今回紹介するのは、こちらの研究成果です。
成層圏赤道準2年周期振動(QBO)の崩壊イベントの再現に成功
―季節予報改良への新たな期待―
論文タイトル:First Successful Hindcasts of the 2016 Disruption of the Stratospheric Quasi-biennial Oscillation.
前編では、JAMSTEC、ハワイ大学、オックスフォード大学の研究者からなる国際研究チームが、世界に先駆けてコンピュータによるQBO崩壊現象の再現に成功したことを紹介しました。後編では、その成功のカギについて聞きます。
【目次】
▶ 大気の層を薄く切ることがカギ
▶ 2つのモデルのハイブリッドとして開発したJAGUAR
▶ 季節予報を改良する新たなオプション
私たちが2000年代前半から10年以上かけて開発してきた高分解能気候モデル「JAGUAR」(Japanese Atmospheric General circulation model for Upper Atmospheric Research)を使って、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」(写真1)で大規模な計算をしたことが、最終的に成功につながりました。
そもそも数値実験を行うには、大ざっぱにいうと、地球大気を細かく区切り(図1)、その区切り一つ一つについて、様々な方程式を使って、温度、風、湿度などを時間とともにどう変化するかスーパーコンピュータで計算していきます。区切りが細かいほど精度が上がりますが、計算量も莫大に増えてしまいます。
JAGUARは、その区切りの“高さ”が細かい、つまり大気の層を非常に薄く切ってたくさん重ねているのが特徴です。区切りの高さが従来のモデルでは1~2㎞のところを、JAGUARは300mまで薄くしました(図2)。
QBOの西風と東風の境界では、狭い高度範囲で風や温度が急激に変化します(図3)。区切りが粗いと、それをきちんと表現できません。大気の層が薄ければ薄いほどより正確に表現できるようになります。それは、重力波やロスビー波などの大気波動そのものや、それらがQBOに与える影響をより連続的かつ正確に表現することにもつながります。
実は、QBO崩壊現象の再現実験を始めた当初はもう少し解像度の粗い別のモデルを使っていました。何百回も実験をしましたが失敗し、「高解像度のモデルでするしかない」とJAGUARを投入したのです。