【目次】
▶ 大気と海は常にCO2を交換
▶ 詳細が不明だった北極海のCO2吸収量
▶ カギは、クロロフィルデータの追加
▶ 面積は小さいのに、たくさんCO2を吸収
▶ 安中さんは、できたての制度で走ってきた研究者!
私たちは先行研究で、観測値のない海域のCO2吸収量を見積もる手法を開発していました。「ニューラルネットワーク」という人工知能技術を利用した推定手法を使って、衛星観測などによりデータが得られている水温、海氷密接度(海氷が覆っている割合)、塩分、大気CO2濃度などと、まばらにしか存在しない海のCO2のデータを関連付けて、観測値のない海域のCO2を推定し、大気と海洋の間のCO2交換量に変換するというものです。
今回は、新たにクロロフィルのデータを追加して、先行研究の手法を発展させる形で研究を進めました(図4)。
クロロフィルとは植物プランクトンの光合成において基本的な役割を果たす葉緑素で、海中の植物プランクトン量を知る指標になります。植物プランクトンはCO2を使って光合成をするため、植物プランクトンの評価は海のCO2交換を見積もる上で重要です(図5)。
ほかの海域でCO2交換量を見積もる際にはクロロフィルデータが使われますが、北極海には適用できていませんでした。
クロロフィルは人工衛星から海氷面の色を波長別に測定して求められます。しかし、その測定には太陽光が必須です。北極海は太陽高度が低いために光量が足りない上に、陸の影響も大きく、測定精度が良くないと考えられていたのです。
ところが2016年1月に参加したワークショップで、北極海用の計算式を使えば、人工衛星の波長データからクロロフィルをかなりの精度で算出できるという発表を耳にしたのです。JAMSTEC地球環境観測研究開発センターのエコ・シスワント研究員による研究でした。
「もしかしてできるかな」、そう考えてエコさんに協力をお願いし、クロロフィルデータを提供していただきました(図6)。
さらに、国際的な表層CO₂観測のデータベース「SOCAT」(Surface Ocean Carbon Atlas)の更新を待ってデータ量を増やし、北極海およびその周辺海域が、いつ、どこでどのくらいCO2を吸収しているか定量化しました。