーから観測データを回収し、予備的な解析を行ったところ、GNSS-A観測を実施した14の観測点すべてにおいて、海底地殻変動を検出するために必要な品質のGNSSデータ、音響測距データ及び機体の姿勢データが収録できていることがわかりました。また、暫定的な解析結果からは、船舶を用いた場合と同程度のばらつきで海底局アレイの位置を推定できていることが示されました(図4)。詳細な結果を得るには、今後精密な解析を実施する必要がありますが、ウェーブグライダーによるGNSS-A観測を多数の観測点を巡回する形で実施し、データの収録に成功した事例は世界的にも例がありません。

約40日間の運用に要した費用は、船舶を使用した場合のおおよそ1/10かそれ以下にとどまっています。運航中に他船との接触を起こしたり、設定された航路を大きく逸脱してしまったりしたことは無く、機体そのものについてもGNSSアンテナ下部に設置した遮蔽板以外には損傷もありませんでした(図5参照)。また、この遮蔽板の損傷によって、取得したデータに大きな影響が出ることもありませんでした。

観測データの解析結果の詳細については、今秋行われる日本地震学会2020年度秋季大会及び日本測地学会第134回講演会において報告される見込みです。

5. 今後の展望

プレート沈み込み帯における歪の解放には、周期的(もしくは散発的)に発生する非地震性のすべりの寄与がある程度の割合を占めることが近年明らかになりつつあります。これを測地学的な観測データから検出するためには高頻度のGNSS-A観測が不可欠であり、開発を進めてきたウェーブグライダーを用いた観測システムを活用することで、今後、プレート境界浅部(海溝軸近傍)での固着状態や非地震性すべりの発生を時間的に高分解能で検出できるようになることが期待できます。また、ウェーブグライダーに搭載した機器上でGNSS-A観測データの処理を即時的に行う機能を追加することで、海底地殻変動の準リアルタイムモニタリングが可能になります。

ウェーブグライダーの航行能力には限界があるため、船舶を用いた観測のすべては代替できませんが、搭載機器へのアクセスが容易なことによるメンテナンスコストの抑制や運用にかかるコストの低廉性は、定常的なGNSS-A観測における海上プラットフォームとして、ウェーブグライダーが今後非常に有望であることを示しています。無人機を活用すべき場面と有人船舶を用いる場面との住み分けが進むことで、より効率的に海底地殻変動観測が実施される体制が構築されていくことが期待されます。

【補足説明】

Global Navigation Satellite System(全地球航法衛星システム):
米国のGPS(Global Positioning System)に代表される、人工衛星を用いた測位システムの総称。欧州のGalileoやロシアのGLONAS、日本の順天頂衛星システムなどが含まれる。
図1

図1 GNSS-A観測の模式図。海上の船舶やブイなどの海上プラットフォームの位置をGNSS観測により決定するとともに、海底に設置した海底局(音響トランスポンダー)の位置を音響測距によって計測する。

図2

図2 海域で運用中のGNSS-A観測用のウェーブグライダー。2019年7月の試験観測の際に撮影したもの。前後にGNSSアンテナが、中央部には風向・風速計及び自動船舶識別装置のアンテナが設置されている。

図3

図3 ウェーブグライダーの航跡図。G04観測点で投入し、G14観測点にて回収した。

図4

図4 GNSS-A観測によって得られたG02観測点の座標値の分布。1分おきに行った音響測距のデータごとに推定された、海底局アレイの中心位置をプロットしてある。赤と青はウェーブグライダーを用いて行った観測(赤が今回、青が昨年)によって、また、緑は船舶(「よこすか」)を用いて行った観測によって、それぞれ得られたデータを解析して推定した結果。

図5

図5 今回の観測航海終了後、回収されたウェーブグライダー。前後に搭載したGNSSアンテナ直下に設置してあった、反射波や衛星通信用電波を遮蔽するための樹脂板が破損していたものの、収録されたGNSSデータには大きな影響は無かった。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター 地震予測研究グループ
主任研究員 飯沼 卓史
国立大学法人東北大学
大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
教授 日野 亮太
災害科学国際研究所 災害理学研究部門
教授 木戸 元之
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 広報課
国立大学法人東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
国立大学法人東北大学災害科学国際研究所
広報室 中鉢奈津子・鈴木通江
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