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話題の研究 謎解き解説

東アジアの人為的CO2排出量の過大評価を補正する新しい手法と知見

【目次】
東アジアにおける炭素収支の問題
大気化学輸送モデルとメタンを利用した新たな手法で、CO2排出量を推定
東アジアにおける化石燃料起源のCO2排出量の過大評価を補正
気候変動に関する取り組みに役立つと期待

東アジアにおける化石燃料起源のCO2排出量の過大評価を補正

数値計算の結果、東アジアでCO2吸収量増加がみられなかったのですね。その結論に至るまでを教えてください。

まず、社会経済統計による東アジアの化石燃料起源のCO2排出量が本当に不確実か確認するために、海外の3機関(CDIAC、GEO、 IEA)が公開しているそのデータベース(図8)を地表放出の値として使い、2002年~2012年のCO2排出吸収量をそれぞれ推定しました。その結果、世界の中でも特に東アジアでデータベース間の違いが大きく、推定された陸域生態系によるCO2吸収量も大きな影響を受けることが実際の計算により確認されました。

図8 東アジアにおける化石燃料起源のCO2排出量。CDIAC;Carbon Dioxide Information Analysis Center(米国・二酸化炭素情報分析センター) GEO; ヨーロッパ連合のGeoCarbonプロジェクト, IEA; International Energy Agency(国際エネルギー機関).

結構違いますね。

ならば、社会経済統計に頼らずに化石燃料起源のCO2排出量を求めたい。そこで私たちが注目したのが、先ほど話したACTMを利用してメタンの排出量を推定したパトラさんの結果です。この結果をCO2の解析と組み合わせてCO2の化石燃料起源の排出量を推定できると考えました。

CO2を推定するのに、メタン?どういうことですか?

メタンとCO2の濃度変動や排出源は基本的には独立していますが、石炭という共通の発生源があります。石炭を採掘したり燃やしたりするとメタンやCO2が排出されます。そして、中国では、石炭からの排出が化石燃料消費の大きな割合を占めるのです。図9を見てください。化石燃料起源のメタンとCO2の排出量の変動がほぼ同じ傾向ですね。

図9 中国の化石燃料起源のメタンとCO2の排出量の変化(CH4の方が量が少ないので20倍してプロット)

よく似ていますね!

はい。そのメタンについては、2016年の論文で我々は東アジアの排出量が過大評価されていることを指摘し、日本上空の航空機観測データで検証しました。これはメタンの人為起源排出のうち中国の石炭起源のメタン排出量が大きすぎるためではないかと考えています。

そこで、メタンの解析から割り出した東アジアの人為起源排出量の増加率を補正する係数をCO2排出量に掛けることで2002~2012年のCO2排出量の増加率を求めたところ、東アジアで約1.0 PgC/年増加していました(図10)。ほかの研究では増加量として1.7~1.4 PgC/年が報告されていますが、それらは0.4~0.7 PgC/年過大評価していると我々は考えます。

図10 東アジアにおける化石燃料起源のCO2排出量。赤線が本研究の推定値。ほかの研究結果よりも低い。

数値の感覚がないのですが、その過大評価の値は、大きいのですか?

近年の日本からのCO2排出量が約0.35PgC/年であることを踏まえると、東アジア全体で0.4~0.7PgC/年の違いというのはかなり大きな差といえます。

新たに推定した人為起源のCO2排出量に基づき東アジアの陸域生態系のCO2吸収量の過大評価を補正した結果が、図11の赤線です。2002年から2012年にかけては変動しながらも吸収量は増大していないことが示されました。

図11 ACTMとメタンを利用した新たな解析手法で明らかになった、東アジア陸域生態系のCO2排出吸収量

CO2の吸収量増加という先行研究を覆す結果ですね!

他のグループによる陸域植生モデルを使った論文でも確認しましたがCO2の吸収量増加は見られませんでした(緑線)。また、CO2は陸域では森林で吸収されますが、国連食糧農業機関での世界森林資源評価などによる統計も土地利用・土地利用変化による吸収に変化がないことを報告しています(図11の丸印と点線)。

他の手法でも裏付けられたのですね。

吸収量増加を指摘する論文には我々も関わっているので、それを否定する結果に、「う~ん」という気持ちと、「やっぱり過大評価されていたよね」という安堵感が入り混じって複雑でした。